13話 魔力供給と3000年
脳筋同士は意気投合しやすいみたいです。
『ハンスよ、ワシの苦労を分かってくれるか。』
「苦労なさったのですな。オルトロス殿。」
起きてテントを出る。そこには子犬を敬う中年男性。中々にシュールな絵面だ。朝から嫌な物を見た。キャラ被ってんだよ、脳筋共が。
気を取り直して、顔を洗い、出発の準備をする。そこへトコトコとオルトロス(子犬)が歩いてくる。
『アカシよ、ちょっと魔力をくれぬか?』
魔力?くれと言われても、正直困る。そんな顔をしていたのだろう、オルトロス(子犬)が呆れた表情をしながら続ける。
『魔力パスを繋げるのじゃよ。こんなに近くにおるのに、一向に繋がらん。繋げ方が分からぬ訳ではあるまい。オヌシ、まさかとは思うが、そこまで阿呆になったのかの?』
ディスられているのは分かる。確信犯だな。子犬の癖に、嫌な笑みを浮かべてやがるし。朝からイライラする。やられたらやり返すのが俺の流儀だ。剣を振りながら、優しく語りかける。
「もっと分かりやすく、説明してくれるかな?言葉には気を付けてね?朝から剣の鍛練と試し斬りをしたくなっちゃうから。」
軽く素振りを始めたら、思いの外キレキレだった。衝撃波が出ているようで、剣を振る度に地面が切れ目を増やしていく。
そんな俺を絶望的な表情で見つめるオルトロス(子犬)。その顔を見て、ミノさんを思い出してしまい、少し落ち着き、素振りをやめる。
「悪い。続けてくれ。」
『お、おお、魔力を繋げるイメージで、召喚獣に向かって放出するんじゃ。どうじゃ、出来るか?』
言われた通りに試す。魔力を感じられないのだから、上手くはいかない。オルトロス(子犬)が魔力は確実にある、と励ましてくる。可愛らしい子犬に励まされる…人間の尊厳を傷つけられていく気がする。
『うーむ、何故出ぬのかの?確かにオヌシはアカシであるし、感じる魔力も昔のままだ。だが、ワシを忘れておるようだし…呪いの類いか…。しかし、ワシが分からぬ呪いなぞ、神の御業なぞでない限りあり得ぬのだが…。』
考え込むオルトロス(子犬)。首を傾げるな!可愛らしいじゃないか!
オルトロスが言うには、呪術系統の魔術は、かならず闇の力を借りて発動させる。精霊は魔術発動の切っ掛けを与えているだけだが、同じ精霊同士なら、情報共有できる。パソコンの共有ホルダーみたいなものみたいだ。
つい聞き入ってると、もう出発するとハンス村長から声が掛かる。馬車に向かおうと踵を返す。
『アカシ、待て待て。直接供給を試してみるぞい。』
徐に仰向けに転がり、腹を見せるオルトロス(子犬)。お前、わざとか?絶対に負けんぞ!
『ほれ、何をしておる。早く腹に手を置くのじゃ。』
両方の前肢で腹を指す仕草をするオルトロス(子犬♂)。…色即是空空即是色。…落ち着き、心静かに手を置いた。
体の中からズズズっと何かが抜けていくような感じがする。軽く身震いしてしまうが、直ぐに収まる。全く問題はない。
『おおおお、久し振りの良質の魔力じゃ!限界まで吸わせてもらうぞい。』
念話?ではそのように伝わっているが、いつもは寡黙を貫いていたオルトロス(子犬)だが、今は興奮しているのか、『キャンキャン』と可愛らしい声で哭いていた。俺は我慢できなくなり、心のままにオルトロス(子犬♂)を撫でくり回した。そう、ハンス村長に命じられたロイが呼びに来るまで。
どのくらいの時間が経ったのかは分からない。只、気付いた時にはオルトロス(子犬♂)は、恍惚とした表情で、だらし無く気を失っていた。流石に反省して、腕で抱いてオルトロス(子犬)を馬車の荷台に運ぶのであった。
『アカシ、直接供給も悪くないの。たまになら、ワシも構わぬぞ。』
ロイの膝の上で寛ぐオルトロス(子犬)。目を反らし、言及を避ける。誤魔化すように、俺について知っていることを尋ねる。
ロイやハンス村長に聞かれてしまうが、まぁ良いだろう。それで何か不利益を受けることになったら、人を見る目が無かったと素直に諦める。出会って間もないが、彼らは信頼に足る人物だと確信しているのだから。
『オヌシのことか?そうじゃの、オヌシは召喚師ではあったが、剣も使え、広域殲滅魔法、それに回復や補助魔法も使っておった。体術にも秀でており、ドラゴンロードを素手で殴り飛ばしておったわ。ワシが魔物なら、差詰オヌシは化物じゃな。いや、化物なんて可愛いものじゃないの。ガハハハハ。』
うん。何者か想像する前に、人かどうかも怪しくなった。そんな万能な人物、最早神ではないのだろうか?いやいや、記憶に無いからオルトロス(子犬)の言葉を鵜呑みにしては不味い。だが、今はオルトロス(子犬)からの情報は大事だし…色々と考えていたら、オルトロス(子犬)が問題発言をする。
『しかし、アカシよ。前に会ってから3000年は経っておるが、今まで何をしておったのじゃ?』
…俺の思考は停止してしまった。
既にネタバレしていますが、主人公は人外なんです!(キリッ)