第7話:カルとククルとロペス一家
編集完了[2018-22:13]
今日は、昨日の夜に教師(アイザックを始めとする家族全員)たちがカルとククルの訓練合流を認めてくれたということを2人に伝えるべく、朝の日課(走り込みや素振り、筋力トレーニングなど)を手早く済ませて河原へと向かっていた。
日の傾き方からして、午前9時ごろだろうか。無意識のうちに急ぎ過ぎたみたいで、少し息を切らせながら昨日2人と出会った場所へと到着した。
『流石に早過く来すぎたかな?』と思っていると、町の方からカルとククルが歩いてくるのが見えた。
2人は僕に気がついたらしく、競争するように駆け寄ってくる。
駆け寄ってくるなり「おはよ!どうだった!?」と興奮しながら聞いてくるカルと「おはよ〜」と言って手を振りながら苦笑いを浮かべているククル。
あまりに相対的な反応に軽く吹き出してしまったが、2人はそんな僕の様子に顔を見合わせながら首を傾げていた。
「あぁ、ごめんごめん。昨日の夜に父様たちに聞いてみたら良いよって言ってたよ。後、父様たちが必要なの準備してくれるみたい」
かぶりを振り、ニッコリと笑いながらそう言う僕にカルとククルは「……マジ?」「わぁお……」と目を丸めていた。
僕が「あ、今日からでもいいみたいだよ?」と、追撃を繰り出した時には2人は顔を見合わせながら固まっていた。その様子にまたクスリと笑ってしまった。
「まさか今日からでもいいなんてなぁ…」
「本当にね……2ヶ月くらい待たないとダメかなって思ってたのに」
と年に似合わずしみじみと呟く2人。
「それは僕も同じだよ。まさかあんなに乗り気だなんて思わなかったもん。今日起きたらピカピカの練習用の武器とか、訓練用の服とかが置いてあったんだよ?一晩の間に準備したなんて本当にびっくりした」
思わずウンウンと同調してしまったが、その時に一番聞かないといけないことを忘れていることを思い出した。
2人が意図してその話題を避けているのかはわからないが、やはりそれに関しては聞かざるをえないと思った。
「……ねぇ。2人は許可をもらってるの?」
「「もらってないぜ(わ)!」」
「なんでそんなに堂々と言えるの!?」
「というか、父さんにも母さんにも言ってないぜ。後で怒られるかもしれないけど、そん時は一緒に怒られてくれるよな?」
「うわぁ……」
堂々と胸を張って言う割には、カルの表情は非常に悪い顔であったとだけ言っておこう。
とりあえず、今朝家を出る前に父様たちが「2人を呼んで来れるなら呼んできて」と言っていたので、早速2人を家へと招待することにした。
2人は河の上流側に来ることがあまりないらしく、あちらこちらに目を向けてははしゃいでいた。
僕の「さ、着いたよ」と言う言葉も聞こえないくらいに2人は僕の家を穴があきそうなくらい見つめていた。
「どうしたの?」
「いや…大きいだろうなぁと思ってたんだが、予想以上にデカくてびっくりした」
「…うん。協会の倍以上あるよね、クロウちゃんのお家」
自分でも大きい方なのだろうなとは思っていたが、2人の様子を見ると大き過ぎるのではないかと思ってしまった。
『それにしても協会かぁ…。回復手段はたくさん欲しいし、今度行ってみよっかな?』と、今まで母様やエリーたちの付き添いでしか行ったことのなかった村に少し興味が湧いてきた。
ギギィ…と音がしそうでしないよくわからない金属の門を潜ると、それを見越していたかのようなタイミングでリリーが裏庭に続く道から現れた。
リリーは片方の眉を少し上げると、優雅にお辞儀をして家の中に入っていく。
その様子にカルとククルと一緒に不思議に思っていると、突如として家の中が騒がしくなり、エリーたち3人を引き連れた父様と母様が早足でーーー早足なのは母様だけで、父様はそれに遅れないように足を早めているだけだーーー家から出てきた。
「よく来てくれたな。まさか今日来るとは思っていなかったが、詳しいことは家の中で話すとしよう。時間はある「貴方達が昨日クロウちゃんの言ってたチャールズの子供ね?さあさあこっちへいらっしゃい。美味しいお菓子でも食べながらお話ししましょう?」…まぁ、ゆっくりしていってくれ。ゆっくり出来るかどうかは君たち次第だがね?」
父様の話を長いとでも言うかのようにぶった切ってカルとククルを手招きする母様。その様子に父様とエリーたちは苦笑いをこぼしている。
「え、えーっと…クロウ、これどうすれば良いんだ?ついていって良いのか?行っちゃったけど……」
「あー……どうします?父様」
「はぁ。お前が生まれてからはあいつのお転婆が収まっていたんだがなぁ…」
遠い目をしている父様は、やれやれと言うふうに頭を振ると「仕方ない。俺たちも行くとしよう」といってやけにニコニコしているエリーたちを連れて家へ戻っていく。
「さ、僕たちも行くよ」
「お、おう。わかったぜ」
「なんかウチのお父さんと似てるね」
「ん?何か言った?」
「「いや?なんにも」」
僕も遅れないように足を進める。2人が小声で何か言っていた気がしたが2人はかぶりを振っているので気のせいだったのだろう。
その後、ケリーの淹れてくれたお茶をみんなで飲みながらカルとククルの訓練について色々と話し、なぜか武術と魔術だけでなく2人に関係なさそうな礼儀作法や普通の勉学までも一緒にすることとなってしまった。
僕としては嬉しい限りなのだが、それが決まった時の2人の顔は目を丸くすると言う言葉がぴったり当てはまるものだった。
話しが終わった頃、お昼にするにはちょうど良い時間だということで今日のご飯担当だったエリーの料理をカルとククルと一緒に食べることになった。
エリーは僕たち以外に料理を振る舞ったことがなかったらしく少し緊張していたが、料理を食べた2人の満面の笑みを見るとホッと胸を撫で下ろしていた。