第03話:誕生日
*2018 3/22 修正完了
クロウとしてこの世界に産まれてから3年ほど経った。
[言語理解]の祝福のおかげでどんな文字も読むことができるので、子供でありながら読書が趣味という見た目にも中身にもそぐわないものとなっていた。
普段ならエリス、ケイリー、リリアンの誰かか、シャーロット自身に本を読み聞かせてもらったりしているのだが、今日は何故か誰も来てくれないため、仕方なく部屋にある本棚まで歩いて行って中から図鑑のようなものを取り出して時間を潰す。
時間が過ぎていくのと比例して分厚い本が山のように積み重なっていく。
粗方読みやすような図鑑などを読み終えてホッと息を吐くと、窓から差し込んでくる光の色がオレンジ我色に変わっていることに気が付いた。我ながら呆れるほどの集中力だ。
朝から晩まで本を読み漁っていたことに我ながらドン引きしていると、下の階から「出来たー!」という声が響いてくる。
声がエリスのもだけだったならば俺も『いつものことか・・・』と思うだけだったのだが、今日に限ってはケイリーとリリアン、シャーロットの声まで混じっていたので俺は首を傾げていた。
いつもこの声が聞こえた後、数分以内にメイド三人衆の誰かが呼びに来るので、俺は一日中座っていたせいで少し固まっている体をほぐしながら立ち上がると、少しふらつきながらも図鑑の山を整地し始めた。
山が半分くらいまで削れた頃、メイド三人衆の中で最も落ち着いていて頼りになるリリアンがそっとドアを開けて声をかけてくる。
「クロウお坊ちゃま、ご夕食の準備が出来ました。お遊び物を・・・と、もうお片づけを始めなさっているのですね」
「リリー。下でお母さま達と何を作っていたのです?みんなの声が聞こえてきたのですが」
「え!聞こえていましたか?ちょっとは恥ずかしいですね。でも、それは秘密です。答えは下に行ってからのお楽しみですよ」
口に手を当てて若干頬を赤らめるリリアン。その後見せた笑みは普段冷静沈着な人が見せるにはインパクトのあるものだった。
三歳になったといっても、一人で何段もある階段を降りるのは危ないという理由で許可されていないので、今のようにリリアンや他の二人のどちらかに抱きかかえられて一階二階を移動することになっている。
俺本人としては少し過保護すぎるのではないかと思っているのだが、この家の大人たちはそれでも心配らしく、階段下にもう一人立っていることが多い。
今日はリリアン一人だけらしく、階段下には誰も立っていなかった。ここ数週間は必ずと言っていいくらいクロウを抱っこする人と階段下で待っている人の二人組だったので、俺は珍しいこともあるんだなと思って首を傾げていた。
それに加わるように階段を下ったところでリリアンが俺を下ろし、「声をかけるまで食堂には入ってこないでくださいね」とだけ言って食堂へと入っていった。
一人取り残された俺は、首を傾げる角度を大きくして階段の一番下の段に腰かけるのだった。
リリアンが食堂に入っていってから数分経った頃、食堂の中からリリアンを含める女性四人の「入ってきていいですよ~!」という声が響いてきた。
リリアンの言いつけ通りに声が聞こえてから俺は、食堂の扉を開く。
パンパンパンパンパン!
と何かが弾ける軽い音が五回続けて俺の耳に届いた。
目を白黒させて固まっていると紙吹雪とテープが降り注ぎ、俺の視界を鮮やかに彩る。
何が起こっているのか理解が追いつかず、あわあわとしているとアイザック、シャーロット、エリス、ケイリー、リリアンの五人からそれぞれ大小様々な紙袋と「お誕生日おめでとう」という言葉が贈られた。
「たん・・・じょうび・・・?」
生まれて初めてーーーと言うよりも記憶にある中では言われたことのない言葉。それがいろいろなサプライズ付きでやってきたのだ。ここ数年で精神の方も子供に近づいてきていた俺の精神が出した答えは・・・
「あ・・・あぁ・・・あ、ありがとう・・・ございます」
大粒の涙をこぼし、精一杯の笑顔でこの幸せをくれた全てに感謝を告げることだった。
この時のクロウの表情や、クラッカーを開けた時のオロオロした動作などによってシャーロットは鼻から愛情を滴らせながらも、心の内でとある決心をしたのだが、それに気が付いたのはアイザックたった一人で、シャーロットの暴走ともいえる情熱を止めることが出来なかったらしい。
この日の翌日からクロウの私服に可愛らしい服が混ざり始めたのだが、それがこの決心と関係しているのかは分からない。
もしこの時、アイザックがシャーロットを止めていたら。クロウが可愛らしい服を着るのを頑なに拒んだら。メイド三人衆がシャーロットに感化されなかったら、クロウの人生はほんの少し変わっていたのかもしれない。