プロローグ
緩い感じで書いていきます。
誤字・脱字の指摘、宜しくお願いします。
軽い目眩を覚え、力無く膝から崩れ落ちた。手から滑り落ちた何かが落ちる音が、『ガラン』と静寂の中に響き渡った。
「へ?何だここは?」
尻餅をついた状態で、状況を把握できないままに呟いてしまう。挙動不審さながらに、忙しなく首を左右に周りを確認する。
見覚えの無い…いや、何となく見覚えのあるぼんやり明るい部屋。上下左右、全て茶色といった感じだろうか。そこは体育館のような、結構な容積のある空間になっていた。
「…どこだ、ここは?何だか、見覚えがあるような気もするが…。」
落ち着こうとはしているが不安が勝っているのか、やたらと鼓動が早い。発汗もかなりしていて、正に手に汗握る状態だ。全くワクワクしてはいないのが、少し悲しい。
「つか、トランクスしか履いてないってのは、何ごとだ?」
床がやたらと冷たいので、下半身を確認してみれば、そこにはゴワゴワした肌触りのトランクスのみ。広い空間も相まって、解放感は抜群だ。
現実逃避のため、レスラー芸人の真似を振り付けありで実践してみた。一頻り騒いだが、特に腰の動きが思ったよりキレキレ過ぎて、かなり曳いてしまった。頭の片隅では、パンツ1丁なら他にも高学歴芸人とか居たな、等と考えてしまう。少し、気持ちの余裕は出てきたようだ。
落ち着いたので、先ずは手の届く範囲を確認してみる。すぐ足下に、黒い布の塊があるのが目に留まる。畳まれたようにきちんと置いてあり、床が茶色なせいもあって、発見が遅れたようだ。
手に取り、確認する。黒を基調にした丈夫そうな厚手のローブ、柔らかい素材で出来たズボンだった。勿論、色は黒だ。ローブには、藍色や灰色のような淡い色合いの糸で装飾までされていた。
最初は気付かなかったが、両手中指と両腕に指輪と腕輪が填まっていた。そこにあるのが当たり前なように感じてしまう。全て所々違う、複雑な装飾が施されていた。色は鈍い光を放つ銀色といったところか。素人目でも、かなりな値打ちモノなのが分かった。
「ローブは、目立たない感じで俺好みだな。怪しさ抜群だ。でも、ローブってどんなよ?指輪と腕輪は趣味じゃ無いけど…、まぁ邪魔にはならないな。」
床はヒンヤリとしていて、少し肌寒く感じた。呟きながらも、そそくさとローブとズボンを身に付けた。手に持った時には子供用?なんて思ってしまったが、着てみればジャストフィットだ。
ローブ等を着終わって、ようやく最初に手から落としたモノに目を向けた。
「剣だと?…銃刀法違反は大丈夫なのか?」
少し的外れなことを呟いてしまった。指輪や腕輪と同様に淡い光を放つ銀色の、所謂片手剣。勿論、見覚えは無い。
大きく深呼吸をして、漸く記憶を辿る行為を始めてみた。
「俺は…明石真。3人の子持ちで、エンジニア。年は30…何歳だ?…何か、記憶が曖昧だな。自分の事を考えると、急にモヤが掛かったように頭が働かなくなるな。記憶喪失か?…頭殴られて、拐われたのか?…しっかし、パンイチで放置とは、中々やるな。」
拐われたのが有力とは考えたが、拘束されてはいないし、指輪と腕輪の説明も付かない。1人だけで、こんな広い空間に放置プレイ…誘拐犯が居るのなら、目的が分からない。
考えれば考えるほど、思考は深みにハマっていく。
「…うん。分からんものは分からん。」
基本的に楽観主義なこの男は、悩むのを早々に放棄した。
改めて、周囲を見渡す。
滑らかな素材で造られたような茶色の大理石の様に光沢のある床。光を反射しているのではなく、床自身から淡い光を放っているようだ。壁面も天井も同様だ。
床に、大小様々な物体が落ちているのが目に写った。剣に槍、木製らしき弓に杖、鎧に盾やブーツといった防具類。指輪にネックレス、水晶玉のようなものまで落ちているのが見えた。疑問は増えるばかり。
「ははっ…。」
無意識に乾いた笑いが漏れた。
取り敢えず、落としていた剣を片手に、壁に向かう。
「出口、探さなきゃな。」
壁に辿り着き、手をつく。指先にひんやりとした冷気が伝わる。
そこを起点に時計回りに壁沿いを歩いてみる。怪我をしないように、途中落ちている物を踏まないように注意して歩いた。
5分ほどで一周できた。
「扉は1つか。」
縦横共に2メートル程の正方形の扉だ。炎を象った紋章らしきものが彫られている。取手は無い。
押戸と思い、押してみるがピクリともしない。
引くにも掴むところはないので、今度はより一層力を込めて押した。やはり、ピクリともしない。
駄目元で、体当たりしてみる。『ドンッ!』と鈍い音が響くが、扉に異常は無く、『パラパラッ』とどこからか砂の落ちるような音が静寂の中で響いた。
「仕方無い。他の脱出ルートをもう一度探してみるか…。」
壁、床をその裏に空洞が無いか、手で叩きながら丹念に調べる。天井は届きそうもないので諦めた。どこを叩いても、密度の高そうな良い音が響いた。
かれこれ半日は経過しただろうか。不思議と体力的には問題ないが、空腹と密室に閉じ込められた圧迫感や焦燥感等でイライラはピークを迎えていた。
「あー、もう!!誰だよ、こんなとこに閉じ込めたのは!!閉じ込めるんなら、最後まで面倒みろよ!!出せよ、こんちくしょうッ!扉が在るのに開かないとか、おかしいだろ!?なんだよ、こんな扉ッッ!!」
扉に向かいながら、喚き散らす。後先考えず、全力で扉を殴り付ける。
『ドゴンッッ!!』まるで、巨大鉄球でビルを破壊するかのような音と共に扉は吹き飛び、大量の砂塵が空いた空洞から勢い良く吹き込んでくる。
「ゴホッゴホッ!ゴホッ!!」
大量に舞っていた砂煙を吸い込み、派手に咳き込んでしまう。
徐々に砂塵は収まり、視界が明けるてくる。
そこには扉は無く、岩の破片と土砂があるのみ。
目を凝らすと、斜め上から光が見える。ちょうど、地下鉄階段下から地上を見上げたような感じだろうか。
「うわー、何これ?俺がやったの?…老朽化だな、うん。」
立ち上がり、砂を払いながら呟く。結果の異常さに目を奪われる。解決するとは思えない、自分の身体の異常さは棚上げにした。
岩の破片を退けながら、光に向かって進む。手には自分の所持品と思われる片手剣を持って。他に落ちていた品々は、袋が無いし嵩張るしで、泣く泣く諦めた。
足下は階段状になっていて、部屋と同じ素材で出来ているように見える。滑らないように注意して歩く。程なく光に到達した。
日光が眩しい。目を細めながら、周りを確認した。
「…おお、立派な木々ですな…。」
そこは青々とした木だらけの、所謂樹海。まだまだ苦難は続くようだ。
寂しいのは嫌いなんだな。