16話 獣人と衛兵のエンリケ
自分が急に力が強くなったりしたら、日常生活を送る自信はありません。
某龍の球に出る戦闘民族が急激に力を付ける度に、疑問に思ったものです。
「よし、出発するぞ!ガハハ!」
ハンス村長は浮かれたまま、馬車を出発させる。俺だけ悩むのもどうかと思ったので、悩むのは止めた。ロイには、 強いじいちゃんは人に優しく強いよね?➡そんなじいちゃんと同じくらい強くなったロイも他人に優しくしないとね?➡だから暴力は…
「絶対にダメ!分かったよ!」
ハンス村長、あなたのお孫さんはとても良い子に育ってますよ?これで、悪者でも現れない限り、ロイから人を死に至らしめるような攻撃はしないだろう。…不安だから、脳筋コンビ(犬&マッチョスキン)にも気に掛けるように言っておくか。
現在、オルトロスは今は俺の影の中に居る。こうすることでも、魔力の直接供給が可能らしい。たまには、腹からの供給しても良いんじゃぞ?等と呟きながら影に沈んでいった。脳筋(♂)ツンデレの需要について、小一時間は話し合う必要があるのかもしれない。
門に着いた。太陽の位置から考えるに、南門だ。高さ10メートル横幅7~8メートルくらいだろうか。巻き上げ式なのか、半分の5メートル付近までしか開いてはいない。門本体は黒光りしている。金属製のようだ。
異世界特有の不思議金属なのかな?全力で殴ってみたいな、と破壊衝動に駆られ、ウズウズしてしまう。こちらに来てから、変なスイッチがよく入る。駄目な傾向だ。
入門は向かって左側、歩き専用と馬車専用に別れている。右側は出る人用に空けられている。馬車専用の方に並ぶ。右横の歩き専用の人達の中には、冒険者らしき姿もちらほら見える。装備品も人それぞれで、色とりどりだ。赤や金のように目立つ色は魔物を興奮させると思うのだが、戦術の1つと考えれば有効なのかもしれない。角のある兜…魔物を刺殺するのかな?カッコ悪いとしか思えない。
馬車専用の方が並んでいる数は少ないが、荷台検査などで流れが悪い悪い。時折、衛兵により端に寄せられた俺達の目の前を猛スピードで駆け抜けていく。跳ねる気満々としか思えない。砂埃が掛かったこともあり、軽く殺意を覚えた。
貴族に対してのネガティブな感情が増していくのも仕方がないのだ。
兎に角暇でしょうがない。ロイは戻ってきたオルトロス(子犬)と戯れていて非常に楽しそうにしている。仕方がないので、御者席にいるハンス村長の横に腰掛け、会話を楽しむ。
「どうだ?グラシルの街はでかいだろ?」
「ええ、壮観ですね。黒光りする門なんて、破壊したくなりますよね?」
「おお、現役時代にワシは全力で殴った事があるが、あれは硬いぞ?魔鉄っていう魔力を帯びた金属で出来ているらしいぞ。」
おいおい、何やってるんだよ、この脳筋は。冗談で言ったのに、実践者だったよ。正に本能のままに生きているってやつなのか?
「いや~、良い音がしたぞ。ほれ、壁の上に衛兵が居るだろ?見付かって、危うく捕まりかけたわ。ガハハ!」
どんな罰則があるか分からないが…捕まってたら、反逆罪とかになったんじゃない?
「まぁ、後日バレたのか冒険者ギルドにクレームが入って大変だったわ。知らぬ存ぜぬで誤魔化したがな!あの時のギルド長の顔と言ったら…ガハハ!」
虚偽罪も追加だ。衛兵さん、このハゲマッチョを捕まえてください!
そんな下らない?会話をしながら、横を流れる人の波を見ていた。獣耳を付けている?人を時折見掛ける。風に揺られているのかピコピコと動くのだ。触りたい。猫じゃらしにじゃれつく猫のような気分だ。ついつい目で追ってしまう。
「何だ、アカシは獣人が気になるのか?お前の田舎には居なかったのか?あ、うちの村にも居ないか。ガハハ。」
獣人ですと?大いに気になります!つか、田舎者設定忘れかけてたわ。ハンス村長、オルトロスの話を聞いたよな?辻褄なんて合ってないが、説明するのも面倒だし、その設定に乗ることにした。
「ええ、これまで人族しか見たことないんですよ。田舎者は辛いです。ところで、どんな獣人の方がいらっしゃるんです?」
「ん、多いのが犬、猫、狼、熊、狐ってところか?獣人って言うと怒られちまうが、変わり種で竜人ってのも居るらしい。ワシは見たこと無いがな。ガハハ!」
竜人…そっちも気になるな。やはり、最強の種族なのだろうか?
兎に角、獣人の方とは仲良くしなければ!俺の魂がそう叫ぶのだ。
やっと入門検査の順番が回ってきた。感覚的におやつの時間といったところか。
「あ、ハンスさんじゃないですか。お久しぶりです!今日はどうしたのですか?」
「エンリケか、久しぶりだな!まぁ、報告とか素材売却とか色々だ。お前こそ、調子はどうだ?」
「悪くはないですね…。まぁ、ボチボチやっていきますよ。ハハハ。」
ハンス村長と衛兵が仲良さそうに話をしている。エンリケは、まだ20代前半のように見える。
「おっと、仕事仕事。そちらはどなたですか?」
「こいつはアカシ。うちの居候だ。怪しい奴じゃない。」
居候に間違いはないが、何だか釈然としない。まるで働いていないみたいじゃないか!まぁ、無職みたいなものだが。
「そうですか。では、身分証をお願いします。」
こちらに手のひらを出すエンリケ。反射的に手を置いてしまう。困惑顔のエンリケ。堪忍や、堪忍してや。
「何やってんだ?アカシ、身分証無いのか?」
「ええ、田舎者ですから、持っていません。」
「カーッ、そこまでとは思って居なかったぜ。エンリケ、入門料は銀貨1枚だったよな?」
頷くエンリケに銀貨1枚を投げ渡すハンス村長。穀潰しのようですみません。
その後、エンリケが荷台の見知ったロイに声を掛けて、無事に入門出来た。
「エンリケの奴、昔は良い冒険者だったんだ。だが、一年くらい前だったかな?ダンジョンの罠に掛かった仲間を庇った時に、足に大怪我したんだ。その時庇った相手…同じパーティーで、エンリケの恋人だったんだが、稼げなくなったアイツをあっさりと捨てやがってな…。」
重い、重いですよ!学生時代に似たような経験をしているから、エンリケさんを他人のように思えませんってば!
「今度、エンリケさんを誘って飲みに行きましょうよ。」
「おお、今夜にでも行くか!何にせよ、時間が掛かっちまったし、先ずは宿に向かうぞ。」
ふと見た荷台では、オルトロス(子犬)を枕にして眠るロイ君。動物虐待のように見えるが、全く問題なさそうだ。…俺も枕にしてみよう。と、その寝心地を空想しながら、思うのであった。
女性の方が現実主義とよく聞きます。
実経験上、その通りだと思うのです(泣)