第47話:一学期中間試験②
クロウ達がカルとククルを運んで行った後、多くの観客たちは先ほどの模擬戦の感想を言い合いながら席を立ち、闘技場を後にする。
だが、今回の模擬戦について情報を仕入れていた者たちは、そのまま闘技場に残ると少し得意げな表情を浮かべて最前列に腰を下ろすのだった。
その後、帰ってくるのが遅いクロウを待つ間の時間つぶしを兼ねてアンドリューとウィリアムはの軽い模擬戦が行われることとなり、残っていた生徒たちは喜びで飛び上がっていたのだが、次第にヒートアップしていく模擬戦を間近で目にして違う理由で飛ぶ上がっていたのは、また別のお話し。
「おじい様ーおやっさーん、ただいま戻りましたよ・・・って!どうなってんですかこれ!?」
模擬戦げ疲弊しきっていた二人を医務室に送ってきたクロウは、所々に戦闘の爪痕らしきものが残っているというか・・・どうやったらできるのか分からないが、地面の砂がクレーター上に隆起していたり、壁や地面にぱっくりと大きな亀裂が入っていたりと無事なところが少ない闘技場を見て、思わずと言った感じに叫び声を上げた。
「ん?おお、かえってきおったか!二人はどうじゃった?アンドリューの阿呆がちとやりすぎておったが、どんな感じじゃ?」
「一応二人には保健室の先生が[ヒール]を念入りにしてくれましたし、ボクも[ヒーリングビート]をかけておきましたからすぐ回復してくると思います。それと、二人はまだ折れませんし折らせませんよ」
「・・・そうかそうか、それは良いことを聞いたわい。・・・っと、危ない危ない。お主とアンドリューとの模擬戦を忘れるところじゃった」
ポンと手をたたいておどけたようにそういうウィリアムに対して、周りの惨劇を目の前にしているクロウは、その惨劇の中央で砂まみれになりながらもどことなく満足げな様子で寝そべっているー力尽きているとも言うーーアンドリューを指さして
「いや、絶対忘れてましたよね?」
と、ため息まじりにツッコミを入れるのだった。
「いやぁすまんすまん。久々に親父さんとやり合ったからよ、つい気が乗っちまった」
その後、クロウの魔法的治療によって万全な状態まで回復したアンドリューは、地面に胡坐をかき大きく笑い声を上げながらそう言うと、どっこいしょっと呟きながら立ち上がり軽く腕を回す。
「よっしゃ、坊主のテストもやるとすっか」
「いいですけど、ボクの戦い方だとおやっさんもちゃんとしたやつ使った方がいいと思いますよ」
「・・・そうじゃな。多対一になるからの、アンドリューもそんな棒切れじゃ対処できんくなるぞぉ?」
「まじですかい?多対一の戦いは俺の本分でっせ?それでも変えた方がいいと?」
「お主の言っておる多対一は近接戦闘だけじゃろうが。クロウの「ちょっと、おじい様!ボクの手の内そんなにばらさないでくださいよぅ!」お、おぉ。すまんのぅ、アンドリュー、と言うわけじゃ悪いことは言わんから槍だけでも学園の奴を使っておきなさい」
・・・はぁ、なにか面白い隠し玉でも作らないと。と、口を尖らせているクロウを傍目に、
「おやじがそういうなら使うけどよ。坊主ほっといていいのか?なんかぶつぶつ呟いてるんだけど」
「なにいつものことじゃ・・・ほれっ自分の世界に行く前に模擬戦せんか」
アンドリューとウィリアムはそう言葉を交わす。
ぐるぐると召喚獣たちに囲まれながら腕を組んで考え事にふけっているクロウにウィリアムはデコピンをかます。
あぅっ!と額を押さえて涙目になりながらも、正気に戻ったーーかどうかは分からないがーークロウは「そうでしたそうでした。おやっさん!さぁしましょうすぐしましょう!僕はもうすでに準備万端ですよ!」とテンション高く早口でまくしたてる。
「お、おう。じゃあさっさと始めるか。・・・って、坊主の武器はそれでいいのか?」
「いいんですー。今はコレって感じ何ですー」
「お、おやじぃ・・・」
「儂も未だにクロウの得意な獲物が分からんのじゃよ。まぁ本人がそう言っておるんじゃし、問題ないじゃろ」
グルングルンと鋼鉄で出来ているはずの槍を軽々と振り回しながら耳を疑いたくなるような発言をしているクロウにアンドリューはくたびれた声を上げてウィリアムに目を向けたが、バッサリと切り捨てられてしまう。
「それに、ああなったクロウはなかなか止まらんからのぅ・・・。まぁ大きいケガをさせんように頼むぞ?シャーロットに何をされるか分からんしの」
「それは・・・気を付けます。それに、今ならシャーロットだけじゃなくアリシアの奴までついてきそうですしね。とは言っても、坊主の実力次第なんでどうなるかは分からないですがね」
「おやっさん!まだですか!」
アンドリューがやや引き攣った笑みを浮かべて肩をすくめていると、闘技場の中央で待ちきれないようにクロウが飛び跳ねながら声を上げた。
「おう、今行くから待ってろ」と、その様子に先ほどとは異なった笑みを浮かべると、ポリポリと頭をかきながら鉄槍片手に中央でジャンプし続けているクロウの下へ歩いていくのだった。
『んん?・・・なんだ?この違和感』
適当にクロウを宥めると少し離れて槍を構えたアンドリューは、対峙するクロウに不思議な違和感を感じていた。
「では・・・・・行きますよぉ〜」
しかし、その違和感を 確かめる前にクロウが動き出した。
槍を傍らに構え身を低くしながらの突撃。
地面すれすれから繰り出されるその連撃にアンドリューは内心舌を巻いていた。
しかし、アンドリューも長年槍を相棒として使い続けて来たのだ。それくらいの攻撃は簡単に捌くことができた。
だが、その後のクロウが取った行動はアンドリューの予想を斜め上に超えていくものだった。
計10回ほどの連撃を繰り出した後、穂先を上に跳ね上げる形で槍を半回転させると、石塚を地面へと叩きつけ、その勢いと足腰はバネの力で空中に飛び上がったのだ。
それを見て「なっ!?」と声を上げて驚いたアンドリューだったが、流石の対応力で気を取り直し、空中から攻撃を仕掛けて来るクロウの迎撃に移る。
クロウの振り下ろす槍を弾き返そうと構えをとったアンドリューだったが、ニヤリと口元を歪めたクロウに気が付き、即座に周囲の気配を探る。
「チィッ!」
気配を探った結果、アンドリューは舌打ちしてクロウの一撃を受ける前にその場から飛びずさる。
アンドリューが離脱したすぐ後、一つの火球がその場所へ着弾し火の粉を散らす。
『こいつ・・・はなっからこれが狙いだったか』
5メートルほど後ろへ飛び退いたアンドリューは、続けざまに飛んでくる様々な属性の魔法弾に悪態を吐きながら闘技場内を動き回る。
「やっぱりいいですねぇ!」
先読みして放たれる魔法弾を目視してから避けているアンドリューにピッタリと付随し、度々攻撃を仕掛けてはその動きを妨害しているクロウは、嬉々とした表情でそう言葉を発し槍を振るう。
「仕方ねぇ!坊主、ケガしても知らねぇからな!」
しばらくそんなことが続き、遂にアンドリューが苛立ちを隠せなくなった。
「纏!」
アンドリューの発したものは活を入れるための物ではなく、一種の詠唱のようなものだった。その効果により身体が魔力で包まれ、その身体能力が飛躍的に向上する。
アンドリューが一歩踏み出す。
それによって地面にひびが入るがアンドリューは少しも気に留めずに槍を一閃する。
「ッラァ!!!」
強い気迫と共に振るわれた槍は、その破壊力をそのままに衝撃波として放たれる。
衝撃波によって舞い上がった土煙が晴れると地面が扇状に抉れているのが見て取れるだろう。
それは、先ほどまでの技でクロウに対処するといった柔の戦い方ではなく、力任せの剛の戦い方であった。
クロウとその召喚獣への牽制を兼ねた一振りだったそれは、アンドリューの思いがけない効果を発揮した。
数メートル先ーー扇状に抉れている場所の少し外でクロウが目を擦ってはその動きを止めているのだ。
『目に砂煙が入ったようだな。これは好都合だ、今のうちに当身でもして終わらせた方がいいな』
少しの時間ではあるがクロウと剣ーー槍だかーーを交えたアンドリューは、そのポテンシャルの高さに若干の焦りを感じていた。
そのためもあってか、クロウの動きが止まったことに好機を見出す。
足音を出来るだけ立てないようにクロウの後ろせ回り込むと『出来るだけ痛みは無いようにすっから悪く思うなよ』と心の中で謝罪し、手刀をその細首に向けて振るうも、
『なっ?!この状態でも撃ってくるのかよ!?』
背後から迫ってくる五つの魔法弾を察知し、手刀がクロウへ届く前にその場から飛び退く。
アンドリューに向けて放たれたはずの魔法弾は、アンドリューが飛び退いたことでその矛先を向ける相手がいなくなったかと思われたが、その場には未だに瞳を閉じて立ち止まっているクロウが居た。
「しまっ!」
五つの魔法弾はクロウに向かって進んでいく。
飛び退いた後にそのことに気づいたアンドリューは顔色を変えてクロウの元へ駆け出すが、その手が届くよりも早く魔法弾はクロウへと直撃してしまいそうだった。
背後からの完全な不意打ちとなるような形で五つの各属性の魔法弾を受けたならば、たとえアンドリューといえどかなりのダメージを受けることになるだろう。それなのに今その魔法弾を受けようとしているのは背の小さい子供だ。どれほどのダメージになるのかは考えるに及ばない。
アンドリューはせめて一つだけでも防ぐことができるように、魔法弾に向かって槍を投擲するも投げられた槍は五つの魔法弾の一つを掠めるだけに留まり、望んだ効果はあたえられなかった。
チッっと舌打ちをしたアンドリューはクロウが避けてくれることを願って「坊主!飛べぇ!」と声を飛ばした。
アンドリューの声が聞こえているはずなのに、クロウはその場に留まっていた。
避けるような動作もせずにその場に立ち止まっているクロウに「くそっ!」っと再び舌打ちしたくなったアンドリューだったがーーー
「仕方ない・・・か」
と、少し残念そうに呟かれたその言葉に思わず言葉を飲み込み、足を止めてしまった。
『何を言っ・・・ッ!?』
アンドリューがそう思った時、彼は自らの知る常識とかけ離れたものを目にすることとなった。
パンッ!と乾いた破裂音が五回連続して響く。
次の瞬間、アンドリューは自らの出せる最大速度で横へ転がっていた。
アンドリューが横に飛んだのは完全に勘によるものだ。
何が起こったのか正確に理解できたのは、起き上がってさっきまで自分のいた空間に五つの魔法弾が収束し、跡形もなく消え去るのを目にした後だった。
『マジかよ、坊主の野郎打ち返しやがったのか?撃ち落としたりたたった切るならまだしも・・・いや、あいつらの子供なら何しても不思議じゃねぇか・・・』
心の中で「なんてもん育て上げてんだよ・・・あの連中ッ!!!」と叫んでいると、
「[クリーン]っと・・・まったく、今度ゴーグルでも買おうかな」
魔法を使って目に入った砂を取り除いたらしいクロウの呟きが聞こえてきた。
「あーあ、これはあんまり見せたくなかったのになぁ。まいっか、面白いの思いついたし」
少し残念そうに口を尖らせてそう言うクロウは、少し長めに息を吐くとアンドリューに向き直ってニヤッと小悪魔チックな笑顔を浮かべる。
「おやっさーん・・・槍も無くなったけど、どうするの?」
ジリジリトと包囲を縮める召喚獣たちに目線を向けつつ、無手のアンドリューにそう言うクロウは、手に持った槍の穂先を目の前に翳す。
「・・・仕方ねぇ、ここで辞めたらあいつらに負けた感じがして気に喰わねぇが、これだけやりゃあ十分だ。続きがしたきゃギルドに来な、いつでもとわ言わんが、大体俺はギルドにいっからいつでも呼びな」
悪態をつきながらも頭を掻いてそう言ったアンドリューは、闘技場内に響く大きな声で模擬戦の終了を宣言するのだった。
「そうじゃ・・・今ここで模擬戦を見ていた生徒に告げる。カレア、クレア両名の模擬戦をどうこう言うのは構わんが、今の模擬戦を外で言いふらす事は無いようにの。こやつは余りそう言うのはいい好かんのでな、もし外でこの模擬戦の事が広まるなら、ここにいる全生徒が罰せられることになるからの。よく気をつけるように!!!」
神妙な顔付きで闘技場から出て行こうとする生徒たちに、ウィリアムは軽く威圧をかけてそう言う。
「「「「はい!!!」」」」
その威圧感に、生徒たちはビシッと姿勢を正し、声を揃えて大きく返事をした。
その様子に満足そうに頷くウィリアムは、召喚獣に囲まれながらアンドリューと話し合っている孫を見て、『これからこの学園にどのような波紋をもたらしてくれるのかのぅ・・・』と期待を寄せるのだった。
次回はちょこっと短いかもです。
後・・・三色エキス取った後の操◯棍のモーションって、めっちゃ大好きなんですよねー