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第57話:幕話 ちょっとした異変

非常に久々の更新。スマホの故障や学校のテストやらが重なってしまい、自分でもビックリするほど期間が開いてしまいました。本当に申し訳ない。

 [夢]


 それには起きていた時の記憶の整理だとか、これから起こることの暗示であるなどと、様々な説が向こうの世界(地球)で飛び交っていた曖昧なもの。

 覚えていることもあれば、思い出そうとしても思い出せないこともある。現実との境目が曖昧なその世界。それは本当に夢なのであろうか。












「ふぁ〜〜〜あ……」

 背中まで届く長い銀髪を揺らして、クロウは大きな欠伸をする。

 時刻は夕食時を少し回った頃。いつもと明確に違う眠気に襲われて、クロウはリビングのソファーの上で眠りこけていたようだ。


「………なんか、変な感じ」

 天井を見上げてそう呟いたクロウは、左手を上げてその手の甲に浮かぶ紋様をじっと見つめていた。

 眠ってしまう前には何も描いていなかったはずの手の甲を。



「あ!クロウちゃん起きたんだ。って、どうしたの?手なんて見て。()()()()()()()()()()

「………え?」

 クロウは食堂の方からやってきたククルの言葉を聞いてククルに向けていた視線を手の甲に戻す。

 ククルの言葉通り、先ほどまでそこにあった紋様は影も形もなく、普段と変わらない肌がそこにあった。


「………気のせい?いや、でも」

「んんん?」

「ああ、何でもないよ。変な夢を見たからボーっとしてただけ」

「そっかぁ~。じゃあご飯食べてるときに聞かせてよ!」

「でも全然覚えてないんだよね。あ、ボクの夢のことよりもお爺様に聞きたいことあるんだよ」


 たわいのない話をしながらクロウの日常は過ぎていく。

 非日常の出来事を口にすることはなく、だがそれを忘れることもなく。日常を生きる者には知らなくてよい

 ことをひっそりと心にしまってクロウはいつも通りの笑顔を見せる。









 昔よく見た()()()()での狂気を身に堪えて、彼はこの世界でも生きてゆく。

 あの非現実的が現実にならないように願って。再び現実になった時に、大切なものを守れるように彼は今日も密かに………









「もう!クロウちゃん聞いてるの?」

「あぁごめんごめん。ちょっとボーっとしてたみたい」

「ダイジョブかよ?さっきまで寝てたらしいし、疲れ溜まってるんじゃねぇのか?」

「そーなのかなぁ………アリシアさんに悪いけどご飯残させてもらうね。今日はもう休ませてもらうよ」

 クロウはそう言って席を立つ。だが、ふらふらと足元がおぼつかず、セバスに寝室まで連れ添ってもらっていた。




「セバス。クロウの容体はどうじゃ?」

 数分後、食堂に戻ってきたセバスにウィリアムが眉を顰めつつ聴く。


「………私の知らない症状ですが、恐らく夏風邪の類でしょう。肉体的な疲労では見られなかったので精神的な疲れによって発症したのでしょうが、念の為に神殿の治療師に見てもらった方が良いかと」

「お前の知らない病か………そうじゃの、神殿には儂が行こう。お前は情報ギルドのトリスタンと調薬ギルドのシャルロッテに手紙を届けてきてくれ。それと、儂が書いている間に出立の用意をしておいてくれ」

「かしこまりました、アリーヤに鞍を装着させておきます。後に症状をまとめた物をお渡しします」

 セバスはウィリアムの「頼んだぞ」という言葉を受けて恭しく一礼すると、いつも以上にキビキビとした動きで食堂を後にする。


  その後、掻き込むようにして夕食を平らげたウィリアムが食堂から出て行く。二人食堂に残ったカルとククルは半分ほど減った自分たちのお皿と二口三口程しか減っていないクロウのお皿を交互に見やり、「どうしよう………」と冷や汗を浮かべていた。

 実際、彼ら二人にとってもクロウが病気に罹るということが初めての事態だった。のろのろと夕食を食べ終わった二人は、アリシアと共にセバス・ウィリアムを見送ると、クロウの様子を覗きに行ったのだがジンが門番のように扉の前で丸まっていた。




「ジンちゃん………クロウちゃんの様子どう?」

 近づいてきた二人に気付いたジンがのそりと体を起こして二人の方へ顔を向ける。

 いつもと変わらないその様子に淡い期待を覚えた二人だったが、ゆっくりと力なく首を振ったジンにガックリと肩を落とす。


「今入っても大丈夫?」と扉の奥にいるであろうクロウのことを心配しているククルにジンは再び首を横に振り、小さく鳴き声を上げる。普段と違って弱々しく感じられるその声に、カルとククルは微笑みながら「あんまりため込みすぎるなよ」「頑張れお兄ちゃん」とジンの頭を優しく撫でる。その後もう一鳴きしたジンの声は心なしか明るく聞こえた二人だった。






















 カルとククルの二人が眠りについた頃、ウィリアム邸に数人の男女が集まっていた。食堂の机を挟んでウィリアム、セバス、アリシアを含めて計八人の大人が座っていた。

 金糸で装飾された白装束を身に纏う豊かな白髭を蓄えた老男性とその白装束の金糸の部分を赤糸で装飾された物を着た女性。二人とも銀色に輝くロザリオを首から下げている。他には例の会議に出席していた情報ギルドのトリスタンと、ウィリアムと同年齢くらいの女性が二人。その片方は大きな鞄を抱えていた。


「まずは急な呼び出しに応じてくれたことに礼を言う。特にシャルロッテとサラーサはかなり忙しいのじゃろう?」

「構わないわ。私たちにとっても彼をこのままベットの上に寝かせておくなんて嫌だもの」

「シャルロッテ………少し不謹慎だ。いくら彼が我々の入手しにくい貴重なものを採取できるからと言って、そのような言い方は失礼だ」

 フフッっと笑いながらウィリアム応えるシャルロッテに、横で控えていたサラーサが眉を顰める。

 しかしウィリアムはその向かいで「いや、わしは構わん。こやつは昔からそうじゃった」と頬を緩めていた。



「さあさあ皆様。そろそろ本題に移りましょう」

 ウィリアムたちが昔を懐かしみ始めたところでセバスが音頭を取って話を戻す。


「本日皆様に集まっていただいたのは、クロウ殿の容体に関してでございます。本日18時ごろよりクロウ殿が不調を訴え夕食をほとんど残したまま床に就かれました。その時に私が診断いたしましたが病名の特定には至らず。肉体的な疲労は見受けられませんでしたが、体内の魔力の流れが荒れているもようでした。………ここまでが事前に皆様にお知らせしたことなのですが、皆様が到着なされるまでの間にクロウ殿の容体が変化し、発熱や発汗が見られるようになると共に魔力が高まりつつあります。現在は彼の召喚獣たちによって室温の低下や汗の蒸発、湿度調整、高まった魔力の吸収などの処置で症状の促進を防いでおります」

「それは………大丈夫なのですか?」

「ええ、彼らに処置を任せてからは容体の悪化は見られません。ですがトリスタン様、彼の容体は悪化も回復もしておられないのです………」

「なるほど、それでわたしがここに呼ばれたのですか」


 セバスはトリスタンの言葉に大きく頷き、続けてシャルロッテへ顔を向ける。

「そのためには………」

「ええ、分かっているわ。早く仕事に取り掛かりましょう?私たちの持ちうる全てで彼の治療を………っ!?」

 先ほどまでの嫌味がかった飄々とした態度から一転して、強い意志を持ったその瞳は彼女の本心を物語っていた。






 だが、その瞳の意志は一瞬のうちに驚愕に彩られ、彼女は椅子を跳ね除けながら立ち上がり二階へと目を向けた。周りにいたウィリアムたちはシャルロッテを見て不思議そうな顔をしていたが、次の瞬間にはシャルロッテと同じように立ち上がっていた。


「セバス!この方向は」

「クロウ殿の部屋です!皆様早く!」

 いち早く正気に戻ったウィリアムが声を上げ、セバスも続いて正気に戻る。


 そのままウィリアムが先導するようにして彼らは二階へと駆け上がっていったが、彼らはクロウの部屋に揃って座っている召喚獣たちとその周りをウロウロしているカル、ククルを見つけて足を速める。


「カレア殿、クレア嬢!なぜジン君たちが部屋の外にいるんですか!?それにこの部屋から感じる魔力は明らかにクロウ殿のものでは………」

「えっでもさっき入ってった人が、クロウちゃんの治療をウィリアムさんに頼まれたって言って……」

「なんじゃと!?セバス扉を!」




 ウィリアムが言い切らない内にセバスがクロウの部屋の扉を開け放ち八人は中へ踏み込んだ。

 踏み込むと同時に彼らはその異常なまで濃密で、眩暈がするほど禍々しい魔力を先ほどまでと比べ物にならないくらいハッキリと感じ取るだろう。


「貴様………いや、お主は一体何者じゃ」


 彼らの眼前でクロウに手を翳して聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで何かを綴り続けているその者は、シャルロッテとサラーサの来ている服と非常に似通った造りの物に身を包んでいた。

 しかし、二人とその衣は二人の物とは明らかに別の物であることが一目でわかる。

 神聖な証であるはずのその服は漆黒に染まり、赤黒い糸で様々な模様が描かれている。それを身に纏っている者も神父というにはいささか違和感を覚える爛々とした狩人のような目をしており、その首には薄汚れてねじ曲がった十字架が下げられている。


「………おや、失礼。魔力が少しばかり漏れたようですね。いやはや、申し訳ない。あぁ、自己紹介がまだでしたね。私はナイ………巷ではナイ神父と呼べれる流れの神父です。この者には遥か昔に世話になりましてね。ちょっとした恩返しのようなものです。あぁそうだ、彼の病はもう直しておきました。この病はこの世界に必要ないですからね」

 ナイと名乗る神父はそう言ってウィリアムたちの前を悠々と横切る。彼らはそれを止めようと口を開こうとするも体が一切言うことを聞かない。まるで氷漬けにでもされたかのようにその場を動くことが出来なお彼らを横目に、漆黒の神父は歩き去る。


 扉を潜るとき「彼には大いなる闇の使者が来たとお伝えください」と言い残し忽然とその姿を消した。まるで始めからそこに人が居なかったとでもいうかのように、瘴気のような禍々しい魔力の痕跡すら残されていなかった。


「………なんじゃったんだ、今のは」というウィリアムの呟きが漏れると同時に、扉の向こうでドサリと何かが倒れる音が二度響いてきた。

 シャルロッテにクロウを任せ、廊下に出たウィリアムは先ほどの男の魔力に当てられて気を失ったらしいカルとククルがジンを下敷きにして倒れているのだった。






 数日後、目を覚ましたクロウにウィリアムが「大いなる闇の使者と名乗る神父が恩返しにお主を直してどこかに消えおったのじゃが、何か知らんかの?」と聞いたところ、クロウは大きく舌打ちをして「あの愉快犯がぁ」と底冷えするような声で唸るのだった。

ナイ神父:カルト教団「星の智慧派」の指導者の姿を取った化身。黒い肌を持つ男。だが、その正体は?

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