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第40話:入学前に

遅れてしまい申し訳ありません!

次は期限に間に合わせようと頑張りますので、何卒!

 クロウは校門をくぐると、少し陽が傾いてきていた空を見上げる。


「やっと、ここまで来た・・・いや、これからなのかな?」

 フッと笑って呟かれたその声は、坂を登ってきた風に乗って流されていってしまい、カルとククルに届かなかった。


 だが、カルとククルは後ろを歩いているクロウの雰囲気が変わったことに気付き、二人で向かい合い小さく微笑んだ。

「(やっと、戻ったって感じだな)」

「(そうね・・・一緒に森で修行した時以来かしら)」

「(ああ、あれ以来、なんか気を張ってからな。まぁ、何はともあれ、クロウがこうなったんだ・・・しばらくは退屈しないでいいかもな)」

 双子の間で交わされた言葉。その本意は、この二人しかしらないのであった。












「〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜〜〜♪」


 その後、珍しく鼻歌を歌うほど上機嫌なクロウと、その横で二ヘラと笑っているククルを引き連れて、カルは屋敷に向かって歩いていた。


 待ち行く人の勘違いだらけの間違った眼差しを浴び続けながらも、屋敷へとたどり着いた一同は、アリシアの出迎えを受けながらその門を潜った。



「ふと思ったんですけど・・・なんで俺らが返ってくるのわかったんですか?」

 というカルの疑問は、アリシアの微笑みによって有耶無耶にされてしまい、カルの意識の中から不自然なほどにスッと消えていった。






 屋敷の中に入った瞬間、二人(カル+ククル)は一目散に自分の部屋に駆け込み、ドタバタと騒音を響かせると、動きやすそうな服をきて手に木剣を持った姿で出てきた。

 動きやすそうなといっても実際は、もともとただ頑丈だった服が使い古されて結果的に動きの阻害がなくなっただけなのだが。


「よし・・・いくぞククル。今日こそはクロウに勝ち越すぜ!」

 手に持った無数の傷の付いた木剣に目を向けながら、カルは強い光をその目に宿して庭に向かって行った。


「まだ剣だって全然当たらないのに?」

 というククルの言葉で一度すっ転んだが・・・・・




 カルとククルが庭にやってきたとき、そこは一つの戦場と化していた。


「フッ!・・・シッ!・・・ハッ!」

 空中に浮かぶ色とりどりの魔法陣から飛んでくる多属性の魔法をテンポよくはじき返し、次から次へと飛んでくる魔法に当てて軌道を逸らしたり、最小限の動きだけで回避したと思ったら、アクロバットな動きで長い距離を素早く移動しているクロウと、その周囲を円状に取り囲むように陣取りながら、それぞれが得意とする魔法をローテーションを組みながら打ち続けている召喚獣たち。


 傍から見れば、目を疑うような状況なのだろうが、長年クロウに振り回されてきたこの二人は、その限りではなかった。


「お!珍しいことしてんじゃん!・・・ん?待てよ?この流れに乗れば、クロウに・・・・・ならばっグペッ!」

 クロウの様子を見たカルは、悪い笑みを浮かべて魔法の詠唱を始めようとしたが、ククルに横から脇腹を突かれて大きく(奇)声を上げて仰け反る。


「ん?やっと来たんだ・・・よーし、みんな終わっていいよ~」

 その声を聴いて、顔をそちらに向けたクロウはスイスイと前後左右から飛んでくる魔法弾を見ることすらしないで避けながらジン達にそう告げる。


 クロウからそう言われたジン達召喚獣組は、身体を伸ばしたり、ブルブルと振るわせたりした後、ジン・イザナミ・ツクモはクロウの傍に駆け寄っていき、サクヤ・フレイヤは空へと羽ばたいて行った。



「フフッ・・・残念だけど、今からクロウちゃんは私・・・たちの貸し切りよ?終わるまで待っててね」

 スリスリと身体をクロウに擦り付けているイザナミとツクモに微笑みながらククルはそう言うが、途中で言葉が途切れた瞬間だけは、その瞳を妖しく光らせていた。



 その後、ダメージから復活したカルと共にこの街に来てから初めての組手を行った。


 始めの内はカル・ククルで交代しながらクロウと魔法なしの身体能力だけで打ち合っていき、そこから身体強化あり→属性魔法あり→二人同時→身体強化のみ・・・と形式を変えて延々と日が暮れるまで続けていた。


 始めはノリノリで打ち合っていたカルは、回数を重ねる毎に少しづつ疲労の蓄積していったクロウから一本取ったことでさらにテンションが上がり、しまいには疲れ果ててぐったりと地面に寝っ転がっていた。

 ククルはその横にペタンと座り込んで肩で息をしていた。服はそれほど乱れてはいないが、汗を吸い込んでいるためかぴっちりと体に張り付いていて、ククルのボディラインがハッキリと分かってしまう。


 カルはさて置き、今のククルをあまり人目に晒したくはないクロウは、少し大きめのタオルをアイテムボックスから引っ張り出してククルに渡す。


「あ、ありがと・・・・・『それにしてもクロウちゃん、あれだけ動いたのに何で息切れてないんだろ』」

 息を整えながらタオルを受け取ったククルは、手早く汗を拭いて肩に羽織るようにして掛ける。内心では、息を切らすことなく小さなタオルで汗を拭いているクロウにかなり驚いていた。


『不味い・・・予想以上に疲れた。早くシャワー浴びたいなぁ。あ、でも先にククルか・・・しょうがないか』

 そんなことを思われているとは露知らず、クロウはぼんやりとククルがシャワーから出るまで何をして時間を潰そうかを考えていた。


「ま、いっか・・・ククルは先にシャワー入っちゃって。僕らは時間潰してるから」

 めんどくさくなって一瞬で考えを放棄したが、ククルをシャワールームに行かせることは出来たので良しとしよう。










「なぁクロウ・・・・・一つ聞きてぇんだけどよ」

 ククルを送り出して、カルの横に腰かけたクロウに対し、カルは仰向けに寝転がりながらおもむろにそう言うと、その姿勢のまま右手をオレンジ色に染まりつつある空に突き出し


「このまま頑張ったらさ・・・俺もお前みたいになれるのかな」

 と、静かな声でクロウに問いかける。

 何かを掴む様に掲げられた右手は、舞い落ちる木の葉すら掴むことが出来なかった。




 その後、右手をパタンと降ろしたカルの表情は、普段の彼からは考えられないようなほど、思い詰めているようなものだった。


「・・・・・カル。君は潜在能力だったら、ボクと並んでいる・・・いや、正直言ってボク以上かもしれない。もちろんククルも同じようにね」

 そんなカルの顔を見て、クロウは上を向きながらそう話し始める。


「この話は父様から聞いてほしかったんだけどなぁ・・・・・あのね、カルとククルだと多分、今の段階だったら同年代で後れを取るような相手はほとんどいないと思う。でも、それは同年代の人等より対人・対魔物の経験が多いからなんだ。中には例外もいるだろうけど、大体の人はこの年で魔物となんて戦わないし、貴族でもなきゃ戦闘訓練なんてしない。話を戻すけど、経験では圧倒的に周りより多いカルが、なぜボクに勝てないのか・・・もうわかったんじゃない?」

「・・・・・経験か?それも俺の非じゃない、有り得ないくらいの経験を積んでいるから?」

 クロウの話を寝ころんだまま聞いていたカルだが、顔を上げてクロウの質問に答える。その声は納得いかないような、納得したような曖昧な響きだった。



だが、その言葉を聞いたクロウは「その通り」と行って立ち上がり、言葉を続ける。


「カル、君は・・・いや、君たちはまだ命を懸けた戦い、殺し合いをしてない。森での最終試験の時だってそうだ。心の何処かに余裕があった。危なくなったら助けてくれるっていう確信があったんじゃない?・・・・・人が本当に経験を積めるのは、その余裕が完全に無くなった時。誰も助けてはくれない、そんな中で、自分一人の力だけで状況を突破しないといけない時。そんな時、人の心は二つの選択肢を出すんだ。・・・一つは、諦めること。それは、心が折れてしまうことを指している。そうなったら、そのトラウマとも言えるものが無くならない限り、同じような状況で成長する事は絶対に無い。そして、もう一つは、成長。自らの限界を超え、その先へと到達すること。この時、人は戦闘訓練なんかとは比べ物にならないくらいの経験を得ることができるんだ。・・・ボクはね、もう既にそれを経験してるんだ。命を懸けた戦い、正真正銘の殺し合いをね」


そう語るクロウの背中は、なぜかとても悲しく見えた。まるで、自分のしたことを強く後悔するかのように、小さな声で語るクロウを、カルはただただじっと見つめることしか出来なかった。そこには、驚いた気持ちだけでなく、他の、言葉で表せないモヤモヤとする感情があった。



だが、そんな声とは裏腹に、カルの方に振り向いたクロウの表情は明るく澄んだものだった。


「まぁ、だからと言って、強くなりたいなら死闘をしろなんて言わない。それに言ったでしょ?カルとククルはセンスが良いって。だからそんなに焦らなくても良いんだよ?中等部くらいになったら、多分今のボクには負けないくらいになってると思うしさ」

そう言い括ると、クロウは照れ臭そうに頭を掻き、「そろそろククルも上がってるだろうし、行こっか?」と寝転んで難しい顔をしているカルに呼びかけて、シャワールームへと向かって行った。











その後、裏庭に取り残されたカルは


「“今の”お前か・・・・・じゃあ、死ぬ気で頑張らねぇとな」


と、一人ごちり、クロウの後を追ってシャワールームへと向かうのだった。

その後、シャワールームの前で立っているクロウを見つけたカルは、「お先に!」と言ってシャワールームに入っていき、バスタオルを巻き付けたククルに(風魔法で)叩き出されたのだった。

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