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第35話:閑話その2

週一投稿しようとしてたのに!

遅れて申し訳ないです

 ~カル・ククル編~


「カル!お母さんに貰ったお小遣いは!?」

「確認・・・持ってる!!!」

「オーケー!行くわよ!!!」

「ラジャー!」

 屋敷を出た途端にそんな会話をして、猛スピードで坂を駆け下りて行くカルとククル。


 だが、しばらく行くと人通りが多くなってきたので、移動方法をダッシュから小走りに変更し、一応逸れないように手をつなぎ、面白そうな露店や店舗がないか辺りを見渡しながら進む。


 手をつなぎながら小走りで道を進んでいる二人の子供を見て、周りで仕事をしている大人たちは優しい笑みを浮かべて、その様子を見守っている。


「僕、お嬢ちゃん。お使いかい?」

 すると、屋台で野菜を売っていた優しそうな顔のおばちゃんが、カルとククルに向かってそう言った。


「え?ああ、違いますよー。初めてここに来たから面白そうな物がないか探してたんです!」

 エッヘンと胸を張ってククルは、おばちゃんにそう返すが、おばちゃんも周りの人もなぜだか一層優しい目になった気がしたが、二人はそれに気付かずに「「失礼します」」と言いながらペコリとお辞儀して、再び散策に戻る。

 後ろから聞こえてくる「気を付けるんだよー」という声に笑顔と手を振って返し、小走りに去っていく二人に場の雰囲気が更に緩和する。




 ・・・人混みの中で静かに瞳を光らせていた一人を除いてだが。






「ククル!なんかうまそうな匂いするぞ!」

「あそこからしてるわね・・・行きましょう!」

 商店街のような通りを抜け、城門の方に近づいていくと、不意に鼻孔をくすぐるいい匂いがしてきた。

 もう既に3時を回っているのだ、育ち盛りの子供なら小腹が空き始める頃だろう。

 そんな時にいい匂いが漂ってくるのだ、二人はエサを見せられた子犬のように、トコトコと匂いの元へ歩いていく。



「いい匂い・・・でも」

「なんでここから?」

 二人が辿り着いた処は、今日の朝に来たばっかりのあまりいい思い出が無い施設・・・冒険者ギルドだった。


 二人がギルドの前で呆然としていたら、背後からよく知っている声が掛けられた。


「ありゃ?カルっちとククルちゃんじゃないっすか。どうしたんすか、二人も食べに来たんすか?」

 カルとククルが振り向くとそこには、今朝別れたばかりの【スクエア】メンバーの一人である、シリルが大きな金属製の針のようなものが沢山入っている箱を持って、自分たちを見下ろしていた。


「わっ!シリルさんですか。ビックリさせないでくださいよ!」

「ども」とカルが軽く会釈をしている横で、驚いて飛び上がってしまったククルは、「むー」と頬を膨らませている。


「あははー、ごめんっす。ほら、そんなかわいい顔を膨らませないで。せっかく美人なんすから、ほら笑って笑って」

 イケメンどもが口説きの際に使うような言葉をつきながら、プニプニとククルの膨らんだ頬をつつき和ませようとする。


「ふーんだ。そんなこと言ったって・・・むぅ、まあいいです。それで、シリルさんの持ってるのって何です?」

「そうそう!さっきなんか食べるって言ってなかった?」

 まだ少し不貞腐れているようだが、カルが半ば無理やりに話題をそらす。


「そうっすそうっす!いやぁ~、クロウっちが卸してくれた香辛料とククルちゃんたちがくれたコケッコウの肉でバーベキューやってるんすよ「シリル!!!早よ串もってこい!」あちゃ、怒られちった。んじゃ、二人ともギルドの裏でやっているんで食べってってくださいっす」

 そう言い残して颯爽とギルド横の細道をスススっと器用に走って抜けていった。


「どうする?」

「先ずはカルの好きなところ行きましょ」

「え、いいの?」

「いいけど早くしてね?私はゆっくり見たいから」

 ガッツポーズをして大通りへ走っていくカルを慌てて追いかけながらククルは、ギルドを後にするのだった。
















 ギルドから離れ、冒険者たちが多く集まっている商店街のに来た。

 出ている店舗の多くが雑貨店みたいなもので、武器や防具からポーション類のような消耗品まで多種多様なものが置かれていた。






「うひょー・・・すっげぇ・・・・・」

 そんな喧騒から二本ほど裏道に入ったところで、カルは古びたショーウィンドーをのぞき込みながら小さく声を上げる。


「確かに・・・すごいわね」

 カルとは違って、あまり武器・防具には興味を持っていないククルですら、そう呟かせるモノがショーウィンドーの中に展示されているのだ。


「【風魔晶のペーパーナイフ】よぉ~。興味もってくれたのぉ?こ・ね・こ・ちゃぁん」

「「え?」」

 背後から響いてくる野太い声。

 その声には、全く似合わない乙女のような口調。


 とてつもなく嫌な予感がしたカル、ククルは、ギギギと壊れた玩具のように、ゆっくりと、非常にゆっくりと振り向く。



 カルとククルが振り向いた先にいたもの・・・ソレは、はち切れんばかりの筋肉をタンクトップとジーンズの下に押し込み、クネクネとした奇妙な歩き方で二人の方へ近づいてくる、女のように化粧をした(おとこ)だった。


「・・・・・」

「ヒッ!」

 余りのショックで口を開けたまま固まってしまったカルと鋭く息を吸い込むことで出掛かった悲鳴を何とか飲み込んだククルだが、化物はそんな二人を

「あらぁ、照れちゃって。かわいいわぁ~」

 と言いい、飢えた獣のように瞳をクワッ!と見開くと、ククルに狙いを付けたようで、独特なステップで近づき、両手を広げて抱きしめようとする。


「ッッッ!カル!!!」

 体を捻りながら横に転がることで。辛うじてその圧倒的な恐怖から逃れることが出来たククルは、未だに硬直しているカルに声を投げかけて正気に戻させる。


「・・・ハッ!筋肉モリモリマッチョマンの変た「よけてっ!」え?うぉわっ!!!」

 ゴウッっと風を靡かせながら近づいてくる怪物に、


「爆ぜろ![エクスプロージョン]!」

 本能的に魔法を使ってしまったカル。


 爆音を立てて盛大に吹っ飛んでいく化物を片目に、口を開いて驚愕の表情を浮かべながら親指をそっと立てるククルと、やっちまったという表情を浮かべながらも親指を立ててそれに返すカル。

 しばしの間、謎の達成感を得ていたカルとククルだったが、突如二人に影が落ちる。


「んもぉ~、ビックリするじゃなぁい。お洋服もちょっと汚れちゃったし」

 のっそりと立ち上がりながら何事もなかったかのように、軽く服を叩いて化物はそう呟く。


 そして、カルとククルに向き合うと

「ごめんなさいねぇ。あんまりにも可愛かったからぁ、ちょっとだけ自分を見失ってたの」

 にっこりと今度は暖かい笑みを浮かべて話しかけてくる。


「「え?・・・あっはい」」

 あっけにとられたカルとククルは、同時に間の抜けた返事をするが、その瞬間再び化物の瞳に光が過ぎたため、カルとククルは改めて臨戦態勢をとる。


「まってまって!ちょっとぉ、もう何もしないわよぉ~」

 体の前で両手をわたわたさせて否定するが、その目は変わらずギラギラと輝いている。


『『・・・嘘くさい!』』


「もう!信じてないわね~・・・いいわっ!ついていらっしゃい。ほらそこ!うたがわしい目で見ないの!おねぇさんも傷つくのよ!もぅ・・・お詫びも込めて、おねぇさんが特別にいいものをあげるから」

 半目になってカルとククルが睨んでいると、化物はその頬を膨らませてぷりぷり(かどうかは分からないし分かりたくないが、見るのには相当の覚悟か慣れが必要だろう動きを)しながらそう言って、さび付いた木製のドアをそっと押し開け、二人を招き入れようとする。


「「・・・・・・・・・・・・・」」

 が、二人はその場から動こうとせず、カルはポケットから金属で作られたメリケンサック(クロウ特製)を取り出し、両手に嵌めて拳を構え、ククルは腰に下げているレイピアに手をかけて静かに佇む。


「・・・・・・仕方ないわね。そのナイフと同じ種類の物あげるから、許してちょうだい?ね?」

 すると、今度はあからさまにしょんぼりしだした化物は、ため息交じりにそう言う。



 その言葉を聞き、お互いに顔を見合わせると、カルは構えた拳を下げ、ククルは握っていたグリップから手を放す。ちなみにカルはメリケンサックを外してはおらず、ククルはレイピアのグリップからは手を放してはいるが鍔の部分に手を添えており、二人とも未だに警戒態勢をとっている。



 その様子に再び深いため息をついて、化物は店の中に入っていく。


「・・・どうするの?」

「今のところは・・・大丈夫なんじゃないかな」

「そうね・・・行ってみましょっか。このナイフっぽいのくれるって言ってたし」

 化物が中に入っていくのを見届けてから、カルとククルはそう言い合うと、覚悟を決めたようでゆっくりと二人一緒に店へと足を踏み込む。














「いらっしゃい!エリザベス刃物台へ!」

 店の中に入ると同時に、正面にある台の奥から化物の声が飛んでくる。

 そして、それと同時に薄暗かった店内に明かりが灯った。


「「わぁ・・・」」

 光の灯った店内を見渡して、二人の口から歓声が漏れる。


「ふふふ・・・気に入ってくれたかしら?私のカケラ達」


 店内のガラスケースの中に立て掛けられている色とりどりの小型ナイフや様々な形の包丁に目を奪われているカルとククルをカウンターらしき台から嬉しそうに眺めている化物・・・いやエリザベスは、二人に向かってそう優しく声をかける。


「「はい!」」

 その声に対して、エリザベスの方を振り向かずに店内を物珍しげに見渡している二人が、先ほどとは違った感情のこもった声で元気に返事をする。


「あら・・・いきなり柔らかくなるのね」


「まぁ・・・クロウちゃん、あっこれを作った人が『綺麗なモノを作る人に悪い奴はいない』って言ってましたから」

 少し驚いている様子のエリザベスに、カルと自分が身に着けている武器を指さしながらそう答える。


「あら、いいこと言うわね。私も会ってみたくなっちゃうわ」

 エリザベスはそう言うと「それに・・・」と、カルのメリケンサックとククルのレイピアをじっくりと見ながら

「それほどのモノを作れる人なら、私の欲しいものを持ってるかもしれないしね」

 と言葉を続けた。


「あら、ごめんなさいね。ささ、約束どうり・・・・二人ともこのケースの中から好きなの一つ選んでちょうだい」

 自分の話を聞いて、首を傾げている二人に一つ謝ると、エリザベスは本題へと話を変えた。



「「はーい」」

 二人は顔を見合わせると、一つ頷いてエリザベスの指さすケースに向かう。


 そのケースには、指輪やネックレスなどの装飾品から、外のショーウィンドーにもあったガラスで作られたようなペーパーナイフが展示されていた。それぞれの物には【風魔晶のペーパーナイフ】のように【〇魔晶の〇〇】という感じの名札が置かれており、さらにその横にはもう一つ小さな木の札のようなものがあるが、今は裏返されているのか何も書かれていない。






「私は・・・コレ!」

「んじゃ、俺はコレにするわ」

 しばらくの間悩んでいた二人だったが、ククルは【光闇魔晶のダブルリング】をカルは【火魔晶のクロスリング】をそれぞれ指さして声を上げる。

 ククルの選んだ【光闇魔晶のダブルリング】は二つの組み合わさった腕輪にそれぞれ白と黒色の魔結晶が埋め込まれている綺麗なリングで、カルの選んだ【火魔晶のクロスリング】には、典型的な腕輪に十字架を模ったものが一つくっついており、その十字架の中央に赤色の魔結晶が埋め込まれている。こちらは、ククルの選んだものとは違って、雄々しい印象がもてる腕輪だ。


「あら・・・二人とも腕輪にしたのね?ふむふむ、なるほどねぇ。どうする?このままつけて帰るの?それとも、おねぇさんが綺麗に袋入りにしてあげようかしら?」

 エリザベスは、二人の選んだ腕輪を見て満足げにほほ笑むと、カウンターの中から模様の刷られた袋を取り出してそう言う。



「うーん・・・このまま付けてきますけど、本当にいいんですか?何だか凄そうなのをもらっちゃって」

「確かに・・・すっげぇいいものっぽいし」

「いいのよいいのよ。言ったでしょう?お詫びだって。貰ってくれなかったらおねぇさん傷ついちゃうわよ?」

 エリザベスは、自身の持っている腕輪をまじまじと見つめている二人を見て、暖かい笑みを浮かべながら頬に手を当ててそう言うも、「でも・・・」と渋っている二人に


「分かったわ!二人が、そのブレスレットをなくさないことと、今度ここに二人の武器を作ったていうクロウって人を連れて来ること!これが条件ね」

 と、有無を言わせない態度で詰め寄り、半ば無理槍にだ頷かせると、「さあ、お店は終わりよ!子供は遊んでらしゃい」と摘み上げるように二人を抱えると、店から出でショーウィンドーの前にそっと下す。


「もう!いきなり抱っこなんてしないでくださいよぅ!」とビックリしたためか恥ずかしかったためかぷんすか!しているククルに


「ごめんなさいね。ささ、いってらっしゃい。また来てちょうだいね?」

 と手を振りながら、エリザベスは二人を大通りへと送りだすのだった。









 二人が去り、再び静かになった裏路地。エリザベスは自らの店がある袋小路になってる道の入口付近で、その場にしゃがみ込んでいた。


「・・・・・・・・なるほどね。偶然じゃないってわけね」


 壁の下、道路と垂直になっている部分に埋め込まれている杭のようなものに触れて、エリザベスは静かにそう呟く。



 その呟きが風に乗って消えたあと、その小道には静かに何かを確信した表情で笑っている一つの影だけが残っていた。











 一方、未だにぷんすか!しているククルを宥めながら大通りに出たカルは、白いオオカミを連れて頭の上に黒猫を乗せながら店を転々としている一人の少女のような少年が目に入ってきた。


「クク「あっ!クロウちゃんだー!」・・・はぁ」

 そのことをククルに伝えようとするが、当の本人がそれ以上の速度でクロウに気づき、ダッシュで飛びつきに行ってしまった。


 呆れからか疲労からか、どちらとも言えないため息が、風に乗って長く漂うのだった。



次回、クロウパート

異世界遊覧1日目!

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