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第52話:~ぶらり道中視察旅~その③

ようやく視察先の街[エレッタ]に到着。

視察旅はいったい〇何話まで続くのだろうか・・・

「三日目を過ぎてから何故かクロ坊の単独行動が増えている気がする」

 そう呟いたのはウォーレスだ。

 ソテーした何かの肉と野菜を挟み、さっぱりしたソースでまとめられたサンドイッチを食べながら「どうしてだ?」と首を傾げる姿に、同じようにサンドイッチを頬張っている面々はサンドイッチへと伸ばす手を引っ込めて首をひねる。


 しばらく食事の手を止めて唸っていた面々に、シルビアに仕えているメイド服の女性はサンドイッチを指さして「絶対にこれが原因だと思いますよ」と頭が痛そうに言う。

 その言葉にハッとする面々は、「お代わりできましたよ~」と笑顔で大皿を運んできたクロウにとても申し訳なさそうな顔をするも、何も言うことなくサンドイッチに手を伸ばす。


 その後、後片付けをクロウ以外の人たちが非常に申し訳なさそうにしている姿が見られた。




 朝食が済み、くじ引きで馬車を決めようとしている時、ウォーレスが全員を集めて話し始めた。


「今日で街を出発して五日目になる。予想以上に進むペースが速く、うまくいけば今日の夜にはあちらにつくだろう。そのため、昼頃からは初日に着ていた服に着替えてくれ。心配しなくても洗濯は済んでいる。と言うよりも、第一印象は大切だから持ってきている服で一番良さそうな服を着てほしい」


「「「はーい」」」と揃って声を上げ、くじ引きで決めた馬車に乗り込んでいく子供たちを見ながら、その場に残っている大人たちはその中にある銀色の背中に今一度感謝の黙祷を捧げるのだった。




 出発してからは、クロウが昼食の時になってもずっと眠っていたこと以外には特に何事もなく・・・昼食時に何人かが硬い干し肉を涙ながらに噛み千切っていたが、特に何もなかった。


 驚いたことにクロウが目を覚ました時は、もう既に空が茜色に染まりつつあった。

 半日丸々眠っていたクロウだったが、起きて早々目をこすりながらどこかへ出かけていき、しばらくして小型の牛みたいな獲物を引きずって帰ってきた。いつ着替えたのか分からないが、暗い紺色の服を着て、茶色いコートを羽織っていた。


「クロウちゃん・・・晩御飯は着いてからにするらしいから、料理しなくてもいいんだよ?」

 クロウの引きずっている獲物を見つつ、ククルは悲しそうな表情でそう呟く。

 その言葉に「そっかぁ」と表情を変えずに呟くクロウに、料理を一切手伝っていなかった面々はそっと顔を背けるのだった。


 その後、馬車に入っていって再び眠りについたクロウを気遣ってか、他の七人は三:四で分かれて馬車に乗り込むと、いつの間にか置いてあった紅茶とお茶菓子に黙とうを捧げつつ[エレッタ]に着くまでの残りわずかとなった馬車の旅をゆっくりと過ごすのだった。








 日が完全に沈んだ頃、クロウ達は無事[エレッタ]に到着した。

 日が暮れた後で到着したため、検閲やらなんやらがあって入るのに時間が必要だったが、馬車の中にオオカミとネコとキツネとカラスとタカが居るのを見た検閲官が声を上げるほど驚いていたこと以外は何事もなく検閲は終わり、街へ入ることが出来た。


 街に入った後は一旦全員で宿屋に向かい、一週間の予約をする。面々は鍵を受け取ると部屋に荷物を置き、宿屋の一階、食堂部分に集合する。

 さすがにジン達召喚獣を連れて行く事は出来ないらしく、クロウは全員に一旦帰還してもらう事にしたようで、一人で食堂にやってきた。

 何人か待ちきれなかったようで、もう既にいくつかの料理がテーブルに並べられている。

 食べやすいようにサイコロ状に切り分けられた肉厚ステーキ、色とりどりの野菜を使ったサラダ、トマトソースと具材たっぷりのピザ、大皿にこれでもかと盛られたスパゲッティ。

 いずれのどの料理も豪快に見えて、万人受けするように洗練された料理であることが一目でわかる者だった。


「お待たせしました」と言いつつ席に座ったクロウに、店員がスッと水を出して下がっていく。

 ドリンクバー形式の飲み物を取りに行っていた生徒会メンバーが戻ってくると、ウォーレスの音頭で夕食が始まる。約一週間ぶりに他人の手料理を食べたクロウは謎の感動と共に、口の中に広がる荒々しくも優しいその味をゆっくりと飲み込んだ。 

「ん~!」と小さくガッツポーズをしつつ、パクパクと次々に料理を口に運ぶクロウ。その小動物のような姿に思わず他の面々は頬を緩ませていた。




 気付けば清楚な趣だった食堂は、お酒が回って顔が赤らんでいるおっさんたちのたまり場と化していた。その中には大小さまざまな武器・道具を背負っている者の姿も見受けられる。

 そんな中で、ウォーレスとクロウを除いた面々がお酒を飲んでその集団に交じっていったり、筋骨隆々なイケオジに武勇伝を聞かされたりしていた。


「おっちゃん!それでそれで!?」と話の続きを待ちきれないように声を上げるカルに、イケオジーーー本名、リオンは、はっはっはっ!と豪快に笑い話し出す。


「その魔獣の群れはなんとか凌ぎ切る事が出来たんじゃがな、その後は儂でも何が起きたのか分からなんだ。後ろから殺気を、いや、狂気に似た何かを感じて剣を振りかぶったのじゃが、気付けば剣は真っ二つになっておって、この腕も宙に舞っておった」

 リオンはそう言って義手になっている左手をたたく。


「え?でもおっちゃん弓使ってるじゃん」

「ん?ああ、それはの、この腕が義手になってから剣が上手いように使えんくてな、この弓を使うようになったんじゃ。まぁ、弓と言ってもボウガンという種類のもんで、この義手の腕でも扱えるから使っておるんじゃ。

 おっと、話を戻すか。儂は真っ二つになった剣をそいつに投げつけて、すぐにその場を離れた。もちろんチームを組んでおった奴、まぁ、今の儂の嫁じゃがな。そいつを引っ張って走った。儂もそいつも深手を負っていたからまともに走ることは出来なんだが、その化物は何故か追ってこなかった。じゃが、逃げる際中、代わりに遠吠えが聞こえた気がした。

 儂らはある程度走ると、運よく街道に出るとこが出来た。それも近くに人がいるところにじゃった。その時の安心感と言ったら・・・今思い出しても全身の力が抜けるわい」

「ぼ、冒険者って、私が思ってたよりもすごいんですね・・・そんな状況、私は考えただけでも・・・」

「まぁ、嬢ちゃんは若ぇんだ。こんな集団の中入りしようなんて今決めなくてもいいのさ」

「そう・・・ですね。私のやりたい事、探してみます」

 リオンの話を聞いて若干青くなっているククルは、「そうすりゃいいさ」と言いながらワシャワシャと頭を撫でるリオンに「うんっ!」と少し明るくなった声で返事をしたのだった。




 居酒屋状態の宿屋から場所が変わって、ウォーレスとクロウ、シルビアのメイドのメルクーリオ・ムヘル・ドルミールの三人がいる[エレッタ]の冒険者ギルド。

 ウォーレスとメルクーリオの二人が受付で以来の途中報告をしている間、クロウは人のいない依頼掲示板(クエストボード)の前でボーっとそこに貼ってある以来の数々を見ていた。

 いや、傍目から見ればボーっとしているように映るのだが、クロウ本人はそこに張り出されている依頼を一つ一つ吟味し、面白そうなものを覚えているのだ。


 そんなクロウに向かって、ギルド付属の酒場からエールの入ったジョッキを傾けながら歩いてくる一人の男がいた。


「坊主、冒険者に興味があるのか?」と言いつつ隣に立ってエールを煽る男に、クロウは何も言わずに首を振る。

 その答えに男は「おっと、振られちまったな」と笑い声を上げるが、「違うよ」と言う呟きと共にクロウが取り出した一枚のカードを見て、男は笑い声を大きくする。


「なるほど、それじゃあ冒険者に興味はわかねぇな。で?それを持ってるってことは、なにかあるんだろう?ちょっくら見せてくれや、なぁに、これでも俺はここのトップだ。口外なんてしねぇさ」

 男はそう言うと、ジョッキの半分ほど残っていたエールを一気に飲み干して近くのテーブルに置くと、クロウについてくるように言ってギルドの奥に歩いて行った。


 少しの間呆気に取られていたクロウだったが、未だカウンターに張り付いているウォーレスに耳打ちして男の後を追う。メルクーリオもウォーレスに後を任せてそれに続く。

 二人がたどり着いたのは、なぜかいろんなところにあるお馴染みの[修練場]だった。



 夜も更けてきているせいもあってか修練場には男以外の人は居らず、男はポツンとコロシアムのようなその場所に立っていた。


「さて・・・ここに来てもらって言うのもなんだが、お前の分野は狩りと採集のどっちだ?」

 雰囲気づくりの為か薄暗い修練場の真ん中で腕を組みながら立っていた男だったが、修練場にクロウがやってくるとポリポリと頬を描きつつ「採集だとは思うがな」と笑う。

 それに対し、クロウは一瞬思考を巡らせ「真正面からではない狩りという意味だったなら、どちらもボクの領分ですね」と言う。

 一週間だけだが普段のクロウを見たことがあるメルクーリオには、今の無口なクロウが親しくない者に対する反応なのだと直ぐに理解でき、それと同時にクロウがウィリアムの孫であるという事実に今一度驚愕した。『あの能天気の孫がこんなに繊細な訳がない』と。

 メルクーリオが少々現実逃避気味になっている一方で、男はクロウの言葉に「ほう・・・」目を細める。


「見た通りボクはこんな身体ですから、隠れたりするのは得意なんです。それに、ボクの得意分野はこれですし」

 そう言うとクロウはジャラジャラといたるところから武器を取り出したり、光の玉を浮かべて出来た影を動かしたりする。


 ギルドのトップと言うだけあってか、男は「なるほど、召喚、光、闇の三属性か」と呟く。クロウがしていることくらいは簡単に見抜くことが出来るようだ。

 クロウはその言葉に頷き、今使った魔法を全部解除する。それによって、地面に転がっていた短剣や金属製の針、光の玉、もぞもぞとクロウの身体を這い上がっていた影が消える。


「レア三種とは、なかなかに珍しい奴だな。ともあれ、アンドリューの奴が最近何回も自慢してくるのはそういうことだったのか。王都のオークションにも手を回しているらしいが・・・いや、これはお前に言っても意味ないか。まぁ、そういうことなら俺もお使いをしてもいいよな?」

 顎に手を当てて薄っすらと悪い笑みを浮かべる男に、クロウもクロウで同じような顔になって頷く。


「お、いいのか?ダメもとでも言ってみるものだな。アンドリューの奴となんか取り決めがあるんだったら言ってくれ。それを基準に「はいこれ」す・・・なんで持ってるんだよ。まぁいい、どれどれ?」

 男は呆れたようにそう呟いてクロウの渡してきたメモに目を通す。

 だが、少しして大きなため息とともに顔を上げた。


「お前、アンドリューの奴にいいように使われているんじゃないのか?これじゃあお前の利益が少なくないか?」

「あぁ、それはいいんです。ボクが決めたことですし。それに、オークションの売値の四割ってだけでもボクには十分すぎるくらい儲かりますし、普通に売ってもらってもその売り上げの四割ですしね。ギルドの口座に入れてもらってるんで、面倒なこともなくてボクとしては凄い助かってるんですよ?楽ですし」

「まぁ、それでいいならこっちも何も言わんが。それじゃ、俺からの直接依頼っていうことにしておくから

 、アンドリューのときと同じように好きに動いていい。受付には言っておくから、いい物が取れた時は受付の誰にでもいいからギルドカードを見せてくれ。それで俺のとこに通すようにしておく」

「滞在期間は一週間・・・どれだけ集められるか分からないけど、頑張ってみますね。ギルマス」


 その目に強い光を滾らせてそう言うクロウ。

 その言葉に、男は「おいおい、アンドリューの奴は名前呼びなのに俺はギルマスか?名前で呼んでも構わねぇさ」と、フッと笑って言う。









 その後、修練場には「名前、まだ聞いてません」というクロウの何とも言えない声音と、しばらくの間の沈黙が訪れるのだった。

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