14話 オルトロスの能力
名も無き修羅…汚物は消毒なのです。
『どうしたのじゃ?アカシ、返答せぬか。そうじゃ、オヌシの仲間や敵であったもの達も、ちらほらと存在を確認されておったぞ。何故か皆、大人しくしておったようじゃが。毎日のように、互いの殺戮に明け暮れておったオヌシらだのに、どうしたのじゃろうな?』
頭の整理が追い付かない。オルトロスの言葉を信じるなら、俺は3000年前、修羅の国の住人として、毎日戦闘に明け暮れていた。仲間も敵もやたらと好戦的。名も無き修羅で、1000人倒すと名を与えられるとかだったのであろうか。
普通に考えたら、そんな国が存続するとは思えない。オルトロス(子犬)に、やはり人違いではないか?と聞くと、闇の大精霊たる自分が間違えるはずがない、と自慢話も交えて熱く語ってきて長かったので、割愛。
自慢話の内容で、修羅の国々の住人達は、何度死のうが蘇り、常に全力で、地形が変わる程の戦闘を繰り広げていたそうな。聞けば聞くほど、そんな所に自分が住んでいたとは思えないし、思いたくない。
オルトロス(子犬)と話している間、ロイは黙って聞いていた。目がキラキラしていたから、楽しんでいたようだが。俺が何者か分からないのに、怖くないのだろうか。
オルトロスの話が本当だとして、その嘗ての仲間や敵達がどうなったかを尋ねてみた。
『闇魔術や呪術の類いを使わぬ限り、ワシには分からぬ。オヌシのような強力な召喚師もおらぬようだしの。呼び出されもせぬわ。闇以外の精霊共に聞けば、分かるやもしれぬが。』
暫し、考えに耽る。オルトロス(子犬)は暇になったようで、目の前でロイにじゃれついている。闇の大精霊…気が散るから止めろ。
暫くして、馬休憩に入る。軽く食事をする、と告げてから準備を始めるハンス村長。ロイは馬の世話だ。オルトロス(子犬)はロイの足許で、やはりじゃれついている。馬も子犬形態のオルトロスなら問題ないようだ。一番気にしているのは、俺なのかもしれない。
俺はというと、先程の話と自分の記憶を照合しようと、荷台から降りず、瞑想するかのように目を閉じ、熟考していた。
記憶にはやはり無いし(曖昧になっている部分が怪しいが。)、悩んでもしょうがないから、考えるのを止めた。成るようにしかならないのだから。
ロイが食事が出来たと呼びに来た。ロイの足許に居たオルトロス(子犬)を捕まえ、腕に抱き、頭を撫でながら歩き出す。最初はプルプルと震えていたオルトロス(子犬)であったが、慣れてきたのか、腕と胸に頭を埋めるように擦り付けてくる。長い付き合いになるだろうし、大事に扱おう、と心に誓う。但し、出来るだけ、と補足が付くが。
「もう大丈夫なようだな。難しい顔しても、良いことなんて無いんだ。アカシはアカシ。それ以上でもそれ以下でも無いんだ。お前が良い奴ってのは短い付き合いだが、分かってんぞ!エルフかもとは思ってはいたがな。ガハハ!!」
「アカシはアカシだよ!昔がどんなだったか知らないけど、僕の命の恩人なのは変わらないからね!!」
『オヌシ、良いもの達に恵まれておるな。オヌシはオヌシ。その通りじゃ!ガハハハハ!!』
感情のコントロールが上手くできず、涙腺が崩壊してしまう。涙が止まらない。喜怒哀楽に抗えないにも程がある。
「………。」
「アカシ…。」
『オヌシ、泣いておるのか?嘗て殲滅者と呼ばれ、敵味方全てのものに恐れられていたオヌシが…。鬼の目、いや殲滅鬼の目にも涙じゃの?…ガハ、ガハハハハ!!』
…空気を読めないオルトロス(子犬)。君、今どこにいるんだっけ?
喜怒哀楽の怒が面に出てきて、涙は止まった。止めてくれた功労者のオルトロス(子犬)には熱い抱擁を与えることにした。『アカシ、痛い!』『止めるのじゃ!!』『グフッ↓』加減してるつもりだから、多分大丈夫だろう。俺の心の痛みを分かち合おうよ。
『死にかけたわい…。ワシでも流石に圧死するわ!オヌシは加減を知らぬ!!この阿呆め。この先が思いやられるわ!』
昼食後の馬車の荷台。復活を果たし、安全地帯(ロイの膝の上)から、オルトロス(子犬)が息巻いている。確かにそこは安全だな。只、夜道には気を付けろよ?思いやられるのは、お前の行く末だ。
「ところで、オルトロス。お前、何が出来るんだよ?只の偉そうな犬としか思えんのだが。」
『むう。闇の大精霊たるワシを愚弄するとは!だが、そうじゃの、何をしたものか…。アカシ、オヌシには効かぬから、ハンスを麻痺・衰弱・混乱・盲目・眠り等の状態異常にでもして見せようかの?それとも、ここら一帯を草も生えぬような焦土と化して見せようかの?』
ロイが必死に止める。ハンス村長も聞こえているのだろう。馬車の挙動がさっきからおかしい。オルトロス、安全なのにしろよ。
『仕方ないのう。ならこれじゃ。サモンスケルトン!』
馬車の後方に闇が広がる。その中から浮かび上がるように大量のスケルトンがゆっくりと現れる。ここはグラシルの街に程近い街道。人通りも増えてきていた。そこに大量のスケルトンが現れる。勿論、道行く人は大混乱となる。正に阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
「オルトロス、早く消せ!あれは無い!駄目なやつだ!!」
『忙しい奴じゃのう。ほれ、リリース!』
バラバラっとスケルトンは崩れ落ち、そのまま空気に溶けるかのように消えた。そこら中で嗚咽が漏れ聞こえる。異臭も漂っているようだ。
ハンス村長は空気の読めるナイスガイ。馬車は速度を変えることなく進むのであった。
スケルトン、一般人より強い設定。