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第39話:入学試験の日③

「ちょっとだけ待っててね〜。今担当の子呼んでくるから」

 三人に向かってそう言うと、ディーアは小走りで何処かへと行ってしまった。



 その場に取り残された三人は、特にすることも思い浮かばなかった為か、


「クロウ!暇だ!相手してくれ!」

「嫌だ。今日は全然ジン達をモフッて無いし、今の内にたくさんモフるんだから」

「仕方ないわね、私がやるわ。クロウちゃん、合図だけ出してね」

 クロウはジン達を召喚して、1匹ずつ念入りにグルーミングし始め。カルとククルは、自身の剣を抜いて模擬戦を始めた。






 カルとククルが模擬戦を始めて、十数分経った頃

「三人ともお待たせーって、何してるん!?」

 三人の生徒と思わしき男女を引き連れたディーアが、戻ってきて早々

 ツッコミを入れる。


「あ!お帰りなさいです!」

 とカルの振るう剣を躱しながらディーアにそう言うククルと、


「モフッモフだぁ〜・・・」

 と、呟きながら何種類もの櫛で召喚獣をグルーミングしているクロウ。ちなみに、ディーアのことはまったく気付いていない模様。


「余所見すんなよ!ってディーアさん!お帰りなさい!」

 そして、ククルに再び剣を振るおうとしてディーアに気付いたカル。



「君たち・・・何してるのよ・・・」

 その様子に、ディーアは遂にキャパシティオーバーを起こし、「真っ白に燃え尽きたぜ・・・」になりながらその動きを停止したのだった。















「はっ!私は何を!?」

 それからしばらくして、生徒の助けによって再起動したディーアは、未だ好き勝手している(寸止め模擬戦大会&エンドレスグルーミング)三人をチラッと見て溜息をつき、隣にいる生徒に「どう?」と問いかける。



 その質問(?)を受けた三人の生徒は少し悩んだのちに、

「緑髪の男子はいい動きをしてますね。基本がしっかり出来ているように見えます。軸もあまりぶれていないようですし、これからが期待できますね」

「緑髪の女の子は、レイピアの使い方を分かって立ち回っているように見えますが・・・まだ何かありそうですね」

「戦えるんでしょうかあの子?あのワンコたちの方が強そう。ていうか私もモフりたい」

 と、それぞれが自分の意見を述べた。一人だけおかしかったが。


「じゃあ・・・クロウちゃんを除いた二人は満点。クロウちゃんは・・・半分くらいでいいでしょ」

「いいんですか・・・後で校長に怒られますよ?」

「いいのよ、どうせあの人なら知ってるだろうし」

 フッと力なく微笑んでそういうディーアに、周りの生徒は呆れたようにそう言うが、ディーアはだれにも聞こえないくらいの声で「こんなの聞いてない。愚痴ってやるぅ」と、ぼそっと呟いたとか。






「じゃあ先生、自分たちはこれで」

「「お疲れ様でーす」」

 壊れた人形のようにギギギ・・・とぎこちなく動くディーアを傍目に、意気揚々とこの場を去っていく生徒達。少し耳を澄ませると「やっと帰れる〜」「帰りなんか食べてかない?」「いいけど、私は早く帰って寝たい・・・」という会話が天幕の外から響いて来たのだった。




『ご主人ご主人!誰か来たみたいにゃよ?』

 その声が聞こえたのか、グルーミング中だったイザナミは、むくりと起き上がってクロウにそう言う、


「え?ああ、ディーアさん戻ってきてたんですか」

 イザナミの言葉でようやくエンドレスグルーミングを止めて、辺りを見渡したクロウは、天幕の入り口らへんでF◯で有り金全部溶かしたような顔になっているディーアを見つけてそう言うも、先ほど言っていた担当の人がいないことに気付き、首をかしげる。


『さっき三人来てた・・・。やっぱり気づいてなかったの・・・?』

「くぅ・・・みんなも教えてくれれば良かったのにー」

 ふぁああ…と欠伸をしながら眠そうに呟くツクモの言葉に、ガックリとするクロウだったが、尻尾でポフポフと慰めてくれるジンをワシャワシャしてから立ち上がり、未だに剣を振りあっているカルとククルに目を向けると、ムッとした後に大きくため息をつき、二人の剣がぶつかる瞬間を見計らって、何かを唱え腕を振るう。


 クロウが二人に向けて腕を振るうと、二人の影がザワリと蠢き、身体に纏わりついて拘束する。


「うおっ!?」

「きゃっ!」

 突如として纏わりついてきた影に声を上げて身体を捩ろうとするも、先に影が絡みついているため、全く動くことが出来なかった。




「うぇっ!久々にくらったけど、やっぱキモイ!」

 影の纏わりついていない顔を動かして、クロウに向けたカルは、うぇ~っと舌を出して顔をしかめる。


「うーん・・・私もあんまり好きじゃないわね。なんかクロウちゃんらしくないし」

「そういう問題じゃねぇよ!」


「はぁ~・・・いいから解くよ。まったく、帰ったら付き合ってあげるから、取り敢えず落ち着け。そして、静かにしてろ」

「まじか!絶対だぞ!」

 はいはいと言ってクロウは二人に掛けている魔法を解除し、呆れたように溜息を吐く。


「ふぃ~・・・やっぱり動けなくなるのはキツいな」

「そうね・・・クロウちゃんと勝負するときとかね。あれは厳しかったわ・・・魔法撃っても簡単に避けられちゃうしね」

 拘束が解け、自由になった身体を伸ばしながらそう言う二人だったが、


「だってはじくの面倒くさいし、二人とも動くの早いからさぁ」

「「そもそも何で弾けるの!?」」

 クロウの言葉に、思わずツッコミをしてしまう二人だった。
















「さ、さあ。最後の試験だ!い、移動するよ!」

 三人の様子を眺めていたディーアが急に立ち上がり、上ずった声でそう言う。


「どうしたんですか、ディーアさん」

「ど、どうもしないよ!?」

「「「???」」」

 クロウの言葉にも上ずった声でそう答えるディーアに、三人はただ首を傾げるだけだった。




 その後、少し挙動の可笑しくなっているディーアについていき、闘技場の何十倍もある校舎に入っていく。途中すれ違った生徒たちにガンバレーと幾度も声を掛けられたが。



 少し校舎内を歩いて、張り紙のされた教室の前にくると、

「ふぅー・・・さて、着いたわよ。先に言っておくけど、今からする試験は簡単なテストよ。中に入ったら担当の人がいるからその人の説明を受けてちょうだい」

 と、ディーアから伝えられた。


「私はここでさよならだからね。さ、頑張ってらっしゃい!」

「「「ありがとうございました!」」」

 ディーアは、三人にそのことを伝え終わると、そう言って立ち去っていった。その背中に三人の声が飛ぶが、ディーアは振り返ることなく手を振るのだった。




「よし、入るか」

「そうね、早く終わらせて帰りましょ」

「そうだねー。早く帰ってみんなと遊びたいし」

 ディーアを見送ってから、そう呟いた三人は、教室のドアを押し開いて中に入っていく。




 三人が教室の中に入っていくと、ザワザワとしていた空気が一気に冷え、シーンとした雰囲気に包まれる。


「う、うおっ・・・」

「嫌な感じね」

 肌に刺さるような視線に、カルとククルはそう小声で呟く。


「どうしたの?席に着かないの?」

 その横をクロウは何でもないような表情で歩いていき、教室の後ろの方の席に着く。


「ちょっと!待ってよ」

「またかよっ!」

 カルとククルはクロウを追いかけて、その横の席へと座った。





 それと同時に、先ほど三人の入ってきた教室のドアが勢いよく開け放たれる。


「さあ!少年少女諸君!今から最後の入試試験を始めるぞ!良くても悪くても関係ないがな!はっはっはっ!」

 入ってきた瞬間にそう大声で告げた大柄の男は、手に持っていた紙をわざわざ一人ずつ手渡ししていく。その時に、全員に激励の言葉を伝えていたので、筆記試験が始まるころには、教室内のほとんど全員に相当暑がられていたが。







「よし!全員にいきわたったな?では・・・筆記試験始めっ!」

 全員に用紙を渡し激励を述べたことで満足したのか、泣いている赤子がさらに大きく泣き出しそうなマッスルスマイルを浮かべて教卓に着くと、半数以上が顔を引きつらせている教室内に向かって空気を震わせるほどの音量で試験開始の合図をした。






















 それから数分後、カリカリとペンを使う音が教室内に響く中、その中の音が一つだけ止まる。


『終わった終わった・・・案外多かったっな〜』

 銀色の髪を揺らして、身体を伸ばしながら小さく息を吐く。この教室内て最も異質な雰囲気を放っている少女のような少年クロウは、ペンをホテルのカウンターにあるようなペン置きに戻して用紙の見直しを始める。

 その後、僅か数十秒で見直しを済ませたクロウは、もう既にすることも無くなり暇になってしまった。


『さて・・・何しよう?』

 落書きでもしていようかと一瞬考えたが、それすら面倒くさく感じてきたクロウは、考えることを止めただ時の流れに身を任せるのだった。・・・FXで有り金全部溶かしたような顔をしながら。





 クロウがぽけ~っとしていると、徐々にペンを走らせる音が少なくなっていった。

 そして、その音があと数人ほどになった時、マッスルスマイルが終了の合図を出した。


「終わったー」「お、終わった・・・」

 と、二種類の声が教室内に響く中、カルとククルは前者の声を上げていた。驚愕の事実だが、実はカルはそこそこ頭が良いのだ。所謂、天才肌なだけで、決してバカではない。


「・・・・・はっ!あー・・・なんだ終わったのか」

 隣から聞こえた大きな声で現実へと戻ってきたクロウは、教室内の雰囲気から試験が終わったことに気付き、惚けきっていた表情を元に戻す。



「さて、新入生諸君!今の筆記試験を含む今日行った数々の試験を集計して諸君の得点を出し、その点数で諸君の所属する教室が決まるのだが、その通達は諸君の家に送られるのでそれまで待っていてほしい。入学時の諸事情に関しては、その通知とともに送られるため、保護者とよく読んでもらいたい。・・・これで入試試験は全て終了した。各自気を付けて帰宅してくれ。では解散っ!」

 教卓から未だザワザワとしている教室を見渡しながらマススラは、そう言って一人先に教室から出ていく。


 その後、教室に残された新入生一同はしばらくザワザワとしていたが、それぞれの塊に分かれて次々と教室を後にしたのだった。








「さてと、ボクらもそろそろ帰ろっか」

「おう!」「そうね」

 教室に残っている人も残り少なくなってきた頃、外の景色を眺めていたクロウがぼそりと呟き席を立つと、カルとククルもそれに倣うように席を立ち教室を後にする。


 生徒たちが少なくなって閑散とした校舎を出て、青年に連れられて歩いてきた道を引き返している最中、ディ-アさんの姿が見えなくて少し残念だったが、そのまま屋敷へと向かうクロウ達だった。

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