第55話:~ぶらり道中視察旅~その⑥
現在この小説の前半部分の編集作業を進めておりますが、少し難航中です。
少しずつでも進めていきますので、気が向いた時にでも読み直してみたくださいね。
生徒会にくっついてきた形でエレッタにやってきたクロウ。夜な夜な街の外をうろついたり、宿屋の屋根で星を見ながら楽器を弾いてみたり、食堂で曲を演奏しておひねりを貰ったりとかなり自由気ままに過ごしているように見えるものの、その裏でウィリアムの指令通りに街の裏事情や街周辺の生態系などを日夜構わず調査し歩いていた。きちんと仕事はこなしているのだ。
裏事情といっても最近この街で起きた事故や犯罪の内容と数を仲良くなった門番たちから教えてもらったりする程度なのだが、ここ一月の集計を取ってクロウはその内容に拍子抜けしてしまった。
様々な種族が集まっているのにもかかわらす、種族差別などは全く起こっていないのだ。それだけでなく、犯罪で捕まった人のほとんどが万引きをした余所者で、エレッタの人が犯した犯罪が極端に少ないのだ。
クロウ自身で色々とバレたら怒られることをしてまで調べてもこの結果は変わらず、改竄された様子すら
見当たらない。
事故も事故で、水路に落ちたやら脚立から落ちたなどと被害者加害者のある事故も非常に少ない。
結果として、エレッタは様々な意味でとても綺麗な街であることが証明されたのだった。
街の周辺は起伏が乏しく、森、草原、川と三つの地形があり、それぞれで違った生態系が出来ている。
動物は多いが魔物は少なく、ほんの少しだけだが魔獣も生息している。
危険な魔物はほとんど生息しておらず、魔獣のほとんどは中立だ。中には、密猟者に狙われたことで人に牙を剥く個体も存在しているものの、こちらから手を出さなければ襲われることはまず無い。
ウーガルの村のすぐ側にある森と比べたら、ここら一帯の危険度は驚くほど少ない。
ウィリアムの言っていた修学旅行にキャンプのような行事があるならば、ここら一帯はうってつけの場所だろう。
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[エレッタの街周辺の調査報告書]
森:動植物が豊富で、魔物は少数。魔獣はさらに少ない。
起伏が少ないため探索等は比較的に行いやすいが、倒木や腐敗土の層が点在しているため気を抜くと危険。
・動物は主に四足動物。肉食草食の割合は3:7くらい。強い毒を持った動植物をそれぞれ数種類確認。
・魔物はゴブリンやコボルトがほとんど。ゴブリンは敵対する個体が多く、コボルトは全体的に友好的。
・魔獣はほとんどが中立。ただし、元々生息数が少ないため魔獣同士で特有の組織形態が築かれているもよう。対立するのは現地の人々も恐れることらしく、聞き込みしたところでは過去に魔獣を怒らせた旅人を街から追い出した事もあるとのこと。
草原:生息しているのはほとんどが動物。魔物と魔獣はいないに等しい。
背の高い草が多く、視界の確保と索敵が困難。
・様々な種類、大きさの四足動物がひしめき合っているも、そのほとんどが草食。草原の所々にある草の少ない場所に大型の草食動物が群れで生活している。小型中型のものは至る所に点在している。
・はぐれ個体のゴブリン、コボルトが纏まって生活している。一種の村のようになっていて、友好的。物々交換することも可能だった。
・鳥型の魔獣が時折小型の草食動物を捕らえていくのを見るくらいで、それ以外では魔獣は確認できない。
川:川幅は100メートル越え、水深は最も深いところで40メートルほど。川の中央部に行くにつれて深さが増していくが、中央部の10メートルほどが急激に深度が増している。
生息している種類は最も多いだろうが、魔物はまったくいない。
・数多くの淡水魚が生息し、毒持ちの種類も確認済み。中には水の中から飛び出してきて毒液を吹きかける種類もいるとのこと。*基本的に川で捕れるものは食べることが出来るらしい。
・魔物は確認されていない。
・特殊な内部器官を持っている種類が存在しているらしいが、確認はできていない。
追伸
修学旅行がどのようなものなのかは知りませんが、あまり危ないことはやめてくださいね。
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「こんなものでいいかな?・・・さて、フレイヤ。これをお爺様に届けてくれない?家に届けたら誰かに渡せばいいようにしてあるから、行ってきてくれる?」
『任せて!』
フレイヤは大きく頷き、クロウへ片足を差し出す。
クロウはフレイヤの足に筒のようなものを括り付け、その中に先ほど書いていた物を入れる。筒の蓋としてある紋様が彫ってあるキャップを付けると、フレイヤは一鳴きして空へと飛びだっていった。
「いつのまにあんなことできるようになってたんだろう・・・」
自らの召喚獣であるにもかかわらず、基本的に放任主義なため、急に成長した姿を見せられてビックリするクロウであった。
フレイヤを始め、クロウの召喚獣たちは自らの主人のハチャメチャに付き合えるように日々成長している。彼らもまた、主人と同じように常識から少し外れた存在になりつつあるのだった。
一方、エレッタの街から飛び立ったフレイヤは、その日の夜にウィリアム邸宅へ到着した。
まるで自分が来ることを予知していたかのように庭先に佇み、真っ直ぐ視線を向けてくるアリシアとその横で目を伏せながら佇んでいるセバスチャンに驚きつつも、セバスチャンの差し出した腕に付けられている泊り具へ着地する。
セバスチャンは自らの腕に止まったフレイヤの足に取り付けらえている筒から慣れた手つきでクロウの手紙を取り出す。丸まった手紙を広げたセバスチャンは、メモの切れ端のような物が一緒に入っていることに気付き、それに目を通す。
「なるほど、これのことでしたか。アリシア、これをウィリアム様に」
「かしこまりました」
「頼みましたよ」
セバスチャンはアリシアにクロウの手紙を手渡すと、フレイヤに「しばらくしたら返事も書き終わるでしょうし、家の中で休憩していってください。水と簡単なものをお出ししましょう」といって家の中に入っていった。
セバスチャンに連れられて食堂に入り、何かしらの果実水と一口大に切れ分けられたウサギらしき生肉を貰うと、フレイヤはそれらを啄みながらアリシアかセバスチャンが持ってきてくれるであろう手紙を待ちながらゆっくりと羽を休めるのだった。
フレイヤが退屈を感じ始めて羽休めから毛づくろいに移行し始めたころ、アリシアが色々と手に持って食堂に入ってきた。
フレイヤが背負うタイプの荷物入れ(筒状)と今足に装着している手紙入れをもう一つ。そして二通の手紙。それらをフレイヤに断ってから装着させ、アリシアは夜の空へとフレイヤを放った。
荷物は増えたが、それらの重さはフレイヤが空を飛ぶのに何ら支障をきたさなかった。
翌日の夕方、西の空が黄昏色に染まりつつある頃。フレイヤは森の中にある泉のほとりで何やら煙を焚いているクロウを見つけ、ゆっくりと旋回しながらその脇へと降り立つ。
『ご主人、ただいま』
「ん?お、お帰りー。なんだか荷物が増えてるね。手紙二枚と・・・背中のは多分僕宛てだね、ありがと。ご褒美に出来立てジャーキーいる?」
『いるっ!』
手紙筒と荷物入れをフレイヤから外して[ストレージ]に放り込むと、焚き木の上に設置していた箱を開けてフックにかけてあった肉の一つをフレイヤに渡す。
せっせとジャーキーを啄んでいるフレイヤの横で、クロウは一人、悪い笑みを浮かべるのだった。
狩りから帰ってきたジンに見られて呆れられたのはいつものことなのであった。