妹が出来行く話
前回よりは読みやすいぜ。
人の皮をかぶった血の悪臭を放つ化け物共は、群れを成して俺に向かって飛ぶように迫る。
手の内に金属を握り締めると、手の甲に光る紋様が浮かび上がり熱を帯び、そして数回の発光の後に手を開くと無骨な塊だった金属が複数の溝が刻み込まれた小ぶりのナイフに変わった。
「兄さん! まだ!?」
「今できた、受け取れ!!」
急かす二番目の妹、しいつに俺はそのナイフをぶん投げた。飛んで行ったナイフは見事にしいつのうなじに突き立てられ、硬い物に刺さったかのように柄が揺れて弦楽器の音を奏でる。
「ありがとう、兄さん、日の光に照らされた天の子ら、ここに権限せよ」
ナイフはうなじに吸い込まれてついでしいつの首筋から天に向かって光が一閃走り、天から雷が落ちてくる。標的はもちろん俺達を狙ってくる化け物共の脳天からつま先まで、一撃で黒焦げにした。
「では兄様、わたしが切り開かん、いざ! っあいざあああああああ!!!」
三番目の妹のいもみが山姥の皮をかぶり直し、勇んで一歩踏み出す、いもみの境地は道の極み、その一歩で化け物共が塵に帰り、道は開かれる、その向こう、さらに来る化け物共を粉砕しながらいもみは進んでいく。
「あにーしゃ、さおーげろ~ん」(クソ兄貴、しっかり気を持ってね、ちゅー!)
頭上を飛んでいた最初の妹のまいちが言うより早く俺の頭の中に入り込むと俺の体が前方に引かれるように浮かび、速度を上げて吹っ飛ぶ、
「しいつ、つかめ!」
「つかむわがっしり!」
「ちょっち待ってーな、いきなり何が何だかわからへんよ! 何? あの化け物何!? あれがうわさに聞いた混沌に冒された人のなれの果てかいな!? んであんちゃんはあれか? やっぱり錬金術師か? ちょっぴり亜流やからそこに分類するかはあれやけど! しいつは巫女やな? 何祭ってるかわからんけど、ほんでいもみのあれとまいちのそれはなんや! むちゃくちゃやん! 正直ウチでも知らん事ってまだあるんやなぁ、あんちゃんと一緒にいると暇せんわ」
「おい、です!」
「なんやあんちゃん!」
「しいつもまいちもいもみもお前から見たら姉だからな! お姉ちゃん的な敬称つけねえと失礼だ!」
「ツっこむとこちゃうやろ! 細かいなあ!」
左腕にしがみつかせてしいつを回収したら、おぶっているですが騒ぎ立てる、説明台詞はいいが敬称についてはしっかりとしつけてやらないと大人になった時に大変だからな。それと俺は錬金術師じゃない、兄だ、そしてまいちもしいつもいもみも、もちろんですも妹だ。それ以上でもそれ以下でもない。
金属片からナイフを作れる兄なんてそこらへんにいくらでも転がっているからな。
今いもみが拳で粉砕した化け物も元は人間で手から鉄棒味のトマトジュースを出せる兄だったような気がする、今やトマトジュースどころかミートソースだけどな。
とにかく開かれた活路をまいちに引っ張られてぐんぐん飛んでいく。そして走るいもみの背中と一定の距離を保てる速度だ、めちゃくちゃ速い、そして寒い。
「いもみ、あそこだ、あそこを今日の俺たちの家にする」
「あいわかったあああああ、ぬおおおおお!!」
「あそこ少し狭い気がするのだけどいいの兄さん?」
「ウチは狭い方が団らんって感じがしてすきやな」
「ですの意見は聞いてないわ」
「何やとお!?」
化け物どもが追い付けない辺りまで走り、魔除け結界が張り巡らされた小さい木の小屋へ行く。
いもみは小屋を問答無用で吹き飛ばした。鍵がかかっていそうだから当然壁と屋根も邪魔だし入れないからな、地面さえあれば十分だ。俺が作る。
口の中を噛み、血を地面に落としながら念じれば地面から壁が現れて俺たちの周りを守るようにそびえたつ、これでひとまずは大丈夫だろう。
あの化け物共に捕まったら最後、存在を食い殺されて外側を奪われる、この世に存在できなくなった中身はどこかに消えてなくなって後に残るのは混沌に乗っ取られた身体だけ。
あんな風には鳴りたくないぜ全く。
「兄さん、対処法はあるの? わたしはこの辺の事に関して全く知らないから教えてほしいのだけど」
「こちらも同じくだ、山で篭もっていたから私にも何が何だかさっぱりだぞ」
「そんなの簡単だ、混沌の発信源に行ってぶっ潰せばいいんだよ、でも今は少し休ませてくれ、結構からかなりにかけて眠い、というか少し噛まれた」
「はーなってん! あにーしゃ!!?」(へっ!? 大丈夫なのクソ兄貴!?)
「そんなに驚くなまいち、だいじょうぶだ、寝てりゃ治るはずだ」
俺の体の中から首だけ出したまいちが俺に心配そうな視線を向ける、だが大丈夫だ、突然の襲撃で脱出の際に腕を少し噛まれただけで、浄化はしっかりと食らわせた、特に問題はない……はずなんだが傷口はじくじくと熱を持ったように熱い、動かすだけでそこから体の中のエネルギーが持っていかれているかのように。
魔力脈をやられたのかもしれない、少し寝て自然修復するのを待ちたい。
「んじゃ、俺はちょっと寝るんで少しの間の休憩って事で」
俺は妹たちにそう言ってごろりと地面に横になり、目を閉じる。
さてさて、どうしたものやら。
「寝てる? 寝てるみたいね、じゃあじゃんけんで決めましょうか」
「やああおろん、いもーしゃん、こ」(望むところだよしいつちゃん、クソ妹)
「わ、わたしは別にどうでもいいんだが」
「んなこと言うて、あんたも一緒がいいんやろ? 遠慮したらあかん、姉妹やしな」
一瞬寝たと思ったが数分寝ていたようでそんな声で俺の意識は浮上した。
ちらりと目を開いてみると妹たちが向こうで輪になって何かをしている、じゃんけん……とか言ってたな。
なんでじゃんけんを? さっぱりわからん。
今は術の行使後で副作用で神経が過敏になってるから寝ようにも寝れねえ。
妹を持つのは大変なもんだなあ、元からだけど。
と、ここで俺は何だか予感がした。何なのかよくわからないが、とてつもなく嫌な予感が。
じゃんけん大会する妹たちにはこの予感がないようだが、兄としての俺の勘は告げている。
寝るといった手前ちょっとあれだが出なきゃいけねえようだ。
騒ぐ妹たちを残し、俺は土の壁を抜ける。
途端に光、周りの景色が切り替わる、そして次の時には俺は胸に痛みを覚えた。
辺りには混沌に包まれた元人間しかいねえ、さらわれたみたいだな。
そしてさらった本人は俺の前に浮いていた。
最低限の部分だけを隠す黒い布を体に巻き、露出狂の如く空中に浮く幼女が俺を見下ろしている。
不遜な態度と妖艶な容姿が見た目の年齢にあってないがそれはそれでいい。
こいつが混沌の中核だ、兄の勘でわかる、それと兄の予感でわかったってことは――
「おお、にいに、初めましてだよ、アタシが妹なんだよ、すごいよ、ぐうぜんよ」
この混沌も俺の妹って事だ。
次回には続かないが次回のようなものは書いていく