第38話:入学試験の日②
試験一つ目!
入学試験のある当日。クロウ、カル、ククルたちは準備を終えて、屋敷を出た。
クロウたちが現在住んでい屋敷は【住宅区】の一角にあるためか、門の外には在校生と思われる男女の集団が、学園の方に向かっているのが見て取れた。なぜ辺境伯であるロペス家が【貴族区】ではなく、多くの一般階級出身の生徒たちの住まう【住宅区】に住んでいるのかは分からないが、国王様と仲が良かったみたいだから、どうにかしたのだろう。方法は知らないし、知らない方がいいだろう。
屋敷の前を通る集団には、白を基調とした服装の塊と、それに対するように紺を基調とした服装の塊があり、誰一人として、服装の乱れは見られなかった。
その顔は、皆が皆誇りに満ちており、これからの学園生活に対する期待を高めてくれる。
そんな嬉々とした表情でロペス家の屋敷から出てきたクロウ達を見て、道を歩いていた生徒たちは興味深そうに見つめたり、奇異の表情を浮かべる。
「な、なんか見られてない?」
とキョロキョロしながらもカルを盾にして、視線を遮ろうとするククルだが、
「何してるの?早く行かないと。いいの?遅れたら面倒なことになりそうだけど」
周りの視線など全く気に留める様子もなくクロウがドンドン歩き始めたので、カルを捨て去るようにしてクロウについていくのだった。
「・・・え?俺放置なの?」
次第に遠ざかっていく二人の背中を唖然とした表情で見つめていたカルの悲痛な声が、その場にいた生徒たちの同情の眼差しを受けて響くのだった。
「「「おお~~~・・・」」」
緩やかな坂道を登り切った先で、三人の歓声が重なる。
「やっぱりすごいな・・・遠くから見るよりでっかく見えるしさ。なんつーか、壮大?っていうんだっけ。圧迫感あるな」
自分の身長の何十倍もある学園の厳かな雰囲気に圧倒されたのか、いつも元気なカルが小さくそう言う。
「そうね・・・赤熊さんとは違った緊張感があるわよね」
その言葉にククル神妙な顔をして頷く。何か少し違う気もするが・・・
そしてクロウはその傍らで、
「はぁ~~~・・・」
と、ため息を溢しながら、キラキラとした瞳で学園を舐めまわすように隅々まで眺めていた。
「カ、カカ、カルッ!クロウちゃんが!」
その顔を見て再び赤いものを吹き出しそうになったククルは、さすがに人前ではいけないと思い、カルに知らせた後、後ろを向き深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「なんだ・・・って!クロウ!落ち着け!この先いくらでも見れるんだからな?な?」
近年希に見るクロウのキッラキラした表情は、カルの言葉によっていつものモノへと戻った。
「ごめんごめん・・・なんだか嬉しくなっちゃってね」
テヘッと誤魔化しながら言うクロウだったが、付近からズキュゥウンンン!!!という効果音が複数回響いたことには気付かなかったようだ。
そんなこんなで、クロウが意図せずに何人かを射止めていると、
「君たちも入学試験を受けにきたのかな?」
と近くから声がする。
三人が声をした方向に顔を向けると、実に爽やかな笑みを浮かべた青年がそこに立っていた。
その青年は、来る途中に見た白い制服と同じ物に身を包んでいるが、細部のカラーリングが異なり、校門にあった紋章の刻まれた腕章を身に着けている。
「かっけぇ・・・・・あ、はい。そうです」
カルの理想の騎士像とするアイザックとは別の騎士像に何かを感じたカルは、一瞬だけ目を輝かせるが、すぐにに通常運転へと戻り返事を返す。
「ふふっ、ありがとう少年。さ、お嬢様方も、会場はこちらですよ」
カルの小声が聞こえていたのか、青年はにっこりとほほ笑むとクロウ、カル、ククルを会場へとエスコートする。
その道中、一人だけ首をかしげていたが・・・
青年に連れられて三人は会場にたどり着く。
大きな室内闘技場のような建物の入り口付近で周囲を見渡すと、自分たちのように白い制服の生徒に連れられている人たちが受付のような簡易的な、ただ机に白い布を被せただけの場所に列になって並んでいるのが見て取れた。
「さて、私の仕事はここまでだ。少年、しっかりナイトをするんだぞ」
後は並んで指示に従ってくれと、言い残して青年は入口へと戻っていく。少年~のくだりは、本音半分からかい半分といった感じにいっていた。
「「「ありがとうございました」」」
だいぶフランクな人で、この闘技場に来るまでの道でも学園のことを面白おかしく話してくれた。
そのことのお礼も含めて、三人は頭を下げてキチンとお礼を言う。
「さて・・・並ぶか」
「そうね早く並んじゃいましょ」
青年を見送ったのち、言われた通りに列の最後尾へと向かう二人だが、放っておくと何をするか分かったものではないクロウを両脇から二人でガッチリと捕まえて連れていく。
二人の手つきは慣れたもので、クロウは瞬く間に連行されていく。
「え?ちょっ!」
ズルズルと連行されながら、クロウは諦めたように周りを見ることに専念したのだった。
二人がクロウを捕まえながら列に並ぶことしばらく、ようやく三人の番がやってきた?
「はーい、次の人・・・って、あら。一昨日あった子じゃない。そっちの男の子二人はナイトさんかしら?」
受付に座っている女性は、ククルを見るや否や、にっこりとほほ笑んでそう声をかける。
「「「・・・!?」」」
その言葉を聞いて、クロウ、カル、ククルは三者三様な反応を示した。
クロウは相手が自分のことを初見で男だと見抜いたことに謎の感動を覚えて、言葉が出なくなり。
カルはクロウを男だと見抜いたことに普通に驚き言葉を失う。
そして、ククルは一昨日に冒険者ギルドの前であった女性とここで鉢合わせたことにビックリしている。
そんな内心を知ってか知らずか、三人を見てフフフと笑っていた女性は、
「ねぇ!後は任せてもいいかしら?」
と、後ろにいる生徒たちに呼びかけ、返事を待たずに立ち上がると、クロウ、カル、ククルのそれぞれに122、123、124と書かれたプレートを渡し、「着いてらっしゃい」と言って闘技場の中へと歩いていく。
「えっ!?ちょっ!先生マジっすか!?」
と後ろから響く生徒の不満そうな声に後ろ髪を引かれながらも、三人は闘技場内部へと続く大きな扉を潜り、教師であるらしい女性の後ろをついていく。
真っ直ぐと続く通路を抜けると、巨大であろうコロッセオのようなドームに幾つもの仕切り幕が立ち並んでいるのが見えた。その途中で名前を教えて貰ったが、ディーア・デイビスと言うらしい。ディーアと呼んでほしいとも言われた。
度々その仕切りがたなびいて中から魔法の余波が見えたり、二人組で剣を打ち合っているのが見て取れる。
「さて、今からここですることを説明するわね」
クロウ達が周りを見渡していると、ディーアはそう切り出し説明を始めた。
「まず三人にしてもらうのは、この【魔力水晶】を使った属性判定ね。これで三人の適性を調べるわ」
こんな風にね・・・と、どこかから取り出した透明な水晶に手をかざすと、初めは緑色に強く光り、次に白、青と少しずつ光を小さくしながら色を変えた。
その光りを見て頷くと、「ほら、貴方達もやって見て」と言い、目の前にいたカルに手渡す。
カルは、水晶を神妙な顔で受け取ると、ディーアがやって見せた事を真似て、水晶に魔力を流し込む。
すると、水晶は緑、赤、青と続いて強く輝いた。
「ふ、ふむふむ・・・なるほどね。じゃあ次お願い」
その光りを見て、懐から取り出した紙に何かを書き込むと。ペラリと一枚捲り、カルから受け取った水晶をククルに渡してそう言う。
「はい!いきます!」
ククルはキラキラとした表情で水晶を受け取ると、えいっ!と可愛らしい声とともに”力”を込める。
「あっ・・・」
と言うクロウの声と
「えっ・・・」
と言うディーアの声が重なり、さらには、パキッという綺麗な音も加わった。
声になっていないディーアの悲鳴を後ろに響かせながら。
その後しばらくの間石像のようになっていたディーアだったが、クロウの「あ、まだ使えるみたい」と言う声で復活した。
「いや〜怖かった・・・あれ壊れたら担当者がお金出さないといけないのよ。まったくもう、ヒヤヒヤしたわ」
「うー・・・ごめんなさいです。変に興奮しちゃって」
冷や汗を拭っているディーアに頭を下げて謝罪しているククルを傍目に
「先にボクがやるよ?」
と、いつの間にか水晶を抱えていたクロウがそういう。
「え、ええ。お願いするわ」
「わかりました。では・・・!」
クロウが両手で抱えるようにして持っている水晶に魔力を流し込むと、ディーアやカルの時とは異なり、しばらく反応が起きず、全員が首を傾げていると、すぐに白く光りはじめた。だが、その光りもディーアとカルから比べると、弱々しく感じられ、その次に黒くなったが、こちらも色は薄かった。そして、それ以降はまったく光を発しなかった
その様子にクロウ、カル、ククルの三人が首を傾げていたが、ディーアだけは「こんなもよのね」と微かに呟いていた。
「うん、わかったわ。じゃあ、ククルちゃん!」
メモをし終わったディーアは、ククルへと向き直って名前を呼ぶ。
「はい!」
ビシッと姿勢を正して大きく返事をするククルにディーアは、「魔力だけよ!?絶対、魔力だけ流してね!」と強く釘を刺して、水晶を渡す。
「はい!了解です!」
と言って水晶を受け取ると、一瞬躊躇ったのち「カル持ってて」とカルに渡す。そして、カルが両手で持ったのを確認すると、手をかざして思いっきり魔力を注ぎ込む。
ククルの魔力を注ぎ込まれた水晶は、ディーア、カルと同じくらいの強さで、緑色に光り、続いて白、赤と光った。
「・・・う、嘘ぉ」
その反応を見て、ディーアは小さくそう呟くが、
「ふぅ、ふぅ、ふぅ〜・・・どうですか?ディーアさん!」
「え?あぁ、これでいいわよ。じ、じゃあ次の試験に移りましょう!」
ククルのドヤ顔を見て、表情を作り直してそう言うが、やや引きつっている。
「「「はーい」」」
その様子に気がついていない二人と、気がついているが見なかったことにした一人は、元気に返事をしたのだった。