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第37話:入学試験の日①

入学試験と書いてありますが、まだ試験はしません

題名詐欺です。申し訳ない

なんでもしませんけど許してください!

 クロウ達が【学園都市アルカディア】に到着してから、3日ほど経った。


 1日目は、大したこともせずに、宿泊先のお屋敷(クロウの祖父の家)の説明をメイドさんから聴き、その後は自由時間となったので、街の散策に乗り出した。


 2日目は、クロウの祖父であるウィリアムから、学園について色々と教えてもらった。

 どうやら明日(3日目)に学園で入学試験が行われるらしい。さすがにその内容は教えて貰えなかったが、その試験の結果でクラスを決められるそうだ。


 ウィリアムから学園について教えられると、カルとククルは期待に胸を膨らませて、ずっとソワソワとしていた。

 一方で、クロウは話が終わった途端に何処かへ出かけて行き、門限ギリギリに笑顔で帰って来た。

 カルやククルが何をしていたのか聞いても「秘密」の一点張りだったため、何をしていたのかは誰もわからなかったが。








 そして、3日目の朝がやって来た。



「・・・ん」

 未だ薄暗い部屋の中で、ベットからもぞもぞと起き出すクロウ。目をこすり、枕元の机に置いてある銀時計を開けて、時刻を確認する。


「5時半か・・・。フフッ、よいしょっと」

 いつもより少し早く目が覚めた理由を思い、一人小さく笑うと、クロウはベットから降りて寝巻きを脱ぎ、クローゼットから引っ張り出した服に身を包む。

 そして、机の上に置いてあったシンゲツを服の下に忍ばせる。


「準備完了っと。さてと、朝ごはんまでちょっと動いてよっかな・・・」

 誰に対して言うでもなく、なんとなく呟いたクロウは、体を伸ばしながら裏庭へ向かった。






 小鳥の鳴き声が聞こえる木の下で、クロウは黒縁の鞘を左手に持ち、右手を柄に添えながら静かに目を閉じていた。


 肌寒い朝の風に、白金色の髪が揺れる。

 長くゆっくりと肺の空気を吐き出し、体の力を抜いていく。空気を吐き出し尽くすと、次にゆっくりと吸い込み、再び吐き出す。

 それらを繰り返してゆくにつれて、クロウの意識は研ぎ澄まされる。


 そして、小鳥が羽ばたき飛び立つのと同時に、一枚の木の葉が舞い落ちた。


 ゆらゆらと重力よって地面へと向かっていくそれは、ゆっくりと開かれた紅い双眼の前を通り過ぎるとともに、一陣の風によってその動きを変化させた。














「ふぅーーー」

 刀を振り抜いた姿勢で、遅れて聞こえてきた風切り音を聞きながら、クロウは一段と大きく息を吐く。


 キンッっと甲高い音を立てて、ムラマサを鞘に仕舞ったクロウは、足元に落ちている”二つに分かれた”木の葉を拾い上げる。

 中央の葉脈部分から斜めに分かれている木の葉を見つめながら、額から吹き出す汗を拭い、


「やっぱり、うまくいかないなぁ」

 と、呟いた。

 極度の集中の反動で、軽い立ち眩みのような症状に襲われるが、頭を軽く振って意識をはっきりさせると、汗を洗い流すためにいったん部屋に戻って着換えを用意してから、浴室に向かうクロウだった。



















 その頃、ガバッと布団を跳ね除けながら目を覚ましたカルは、寝巻きのままで少しふらつきながら部屋を出た。


「ふぁ〜あ・・・」

 と、部屋の前で大きな欠伸をしていると、真横にあった部屋のドアが勢いよく開かれ・・・

「グホァッ!!!」

 欠伸をし終わったカルの顔面にクリーンヒットする。


「うぇ?にゃにごと?」

 その声を聴いて、ふらりとドアから顔を出したククル。さすが双子といったところなのか、二人とも朝は弱いようだ。


「いって~・・・なんだよ、ククルか。寝ぼけてるな、こりゃあ。ほら、顔洗いにいくぞー」

 鼻頭を抑えながらも、顔面クリーンヒットで完全に覚醒したカルは、未だ目を擦りながら欠伸を繰り返しているククルの手を引いて、洗面所まで引っ張って行った。





 バシャバシャと水が跳ねる音がそこそこの大きさの部屋に響く。

 シャワーヘッドから出てくる暖かいお湯が、背中まである髪を伝い流れ落ちていく。

 病弱な体質なのではないかと思わせるほどの絹のような白い肌に、いくつもの水滴が付いており、魔力灯の光を反射させ、まるで一種の芸術作品の如き艶めかしい雰囲気を醸し出している。


 キュッと蛇口を締める音が部屋の中に反響する。

 ポタポタと滴り落ちる水滴を、用意していたタオルで拭き取りながら、クロウは着換えの置いてある洗面所に繋がるドアを開けた。







 ・・・・・体にタオルを巻き付けながら(女の子の巻き付け方)


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ガラガラと音を立てながら引き戸を開くと


「きゃっ!」「ぶふぅ!」

 顔を洗っていたらしいカル、ククルと思いっ切り鉢合わせてしまった。

 女の子らしく顔を赤らめながら小さく声を上げるククルと、失礼なことに思いっ切り吹き出しているカル。・・・後でお仕置きしてやる。


「あれ?二人とも早いね。いつもならまだ寝てる時間なのに」

 心の中でそう密かに決意しながらも、平静を装いながらそう聞く。

 ちなみに、洗面所に入ったところでフレイヤを呼び出してあるので、現在進行形で髪を乾かしてもらっている。


「はっ!?クロウちゃんの裸っ!」

「お?やっと起きたか」

「いやいやいや・・・まだ寝ぼけてるだろ、これ」

 両手で顔を覆い隠してはいるが、指の隙間からぎらつく眼がちゃっかり覗いているのだが・・・あ、鼻血まで出ちゃってるよ。

 両手から零れ落ちるように、というよりも、垂れ流し状態になっているみたいなのだが。

 ダラダラととめどなく鼻血を流すククルに、呆れながらも[ヒール]を掛ける。ついでに鼻血も拭き取っておこう。




「はぁ・・・はぁ・・・。ふ、ふぅ・・・」

 クロウが服を着たところで、ようやく落ち着いてきたのか、深呼吸を繰り返して息を整えるククル。


「さてと、もうすぐ朝ごはんだし、行こっか」

 その様子を片目に、バイバイと手を振りながらフレイヤを帰還させると、ポケットから銀時計を取り出して時刻を確認したクロウは、カルとククルに向かってそう提案する。


 本音を言えば、今現在ドアの前で聞き耳を立てているメイド()がいるから早く移動したい・・・なのだが。


「お、そうだな。ククルは体力つかったもんな。そろそろ腹の虫も泣き出すんじゃね?」

「そうね・・・そろそろって、違う!私そんなに食いしん坊じゃーー「グゥ~~~」ーー」

 うぅぅ・・・と顔を赤らめてはいるが、そのお腹は未だに自己主張を繰り返している。

 その様子を見てカルは肩を震わせているが、そのせいかククルから迸る謎の覇気に気づいていないようだ。


『・・・お仕置きはククルに一任しても良さそうだな』

 カルに向けて静かに黙とうを捧げ、クロウは一足先に食堂に向かうのだった。














 クロウが食堂に入ると、ウィリアムがもう既に食卓に着いており、一足先に朝食を食べていた。


「ん?おお、起きておったか。今アリシアを寝室に向かわせたところじゃったが、無駄足だったかのう」

 いつの間にかクロウの後ろにいたアリシアに向けて、ウィリアムは申し訳なさそうにそう言うが


「いえいえ、良いものが”見れた”のでよかったです」

 当の本人は、頬に手を当てて悦に浸っているようだが


『・・・ん?今何かおかしなことを言わなかった?まぁ、いっか』

 アリシアの発言に不吉な何かを感じ取ったクロウだったが、よくよく考えなくてもシャーロットも同じようなものだったので諦めることにする。



「あ、ウィリアムさん。おはようございます!」

「おはようございます!」

 クロウがため息をついたていると、ククルとカルがアリシアの後ろから滑り込むように食堂に入ってきて、朝食を食べているウィリアムを見つけると、元気に挨拶をした。


「おお!カル君とククルちゃんも起きていたのか。どうじゃ?一緒に食べるかの?」

 ウィリアムは、この二日で二人が屋敷の空気になれたことが嬉しいのか、二人をとても可愛がっており、今では、まるで自分の孫のように接している。



 その傍らで、すでに席について朝食を食べ始めているクロウは、その様子を気にすることはなく・・・というよりも、お腹が空いているためか、そんなことよりもごはんの方に優先順位が移っているだけなのだろうが、パクパクと朝から沢山食べていた。


「俺たちも食べるか」

「そうね。クロウちゃんが食べてる見てたら余計お腹減ってきちゃったしね」

 そんなこんなで、カルとククルも混ざり、朝から厨房は大忙しとなるのであった。



 そして、その後、食費に充てるお金の量を夜な夜な見直すセバスチャンの姿があったそうな・・・
















 4人は満足げに食堂から出てくると、前日に引き続き学園の話で盛り上がり始める。


「さて、もうすぐ入学試験が始まるが・・・」

 と切り出したウィリアムだが、のちに続く「緊張はしておらんか?」という言葉を言おうとして、それを飲み込む。


 それもそのはず、クロウ、カル、ククルの三人ともが、緊張どころか少しの心配すらしていないのだから。



「入学試験かー。何するんだろうな・・・」

「そうねー、私は何でもいいけど、あんまり大変なのは嫌ね」

「ククルの大変の基準がどこら辺なのか分からないけど、多分、簡単な筆記試験と運動関係のテストだと思うな」

 大体当たっているために、下手に助言も出来なくなってしまったウィリアムは、その動揺を顔に出さないようにして


「儂からは何も言えんが、あの二人に鍛えられたんじゃ。自分の力を信じるとよいぞ」

 とだけ言うと、「儂は先に行っとるから、遅れないようにくるのじゃぞ」と言い残して一足先に学園に向かっていった。





ウィリアムが出かけてから1時間ほどたったころ。クロウは、カルとククルの部屋の前に来ていた。といっても、自分の部屋はすぐそこなのだが。


「カルー!ククルー!そろそろ行くよー」

ドンドンとドアを叩いて呼びかけると、ククルの部屋からドタドタと走りまわる音が聞こえてくる。しかも、転んだみたいで、大きな音も響いてきた。


一方、カルは腰に剣を下げてすぐに出てきた。

「あれ?もう行くのか」

と言いながら小さく欠伸をしているので、どうやらうたた寝をしていたようだ。


「カル、口元。ヨダレついてる」

クロウが自分の口元を指さしながらそう言うと、口元を拭い「ん?ほんとだ」と呟く。



それから少し経つと、ククルも部屋から出てきた。


「気合い入れてんなぁ・・・」

カルがこぼした感想通り、いつにもまして気合いの入った服装のククル。


腰に下げたレイピアの色合いに合わせるように白を基調に、黄緑で彩られたチュニックに身を包み、その下に茶系統のズボンを履くことで、まるで新緑のような雰囲気を醸し出すことが出来ており。そこに、髪の色も合わさることで、かなりの一体感を作り出している。


「えへへ~。どう?似合ってるでしょ?クロウちゃんが動くことがあるかもって言ってたから、邪魔にならなくて可愛い服選ぶの大変だったよ」

その場でクルリと一回転するククルは、クロウとは別の種類の芸術品のような魅力を放つ。

それは、少女特有の危なげな色香と相まって、ククルをより一層輝かせる。


「(カル、ボクなんだか嫌な予感がしてきたんだけど)」

未だに花のような笑みを浮かべているククルに気付かれないように、そっとカルに耳打ちしておく。


「(まじか、お前の予感って結構当たるからなぁ・・・)」

その言葉を聞いたカルは、一瞬だけ顔を顰めるが、ククルに目を向けた後、フッと笑って


「(まぁでも、しかたねぇか・・・約束してっからな)」

と、クロウにしか聞こえないような声で、小さく呟いた。




余談だが、この時の笑みがククルには、鼻で笑ったように見えたため、のちに行われるお仕置きが一段とカオスなものと化すのだが、それはまた、別のお話し。

次話から、学園編本番!


に、なればいいな♪

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