04話 ミノタウロスは毛むくじゃら
ラスボスを倒したら、中ボスが現れた!
流石に死んだな。
体が痛みを感じない。
走馬灯はまだかな?
あっちではちゃんと死亡扱いになっているかな?
行方不明だと直ぐに保険金も降りないから、家族に苦労かけるよな。
あーあ、もう一度家族に会いたかったなぁ。
『ツンツン』
頭に違和感が。突付かれてる?
「きみ、何やってんの?」
死んだと思っていたから、頭が働かない。
声を掛けられた、と数分後思い至る。漸く目を開き、そちらに顔を向ける。
そこには中学生くらいの、ソバカスが目立つ痩せた薄い金髪の白人の男の子が居た。
アラヤダ、イキテタ。ちょっと恥ずかしい。
男の子の顔をまじまじと見詰めてしまう。
覚悟はしていたが、日本人じゃない。
日本語にしか聞こえないが、どうなっているのだろうか。
「大丈夫かい?あれ、きみの?」
男の子は、赤く明滅する種を指差している。
ドラゴンゾンビが居た場所だ。所謂ドロップアイテムというやつだろうと、何故か直ぐに思い至る。
「…ああ、そうだよ。ちょっと待ってね。」
ぼんやりしたまま答える。立ち上がり、ローブの土を払う。土はかなり臭かった。恥ずかしさのため、少し顔が熱い。
「はい。」
男の子は種を拾って来て、渡そうとしてくれる。久し振りに人と会った喜びもあり、こんなちょっとしたことで感動してしまう。
「ありがとう!」
種そっちのけで、ローブで手を拭い、男の子と握手する。かなり顔が熱い。耳まで熱い。
「で、何やってたの?」
人に会った時のために考えていた言い訳が、口から出る。
「おじさんは旅人でね。色んな国を旅してるんだよ。」
男の子は一瞬訝しげな目をしたが、直ぐに気を取り直したのか、キラキラした目で見つめてくる。キラキラが眩しい。
「おじさん?おじさんにはとても見えないけど…。でも、若いのにスゴいね!冒険者ってやつ?でも、何で腐葉土の上で倒れてたの?」
おじさんには見えない?ああ、今は若く見えるんだっけ。冒険者なんて居るんだね。等と思いつつ男の子を見つめる。ドラゴンゾンビのブレスに曝された土地は、腐葉土のようになるみたいだ。言われてみれば、臭いもそんな感じだ。
「悪いモンスターと闘って、倒れてたんだよ。」
「え、モンスター!?どこにいったの!?」
男の子が焦ったように叫ぶ。焦らせてしまい申し訳無いと思い、落ち着かせるように言葉を紡ぐ。
「もう倒したから問題無いよ。大丈夫だよ。」
出来るだけ穏やかな声を心掛ける。男の子を見ると、微妙に視線が自分からずれている。
後ろを見てる?と振り返ると、牛を人化した怪物が、鼻息荒く大きな斧を抱えて立っていた。牛は牛でも、バッファローのように毛深い。獣が頑張って二本脚で立っているなぁ、と不謹慎にも思ってしまう。
「ミ、ミノタウロス…」
絞り出すように、男の子は声を出した。まだ受け取っていなかった先程の種を手から落とす。
身長は3メートルはあるだろうミノタウロスを眺めながら、牛頭じゃないんだな、とまた呑気に考えてしまう。
ドラゴンゾンビの後に見ても、何の感慨も感じない。メインディッシュの後に前菜のサラダが出てきて、今更食指が動かないような感じだ。
樹海での7日間では1度も遭遇しなかったのになぁ、と思いながら男の子を隠すように立ち上がる。
頭から手を離し、後ろに下がる合図のつもりで、後ろ手に胸を軽く2度叩く。
「き、きみ、に、逃げなきゃ。」
焦点の合わない目で呟いている。足が竦んでいるのか、動いてはくれない。それどころか、ローブを掴んで離さない。
ミノタウロスは斧を振り上げ、叫びながら襲い掛かってくる。
「ブモォウ!」
待っとけよ!と頭の中で悪態を付きながら、力を込めて剣を横一線する。
『ギィィン!』と剣と斧が衝突した金属音が鳴り響いた後には、腰辺りで上半身と下半身が泣き別れしたミノタウロスが、唖然とした表情を浮かべて転がっていた。大量に撒き散らされている血に激しい嫌悪感を覚える。
そんな顔で見られると気分が悪いと思い、剣を振り上げ、首を落とそうとする。
ザシュ!首が落ち…ない。半分も斬れていない。
絶望の表情を浮かべたミノタウロスと目が合う。
「ご、ごめんね。」
思わず謝る。
「ブモォ…。」
ミノタウロスは抗議するかのように弱々しく哭くと、絶命した。
反省しつつ、どうも力の加減が出来ていないな?などと考えてしまう。
男の子を見ると、口をパクパクさせている。
「大丈夫だったかい?」
声を掛けると、漸く我に返ったのか、叫ぶように言葉を投げ掛けてきた。
「きみ、スゲーよ!!一撃でミノタウロス倒しちゃったよ!!スゲー!スゲーよ!!」
興奮を隠せないって状態だろうか。
明滅する種を拾い、男の子が落ち着くまで暫く待つことにした。
二足歩行はバランスが大事です。