07話 ミノタウロスの価値
ミノタウロス、高級設定。
アンナのスリッパ捌き(裁き?)のお陰で、漸くミノタウロスについての打ち合わせが出来る。
村の若い衆20人程に手伝ってもらい、ミノタウロスを村の中央広場に運ぶ。
「ミノタウロスをこんな間近で見る日が来るとはな。胴への一撃、いや首と合わせての二撃で仕留めたのか…。」
ミノタウロスを見て、ハンス村長が呻く。首への二撃目については、黙秘します。ミノさん、本当にごめんなさい。
「で、これを解体しろってか?解体費用は持ってるのか?」
ハンス村長が続ける。
「いや、お金は持っていないんです。ミノさ、ミノタウロスの肉は美味しいとロイ君から聞きました。丸ごと差し上げますので、何日か滞在出来るように、都合して頂けると助かるのですが。」
そう答えると、ハンス村長がまたタコマッチョに進化しそうになる。
「お前、こいつの価値が解ってんのか!?国からの褒賞金だけでも金貨100枚は出るんだぜ?何日か滞在とか、ケチな事言ってんじゃないよ!暫く遊んで暮らせるってのに、何言ってんだよッ!!」
詰め寄るハンス村長の飛沫攻撃を、顔を逸らし華麗に躱す。躱し終わってから答える。
「良いんですよ。金貨100枚なんて持ち歩いても盗賊に狙われるのがオチです。ロイ君に言われなければ、棄ててきちゃってましたから。」
褒賞金?そもそも、金貨100枚の価値が分からないから、ピンとこない。高額らしいが。
村に来る道すがら、村で使ってもらうとロイと話し合って決めていた。そもそも、ここまでは運んで(引き摺って?)来たのも、肉の味に興味があっただけだし。
「あんた、何て奴だよ…。聖人の生まれ変わりってやつじゃないか?ワシのこれまでの人生でこんなに感動したのは初めてかもしれん!!」
ハンス村長が、俺の肩を『バシン』『バシン』と繰り返し叩きながら叫ぶ。俺もこんなに強く肩を叩かれ捲るのは、人生で初めてです。聖人じゃないんで、飛沫攻撃は止めてください。
「報奨金は有り難く頂く。だが、素材の売却益はお前のもんだ。これは譲れない!!」
素材?ミノさん、肉を食べる以外に、何に使うの?
聞けば、皮は鞣して鎧などの防具に、角や爪は加工して武器になる。肉は余すことなく高級食材になり、内臓と骨は薬の材料となるそうだ。ミノさんの優秀さに驚いた。放置しようとして、ごめんなさい。
特に睾丸が人気の高級精力剤へと早変わりらしい。金持ちが金に糸目を付けずに購入していくんだそうだ。俺は必要になっても、服用しないと密かに誓う。だって、ミノさんの体臭ってハンパ無いし。そんなミノさんのアレで作った薬って…何か臭そうじゃない?
若い衆が中心に、ミノさんは解体されていく。肉のほとんどを村人に配布するように依頼した。
大きさから500キロ超は間違いない。やはり、御一人様には多すぎる。
高級食材が食べられるあって、村の大人が総出で手伝ってくれる。子供も含めると、住人は100人くらいだろうか?
いくつかのグループに別れ、肉の切り分け、運搬、調理等を行ってくれている。そこかしこでバーベキューが行われる様は、まるで何かの打ち上げのようだ。流石、高級食材、芳ばしい匂いが食欲をそそる。
ちなみに保存方法は、燻製にするか、氷室での貯蔵になるらしい。氷室とか、管理が難しそうだ。
「ほれ、お前も食え。」
「アカシも食べようよ。」
「お飲み物はエールで宜しかったですか?今日のは格別ですよ?」
「…。」
山盛りのミノさん肉を持ったハンス村長と、ロイ親子が話し掛けてくる。運搬を頑張っていた、寡黙な男も付いてきている。勝手にゴリさんと名付けていたが、どうやらロイの父ちゃんのようだ。すんません、心で謝罪しておく。
受け取ったエール(ビール?)はキンキンに冷えている。冷蔵庫とかあるのだろうか?
「夫のリックよ。」
「…。」
松阪牛も真っ青に美味しい肉に舌鼓を打っていると、アンナが話し掛けてくる。その言葉に頷くリック。何故か喋らない。目力が凄い。丸で睨み付けられているようだ。
「ほら、あなた!」
「…ロイが、…ありがとう。」
怒っているわけでは無かった。既に目線を外しているリック。顔が真っ赤だ。只の恥ずかしがり屋さんだと思いたい。男のツンデレの需要に付いて、ついつい考えてしまうのであった。
近江牛、但馬牛、前沢牛、松阪牛、米沢牛、宮崎牛、佐賀牛、飛騨牛…皆さんは何処が一番だと思いますか?私の最近のお薦めは、三田牛。