第59話:始まりの秋
初期の話を改編しクロウとカル、ククルの出会い方や、アイザックたちとの関わり、第三者視点の展開からクロウ視点の展開へと変化させたため、この話からはクロウ視点の物語へと変わります。
今までの話も少しずつ内容を合わせながら一人称に改編していくのでこれからよろしくお願いします。
始業式の日は見事な秋晴れとなり、多くの生徒たちは久方ぶりに着る制服に気分を高揚させている。
その一方で、カルやククルなどの生徒会や僕といった風紀委員会をはじめとする者たちは学園の風紀を守るべく新学期初日から慌ただしく働いていた。
生徒会であるカルとククルは各部活動に書類を届けに奔走し、風紀委員会である僕はその便利さから情報伝達役としてジンたち召喚獣までもーーーククルを含む女子生徒のお願いによってーーー導入し、学園に貢献していた。
「みんなお帰り。今は伝達しないといけないものも無いし、お菓子でも食べる?もうちょっとで放課後だし気を抜いても良いと思うよ」
帰ってきたジンたちをわしゃわしゃと撫でて労うが、実際のところ僕自身も一日中この風紀委員会書類保管室に釘付けとなっていた。
僕の向かっている机にはいくつもの紙束が並び、その倍ほどの手書きのメモが周囲に散乱している。その数だけで僕の仕事量の多さが分かるだろう。いや、分かってくれないと困る。さらにこの部屋には数えるだけで億劫になるほどの本棚が鎮座していて、その書類の整理もついでにしていたので非常に疲労が溜まってしまった。
机に散乱しているメモの筆跡はバラバラで、少なくともその数は20を超えている。その1つ1つを整理して本棚にある報告に対応した本へ書き込まないといけないのだ。本当に猫の手も借りたいくらいに忙しかった。
「あー……疲れたなぁ。すっごい肩凝ってるよ」
うーんと体を伸ばすとカキカキポキポキと骨がなる。僕はあまり書類作業には向いてないと思っているのに、なぜか委員会の先輩たちは書類仕事を僕に回してくる。連絡の伝達も僕では無くジンたちにやらせるように頼んでくるし、そこまでして僕に出歩かせなくないのだろうか。
「ねぇ皆んな。明々後日は学校お休みだし、委員会の仕事もないから久々に森に行こっか」
恐らくだが、僕はこれからしばらくの期間外回りに出ることは出来ないのだろう。
そのことは先輩たちの決めたことだから文句も何もないのだが、ずっと机に向かっていると体が鈍っていく気がして仕方ないのだ。
『珍しいね。おやっさんからの依頼ないのに森に行くなんて』
「まぁね。なんだかこのままだと体が鈍っていく気がしてさ。と言っても森に行く前にギルドで依頼探すけどね」
『じゃあ、お肉が美味しい魔物の依頼あったらそれ受けようよ。久々に魔物のお肉が食べたい』
「それいいね。ついでにいくつか依頼受けて行こう」
僕は静かに尻尾を振っているジンと一緒になって笑う。その横では他の子たちが『森に行ける!』『主とお出かけ〜!』とじゃれ合いながらはしゃいでいた。
じゃれ合っている子たちをジンと一緒に微笑ましい気持ちで眺めているとガチャリと音を立てて風紀委員会書類管理室の扉が開く。
「んん?クロウ、お前だけか?」
そう言って部屋に入ってきたのは、赤い髪を短く切り揃えた大柄な男子生徒だった。男子生徒と言っていいのかわからないほどの迫力の放つ大柄なその人は、騎士科の制服を筋肉で満杯にした、というよりも筋肉が服を着ていると言った方が合っているような人だ。
ちなみに風紀委員会室の本部ーーーミーティングや少しやんちゃした人の尋問をする場所ーーーから直接来ることができること部屋だが、風紀委員会の人たち以外の人でここにある書類を必要とする人ーーー問題事を起こした生徒が過去に問題を起こしているかなどを調べにきた教師などーーーは廊下から入れる扉を開けてやってくる。と言っても、その場合は限りがあって奥の書類や作業している僕の姿は直接見ることはできない。
「あれ?会長じゃないですか。どうしたんです?」
「もうすぐ宿舎の門限になるのでな、書類整理をしている奴らにも仕事は終わりだと伝えようと思って来たんだが。……お前だけか?他の奴らは帰ったのか?」
「いえ、初めから僕だけですよ?今日は皆さん外回りに行かれました。というか会長の指示じゃなかったんですね」
「いや、俺は何も指示出してないぞ?それに俺は今日一日講堂に貼り付けだったからな。色々騒がしかったのは気配で分かっていたが……」
僕の前にある書類の山と綺麗に並べ替えられた本棚、そして僕の周りで自由気ままに過ごしているジンたちを見て眉間のシワを深める会長。
「すまないな。こんなことになっていると知っていたら俺が手伝いをしたんだが……。そうだ。今度、何か奢ってやろう。お前だけじゃなく召喚獣たちにも仕事代としておやつくらいはあげても構わんだろう」
そういうと会長はジンたちを1匹づつ一撫でして部屋を出て行った。
部屋を出るときに「アイツらからも巻き上げて高いのを買ってやるか……」と小声で呟いているのが聞こえたが気にしない方がいいのだろう。
「やったね皆んな。会長が今度おやつくれるってさ」
『見た目の印象とだいぶ違う人だよね。なんだか見てて面白い』
ジンの言うように会長ーーーエイグラン・ガーデルーーーは、威圧感のある見た目と裏腹にとても紳士な性格をしていて、意外にも親しみやすい人物なのだ。
それに加えて、会長の見た目で誤解されやすいというところにとてもとても親近感が湧く。
「それじゃあ、僕たちも帰るとしますか!」
『『『『『はーい』』』』』
「カルとククルも待ってるだろうし、急がなきゃね」
書類の山の周りに[作業中]と板を置いて僕は保管室を後にする。きちんと鍵を閉めないと、「良からぬことを考える者が書類を盗んだり書き換えたりするかもしれないだろう!」と色々なところから怒られてしまう。
少々面倒だがこればかりは仕方ない。
管理室の鍵は校舎の入り口付近にある事務室やいくつかある職員室の何処かに返さないといけない。
「風紀委員会管理室の鍵を返しにきました」
「はーい。今日は仕事多かったでしょう?お疲れ様。ゆっくり休んでね」
「はい。ありがとうございます」
僕が鍵を返しにきたのは玄関付近にある事務室だ。朝にここで管理室の鍵を借りて、下校時に返しに来るというのがここ最近のお決まりになっているのだ。
と言っても、ここに返しに来る理由はそれだけではない。
「クロウちゃんおっそーい!」
「ったく、どんだけ仕事してたんだよ。物好きだなぁ」
ここに返しにくる一番の理由は、この2人がいつも玄関で待ってくれているからだ。
「ごめんごめん。今日は他の人が皆んな外回りに行っちゃったから忙しくて…」
「あー…だから今日は一段と報告が多かったのね……」
「なるほどなぁ。外回りに行く人数がいつもより多かったからあんなに報告が来てたのか……って、じゃあお前はあの量を一人で全部捌いてたのか!?」
「まだ全部終わってないけどね。片付けせずに置いてきちゃったし」
風紀委員会書類管理室のデスクに置いたままにしてきた書類の山。できるならば明日に持ち越したくはなかった。
「風紀委員の人たち…書類整理クロウちゃんに押し付けるつもりかしら?」
「明日にでも会長に報告しておくか…」
『また何か企んでるのかな?まぁ面白いなら良いんだけど』
2人が肩と肩が触れ合うくらい近づいたコソコソと何かを話しているときは、大体の場合は面白おかしなことが起きる前兆だ。
父様たちにしごかれていた時にも幾度かこういうことがあったが、その後少しすると2人は急な無茶振りを父様にしたり、逆に自分たちが無茶をして父様に怒られたりといつも楽しいことをしてくれる。流石に無茶をした時は父様と一緒になって怒ったが、無茶をしそうにない今のような場合は黙認することにしている。
「2人ともそんなとこでくっついてないで早く帰ろうよ」
僕の言葉を聞いてハッと会話をやめて歩き出すが、結局家に着くまで2人の謎の会話が止まることはなかった。