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第60話:教師と会長は悪巧み

 カルとククルが何かをしたのか、あの忙殺されるかのような日から2日後には外回りに出ていた余剰戦力(書類整理ができる生徒)が管理室の仕事へと回されることが多くなり、僕も偶に気分転換として外回りに出ることが出来るようになった。


 風紀委員会の書類整理はコツさえつかめればそれほど時間がかかる訳ではなく、普通の日ならは委員会活動の大半の時間を自分のしたいことに割くことができる。

 管理室で多くない書類に囲まれているときはゆったりと図書館から借りてきた本などを読めて意外にも落ち着けるのだが、そればかりしていると別のことがしたくなってしまう。

 そんな時にジンたちと一緒になって外回りに出かけるのだ。出て行くときに自分のノルマが片付いてない人に恨めしげな目で見つめられるのが少々心苦しいが、会長(風紀委員会の方)からお詫びとしてそこそこ値段のはるペット用ジャーキーなどの詰め合わせ大袋を渡させたときに「アイツらの仕事を手伝いすぎるんじゃないぞ」と釘を刺された手前、堂々と手伝えないんだから仕方ないだろう。だから睨まないでほしい。というか、文句なら会長に言ってほしい。




 外回りに出ると言っても、先日の大勢検挙の影響で部活動や自由な放課後を過ごしている生徒たちは、滅多にやんちゃをしなくなっている。しかし、いつになってもする人はする。

 例えば、たった今僕の目の前に立ち塞がって「おうボウズ、良いところにいやがったな。ちょっとツラ貸せや」などと言いながらニヤッと笑っているこの偉丈夫などが。



「はいはい。予想してたよりも早くいらっしゃっいましたね。えっと…サクヤ、この紙を委員会室に届けて。多分、会長ならすぐわかると思うし」


 どう見ても堅気じゃないこの偉丈夫は、騎士科の先生の一人で、数多くの優れた騎士を育て上げた実力派の貴族の代表的な人だ。

 少々だが実力行使のけがあるものの、他の迷惑な貴族と比べれば大変理解のある人だと受け取れるくらいの気にならない程度のもので、嫌な要求があっても断ればわかってくれるタイプの人だ。

 今日僕を捕まえたのは、恐らくだが彼の持っている生徒の相手をジンたちにしてもらいたいからだろう。



「悪いな。ここらへんの魔物や動物を引っ捕まえるのは意外に金がかかるもんでよ」

「いえ、僕としてはこの子たちの訓練にもなりますし構わないのですけど、メニューによってはこの子たちの装備出しますよ?」


 目を細めた僕の含みをちゃんと理解してくれているようで、「今回は休み明けだからそれほどキツいものにはせん」と、厳つい顔には似合わない優しげな笑顔をしていた。



 この体育会系の先生は、カルとククルのクラスを受け持っているシルビア先生の幼馴染で、アルバート・サレス・ロマネコンティという名前だ。

 アルバート先生は騎士科の教師でありながらも、近衛騎士を除くこの国の騎士の中でトップクラスの実力を持つ猛者だとお祖父様から聞いたことがある。

 アルバート先生は騎士の中でも騎獣と呼ばれる動物や魔物に乗って戦う人で、動物を相棒としているためか、僕がジンたちをどのように思っているのかをよくわかってくれる。



「怪我しにくいならいいのですけど…」

「まぁ、そんなに心配するな。とりあえず、第一訓練場を改造して障害物だらけの迷路にしてあるから、今日はアイツらを護衛対象一人と生徒六人で一組として入り口から送り込み、中央にある旗を取って反対側の出口までの時間を競ってもらう事にした」

「迷路探索………迷宮の攻略を想定したものですか?」


 騎士科の生徒にそんな訓練がいるのかな?と思っていたら、アルバート先生の微かな笑い声が聞こえた。どうやら顔に出ていたみたいだ。



「ああ、アイツらは騎士科の生徒だが将来迷路に潜る貴族の子供を護衛することがあるかもしれん。それに、狭い通路での訓練をしてもいい頃合いだと思ってな。迷路のトラップは魔法科の生徒が授業で作ったものを流用してるが、少しばかり物足りなくて…お前の召喚獣たちは属性もバラバラだろう?それに、そんじょそこらの魔物よりも手強いときたもんだ。アイツらの妨害にはもってこいだと思ったのさ」

「……なるほど。妨害ということはこの子たちも迷路に入ということですか?」

「正確には旗のある部屋に二匹、通路に残りの三匹を配置。部屋の二匹にはアイツらの迎撃を、通路の三匹はとことんアイツらの邪魔をしてもらいたい。ちなみに護衛対象は保健医の教師たちだから遠慮なくぶっ放していいぞ」


 クククと笑うアルバート先生に「それは信頼してるからですか?」とは流石に聞けず、最終的に全員にきちんとした装備を着けさせることを条件に訓練に参加する事になった。





 ▽▲▽▲▽一方その頃(エイグラン視点)▽▲▽▲▽


 いつものように風紀委員会役員の仕事を監督しながら雑事をこなしていた風紀委員長(エイグラン・ガーデル)は、副委員長や書記、会計などの役員とこれからの予定について話し合っていた。


「ーーーーー!」

「ーーー?ーーー、ーーーーー」

「ーーーーー。ーーー」



 かれこれ一時間くらい経っただろうか。いつもなら素早く必要な会話だけで終わっていた予定会議が、今日は長々と続いている。

 あまり有意義ではない会話の応酬に聞いている身としてもうんざりし始めていたエイグランは、彼らの会話を聞き流してぼんやりと外を眺めていた。



「で?結局はどうしたいんだお前ら」


 流石にこれ以上会議を長続きさせたくはないので、一石投じてみると、グリンと全員の顔がこちらに向く。



「どうするも何もテコ入れするしかないでしょう…」

 と副会長。

「言って聞くような奴らならこうはなっていないだろう?」

 と会計。

「今年の新入役員に期待した方が良さそうですけどね」

 と書記。


 彼らに続いて他の役員も自分の思うところをそれぞれが言うが、その本題は今の風紀委員会の書類処理能力の低さだった。

 主な仕事が肉体的なものであるため、残念なことに役員の大半は肉体派(脳筋)な生徒なのだ。これまでは書類整理ができる生徒が奇跡的に必要人数を少し上回るくらい居たのだが、卒業してしまったり違う委員会・部活に移転してしまったため急な人員不足に陥ってしまったのだ。



「うーむ……とりあえずは今外回りに多く出ている奴らと書類担当の奴らのスケジュールを少しずつ入れ替えてみるか。そうすればいくらかはマシになるだろう。…後はそうだな、クロウの奴に初等部の生徒に勧誘してもらうのはどうだ?初等部のうちから書類整理もできないと風紀委員会は務まらないと広めて貰えばこれから先の世代はこういったことが少なくなるだろう」


 少なくとも現状維持のままでは書類整理をしている役員への負担が多い。ままならないことではあるがすぐにどうこう出来ることではないのだ。長い目で見なければならない。



「……なるほど。彼や生徒会の二人のような特殊な生徒以外の多くは中等部から役員に入りますからね。宣伝…とは少し違うかもしれませんが効果はありそうですね」

「スケジュールの交換は可能だが、大丈夫なのだろうか。いや、少なからず影響は出てしまうな。書類不備が出たらどう対処する?」

「書類の端にでも名前を記入させればいいだろう。ついでに朱印でも押せば十分だと思うぞ」


 きっかけさえあればこうも簡単に案が出てくるというのは非常に嬉しいことだ。無意味に思えた会議が一瞬で有意義なものになる。なんと素晴らしいことだろう。



「それでは、ここら辺で今日の会議は終了だ。後に各自の草案を提出してくれ。それを元に改めて会議を「ガチャ」す…?」


 適当なセリフで会議を閉めようとしていると、後ろで締めていたはずの窓の鍵が開くような音がした。

 この学園も歴史あるものとはいえ、勝手に鍵が外れるほど老朽化はしていない。といっても老朽化で勝手に外れるようになる鍵など聞いたこともないが。



 気になって後ろを振り返ると、そこでは俺の理解を超えたことが起こっていた。

 西日を受けて窓にできた影が墨をぶちまけたような真っ黒なモノに変わり、それがウネウネと蠢いて鍵を外し、さらに蜘蛛の巣のように広がって窓を開けたのだ。

 この部屋にいた全員が飛び退ってそれぞれの持っている武器に手をかける。それはいいのだが、俺を盾にするように後ろばかりにいるのは何故だ?後で少し絞っておこかなければな。



 前に闇属性の魔術を人間ビックリ箱(クロウ)に見せてもらったことがあるが、こうやって影を動かすのはやはりいつ見ても理解できない。

 禍々しいというか気持ち悪いというか。なんとも形容しがたいものを感じるのだ。



『何故ここで闇属性の魔法が?アイツならば普通にドアから入ってくるはずだが…』


 などと考えていたら窓枠に艶のある黒に近い紫色の羽をしたカラスが降り立つ。



「こいつは…クロウの召喚獣の一匹じゃないか?」


 部屋の中の誰かがそう呟くと、カラスは口に咥えた紙を机に置いて一鳴きし、嘴で俺の方に紙を押してくる。これを読めという事なのか?



「えーと何々?………なるほどなるほど。おい!誰か第一訓練場でちょっとした見せ物があるって学園中に広めてやれ。人間ビックリ箱(クロウ)が関わってるって言えばそこそこ集まるだろ」


 これは久々に面白いものが見れるかもしれないな。

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