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第42話:入学式 後編

遅くなりました!


学校の課題が多かっただけで、決してDQ11をやり込んでいたり、幼女戦や信長の忍び、その他諸々のアニメを見直したりしてたわけじゃないんだからね!

 試験で使った部屋より少し小さめの扉を開き、ククルと並んで教室へと足を踏み入れる。


 教室には、大体の人が集まっているようだったが、銅色のピンを付けている人は見た限りいなかった。



「おい!そこの奴!直ぐに退くのだ!我の道を塞ぐでない!」

 だが、教室内をよく見る前に、後ろから妙に耳に残る甲高い声?騒音?が聞こえてきた。


「えっ?」

「(カル!振り向かずに答えて無視!)」

「(えっ?了解)ああ、すまない」

 カルが振り向いて相手を見ようとする前に横からククルの鋭い声が飛んできた。

 その本意はわからなかったが、ククルの言葉の勢いから感じた不快な感情に只ならぬものを感じ、すぐさま男(だと思える声の主)そう言って、空いている席へと足を運ぶ。


 後ろから先ほどと同じ声で「平民がっ!ーー」とか「無礼だとはっ!ーー」とか聞こえるが、こういう時のククルの指示が間違った事はなかったから、ガン無視してさっさと座る。






 その後、しばらくの間ぶつくさほざーーー言っていた豚男(驚くことに銅色のピンをしていた)だったが、後ろから入って来た教師に咎められて渋々といった感じで最前列に腰を下ろしている。


「さて!先ずは入学おめでとう!と言っておく。だが、気を抜くなよ?お前たちがいるこのクラスは、この学年最優秀のクラスだ。全員が全員そうというわけではないがな・・・おっとすまんな。学年最優秀という事は、今年の成績が芳しくなかった場合、その生徒はこのクラスから一つ下のクラスへと移ってもらう事になる。一位二位三位以外の生徒はそれだけで済むが、今あげた三人!そこの双子とお前だが、詳しい事は言わないが、成績を落とす事はしない方がいいだろう。それと、今の三人は“成績が変わらない間”はそのピンを常に着けるか、持ち歩くことを進めるぞ?学食や購買がそのピンの色で特別価格になるからな。って、これでは成績を落とさないようにする必要性を言ったのと変わらないな。まあ、来年のクラス発表の日までそのピンは有効だから無くさんようにな」

 全員が全員ーーの下りは、独り言のようだったがほとんど全員が聞こえららしく『あいつか・・・』といった表情で、教師の冷ややかな視線を受けながらも、全く気付かずに最前列でふんぞり返っている豚男に視線を向けている。


『そういや、何でこんなにあのぶ・・・男が気に入らねぇんだろう?どっかで会ったこと・・・・・っ!?』

 豚男・・・本名はトン・プロシェル・アラカルトと言うらしいのだが、トンに視線を向けていた人の中にはカルとククルも当然含まれていた。


 カルは、トンを教師と同じように冷ややかな視線で見つめながら、ぼんやりとそんなことを考えていたが、ふと視点を動かしたときに、ククルの身に着けている腕輪が、カルの中のとある記憶を呼び覚ます。


『(あんの糞豚野郎かぁ!!!)』

 そして、それと同時に、カルの額にくっきりと青筋が浮かび上がった。

 なんとか理性を保つことが出来たので、少し殺気が漏れたが声は押し殺すことには成功した。


 少しばかり漏れてしまった殺気に反応して、こっちを向いた数人のクラスメイトには目を伏せて謝罪しておく。

 当然教師も殺気に気付いていて、厳しい視線で「後で詳しく話せ」と訴えてきている。これは、逃げられそうにないな・・・















 その後、クラスルームだけで帰れるはずだった二人は無事に教師に捕まり、居残り掃除をしながら事情聴取されることとなった。


「・・・・・それで?」

 カルとククル、そして教師であるシルビア・サルコ・メイティの三人が教卓から扇状に広がっているように見える教室を箒で掃いている最中、手を止めて箒を杖代わりにしているシルビアが二人に向かってそう切り出す。


 それを受けた二人は、一度顔を見合わせると、頷き合い話し始めた。










「なるほど・・・それにしても次から次へと厄介事を持ってくるな、君たちは」

 二人の話を聞いたシルビアは、大きなため息をついてそうぼやくが、その声色には、どことなく嬉々とした感情が含まれているように感じる。


「そんな他人事みたいにいわないでくださいよ」

「男が男に追われるのって、見てて結構来るものがあるんですよ・・・・・それが親友なら尚更」

 そんな様子に非難めいた声を上げ、頬を膨らませるククルと顔をしかめるカル。


 その様子にシルビアは「あ、そんなつもりじゃなかったんだけど・・・」と動揺し始め、教室には何とも言えない空気が漂い始めた。




 その様子に、ドアの外で壁に背を預けて中から響く声を聴いていたクロウは、今日何度目になるかわからないため息を吐くと、胸ポケットからペンと手帳のような物を取り出して何かを走り書き、ドアの下に滑り込ませると、一人で校舎の中を歩いてゆくのだった。















 二人の知らないところで、クロウが自由に行動している時、ククルが遂に教室に充満する暗いオーラに耐えきれなくなって声を上げる。


「あーもう!暗い、暗いよ!」

 シルビアとカルを交互に指さしながらそう叫ぶも、悲しいことに、空気はあまり変わらない。



 その様子を見て、ククルは地団駄を踏んだ後、

「話したんだから、何かあったら協力してくださいね!」

 と、言い残して去って行ってしまった。





 



 ククルが一人先に出て行った後、教室に取り残されたカルは、シルビアと顔を見合わせると、


「さて、男同士で話しますか。さっきの話の続きでも」

 と、言って椅子を引っ張り出してくるのだった。













 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シルビアがカルに向かって「クレアさんは放っておいていいのかい?」と言いつつ、目を丸くしている頃、クロウは学園内にある図書館の片隅で本の山を築き上げていた。



「ん?もうこんな時間なのか・・・」

 読書のし過ぎで少し疲れてきた目をしばしばさせていると、ちょうど午後三時の鐘の音が響いてきた。


 ググ~っと身体を伸ばしながら、目の前にある本の山々に向けて、達成感と疲労感の入り混じった眼差しを向ける。

 その後、むっふぅー、と誰に向けるでもないドヤ顔をしていると、クロウはこの山脈をどうやって処理しようかと悩み始める。


 いや、本来ならば返却スペース的な本棚が図書館の数か所に配置されているから、そこに置いておけば委員会的な人たちがジャンルごとにキチンと返しておいてくれるのだが、


『さすがにこれ全部返してもらうのはなぁ・・・』

 一山十冊以上の物が三、四山ほど。


 どうしようかなぁ~迷惑かなぁ~、と思って、視線を巡らせるクロウは、なぜか図書館の様子に違和感を覚えた。

 違和感の正体はいったい何でだろうと思い、記憶の中の風景と今の景色を比べてみると、それは案外簡単に判明した。


『返却スペース的なやつが無くなってる・・・だと!?』















 クロウが次から次へと本を引っ張り出して山脈を築いている最中、図書館の入り口付近で何やら話し込んでいる集団がいた。


「悲しくも、新学期そうそう返却当番となってしまった我々だが。早速緊急事態に陥っている」

 顔に冷や汗を浮かべながら周りに集まっている者たちにそう告げる、眼鏡をかけた生徒。


「「「「・・・ゴクリ」」」」

 その表情を見て、周りの者たちはそろって生唾を飲み込む。表情からどれほどの事態になっているのか分かったのだろう。


「さて・・・。今現在この図書館に居るのは、我々五人とあの少女みたいな者だけ。そこまではいい。だが・・・だが、あの者が今読んでいる物がいけない」

「な!?一体どんな物を?閲覧許可が必要なものは奥に入れられていたはずだが」

 深刻な声色でそう告げる眼鏡生徒に、周りにいる生徒の一人が、声を上げる。


「・・・・・いや」

「では、一体何が?」

 言葉を言い渋っている眼鏡は、四人の生徒の視線を受けると、眼鏡をクイッと上げ、


「あの生徒が読んでいる物全て返却棚に返されると・・・・・寮の門限に間に合わなくなる可能性がある!」

 と、瞳を強く光らせて、そう言い切る。


「な、なんだって!?」

「たかが一生徒の呼んだものだろう!?」

「先ほど見たときは、十冊も読んでいなかったぞ?」

「いや、読んでいた物が面倒な物なのでは?」

「いや、だが!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・

 ・


 その後、しばらく四人の議論は続いたが、痺れを切らした眼鏡が、「今から確認に行く。絶対に悟られるなよ」と言って席を立つと、先ほどまで議論していた四人も慌てて立ち上がり、洗練された兵士のような連携で、眼鏡より先にクロウの様子を見に行った。










 クロウを取り囲むようにして、四人がそれぞれ本棚の影に移動し終わると、眼鏡はクロウから三、四個離れた机に腰を下ろして、眼鏡をスチャッと上げる。


 それを合図に、先ほどの四人が目配せ、ハンドサインなどを使って指示を出し合い始める。




『一人ずつ・順番・いつもどうり・通過・確認・一周・退却』


 四人の中で作戦が決まったのか、一人が眼鏡に向けてそうハンドサインを出す。


 それを受けた眼鏡は、一瞬思考するが、すぐに眼鏡を上に上げる。

 これは、眼鏡のオーケーサインなのだ。





 眼鏡のオーケーサインを確認した四人は、目配せをした後に頷き合うと、その中の一人が本を数冊と一枚の紙をもって本棚の影から出てきて、クロウの後ろをゆっくりと過ぎ去る。

 そして、その人が奥へ消えると、次の人がクロウの横を過ぎ、次は再び後ろ、最後に前側を通りすぎて奥に消えてゆく。


 四人とも奥に消えていくのを確認した後、眼鏡は持っていた本をパタンと閉じて音を立てないように席を立つと、その本を棚へ返し、四人の後を追う。






 







 眼鏡が懐から数枚の紙を取り出しつつ、四人の側に移動すると、四人ともかなり深刻な表情になって話し込んでいた。


「あの本の数、嫌な予感がする」

「お前もか・・・俺もなんだか更に増えそうな予感がしてるんだ」

「それもあるが、積まれていた本のジャンルがバラバラすぎる気がするんだ」

「おいおい、嫌な冗談はやめてくれよ」


 少々声が震えている四人だが、眼鏡が差し出してきた紙を見て、少しだけその震えが治まってきた。


「あの生徒の積み上げた本の中で、俺の分かるものだけだが、ジャンル別に書いておいた。今の所、地形、気候、植物、動物、魔物、鉱石に関する本が同じくらいの量で、続いて調合、デザイン画集、歴史に関する本が多かった。後はよくわからなかったが、ジャンル別に分けてからならなんとか間に合うかもしれん」

 深呼吸をしたり手足を揉んで見たりして、落ち着こうとしている四人に眼鏡がそう告げる。


 その言葉に、四人は表情を一気に明るくする。


「だが、それは“今から”の場合だ」

 が、続けて言われた言葉に、先ほどとは比べ物にならないほどの絶望を叩きつけられる。



「なん・・・だと?」

「ヤベェよヤベェよ・・・・・門限に、門限に遅れたら・・・ヒィッ!」

「やめろ!思い出させるな!」

「・・・・・ッ!そうだ!返却棚を隠そう!」


 絶望に打ちひしがれ、一人は手を地面につき、一人は肩を抱き寄せ、一人は頭を抱え、一人は真っ白になっている中で、真っ白になっていた生徒が急に色を取り戻し、高らかにそう声を上げる。



「「「その手があったか!」」」

 返却棚隠蔽を思いついた生徒に「お前天才か!」と言わんばかりの眼差しを向け、眼鏡を除いた三人が同調するように立ち上がる。














 そこからの四人の行動は速かった。

 問題にならないように、貸出の受付に[返却棚は改修中です]という張り紙を用意し、部活動や研究会などのサークル活動で残っている友人の中で風魔法か身体強化を使える人を集める。


 集まった友軍に「終わったら一杯奢る」と言い渡すと、面倒くさげだった様子から一転して、一気に士気が高まる。




 四人の指揮の下によって、先ず身体強化を使える人が主となって返却棚を持ち上げ、次に風魔法を使ってそれを補佐するように下から押し上げる。

 途中何人かがクロウに気付いて、その動きを止る者が何人かいたが、その眼差しを受けている本人は周りのことに全く気付かないほど本に夢中になっているようで、本を開いては何かをメモし、また別の本を開いて、メモを取る。という作業を繰り返している。


 数人で持ち上げられた棚は、次々に奥の作業室に運ばれ、気休め程度の改修作業が始まった。




「そこもうちょっといい感じにできんのか?」

「これの方が良くないか?」

「私はこっちの方が好き」

「だが、実用性をーーーーー」


 始めは適当に進められていた改修作業だったが、だんだんとテンションが上がっていき、「図書館で何かやってる」という噂を聞きつけてやって来た人たちの参加もあって、始めの目的から大きく道が外れ始めることとなったが、それによって参加している全員が寮の門限を破ることとなるのだが、それはまた別の話・・・















 わいわいがやがやと図書館の奥で返却棚の大改造が行われていることなんて露知らず。

 クロウは「急げ急げー」と呟きながら山脈を次々と切り崩していた。

 大体の本は持ってきた場所を覚えていたため、僅か二十分程で粗方返し終わり、残り数冊となった。


「えぇーっと?【ウ=ス異本】?・・・・・・ブフゥッ!?どっから紛れ込んだ!?」


 途中、何故か名状しがたいナニ本が紛れ込んだりしたが、本棚の奥の奥に封印しておいたので被害は出ないだろう。

 それ以降は、特にこれと言った問題もなく、順調に返却作業は進んだ。


 その後、色々としていたら四時くらいになってしまった。

 山脈の解体作業を終えた後の達成感に、頬が緩んでしまっているが、この図書館には自分しかいなーーー


「お!探したぜクロッ!?」


 かったのにぃ!!!






















「絶対ククルには言わねぇからさ。機嫌直してくれよー」

 図書館から帰る途中、ずっと耳を真っ赤にしてプリプリしていたクロウだったが、


「あれククルは?図書館には来なかったけど」

 そういえば・・・と、首を傾げる。まだちょっと耳は赤い。


「んー・・・先に帰ってるんじゃね?あーでも、ちょっと怒らせちゃったしなぁ・・・」

「なにしたの?」

「内緒だ。ま、お菓子でも買って帰ればいいか」

 あっけらかんとしているカルの様子に、呆れたようにため息を吐くクロウだったが、


「そういえばお金持ってるの?」

「・・・あ」

「はぁ~。今回だけだかんね」


 再び、深くため息を吐くのだった。


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