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第30話:学園までの道のり⑤(ラスト)

昨晩、クロウへの詮索禁止条約が結ばれてから(【スクエア】とカル・ククルの間で勝手にだが…)以降、特に何も起こらずに数日が過ぎた。

クロウは、いつものようにフラッと召喚獣たちと何処かへ消えたと思ったらいつの間にか果物や薬草、肉、香辛料に使われる実や根っこを持って来ては再び何処かへ行くという行動を繰り返している。そのためか、馬車の中はまるで行商人のように麻袋が大量に詰め込まれているのだ。




「カルっち………クロウっちはこれをどうするつもりなんすかね」

明日の朝には【学園都市アルカディア】に到着するというのに、減るどころかどんどん増えていっている荷物を見ながらシリルは自分の横で御者台に座っているカルに聞く。


「それは俺にもわかりませんよ〜。でも、1つ言えるのは、あいつは無駄な事をするのが嫌いだってことくらいですかね」

「これも意味があると?」

「さあ?学園で売って小遣いにでもするんじゃないすかね」

「そうだとしたら、恐ろしいくらいのしっかりしてる子っすね。あーあ、わっちは帰ったら嫌なことばっかっすよ。若い子たちが羨ましくなって来たっす」

手綱を握りしめ俯きながら深いため息をついたシリル。それを慰めようとして手を伸ばすも、かける言葉が見つからずそっと手を戻し前を向くカル。だが、前を向いたことでカルはあるものを見つけることができた。


「あ!!!シリルさん!あれって、もしかして」

「んー?………お?皆様ー【学園都市アルカディア】が前方に見えるっすよー」

『話題をそらせたのかどうかは分からないせど………少し暗い感じから変わってくれたので良いか』

と、横で「やっぱりデカイっすねー」などと呟いているシリルを見ながらホッとして息をつくカルであった。そして、その横で窓から身を乗り出しては落っこちかけながら歓声を上げているククルがいるのだった。






それからしばらくして草原の向こうに太陽が沈もうとし始める。


「今日はここまでだ!さっさと準備するぞー」

学園まであと2〜3時間歩けば着きそうなところでなぜかウォーレスが野営の準備に取り掛かろうとする。


「もうちょっとで着きそうなのに?」

不思議そうにシリルに質問を投げかけるが、その質問に答えたのはシリルではなく


「よっと…考えてみなよ。学園の周りにあるのは城壁。そしてここから見るに入り口には架け橋がある。そこからたどり着くのは………城壁の周りに堀があって、夜になるか特定の時間で架け橋が閉じるということ。フィヤさん、あってますか?」

麻袋を3つほどパンパンに膨らませながらフラッと帰って来たクロウだった。


「…っ!?……ええ。バッチリ100点満点ね。アルカディアは7時になると架け橋が上がるの。だから今からだと間に合わないかもしれないのよね」

急に表れたクロウに驚き、出かかった悲鳴を飲み込みつつも正確な情報を教えたくれた。


「そういうことだ、さっさと準備すっぞ」

話を聞いていたカルが手慣れた手つきでロープ付きの木の板を三枚持ちながら馬車から飛び降り、ウォーレスとオルトと協力してキャンプする場所を整地する。



それを横目で見ながらシリルとフィヤは馬車の固定に移り、クロウ、ククルは馬車に詰め込まれている麻袋の中から今晩の食材を選出する。


「クロウちゃん、晩御飯は何にするの?」

麻袋の山を掻き分けながら食材探索しているクロウを馬車の外で見ながらそう聞く。


「そうだなぁ………今晩が最後だし…豪華なものに にでもしよっかな?…お、あったあった」

ハーブやら何やらが詰め込まれた麻袋を引っ張り出し、もう片手には旅路の途中で仕留めたらしい何かの肉塊を持って馬車から出てくる。


「うわ………すっごいお肉…。クロウちゃん、それ何のお肉なの?」

クロウが抱えている“皮の剥ぎ取られた”ひと目見るだけで明らかに高級なものだとわかってしまうほどに引き締まった何かの肉。

しかし、ウーガルでも母親の手伝いや地獄の3年間で森の奥地で料理をしていたククルには、それが普通の肉ではないことが何となくわかってしまった。完全に解体されていれば気にも留めなかっただろうが、肉塊の状態で見てしまったのだ………その、切り開いた魚のような形をしている、それを………


「クロウちゃん………絶対これ普通のお肉じゃない!…あっ!」

それを見た瞬間に思わず叫んでしまい、しまったと口を手で押さえ周りを確認するが、誰もククルの叫び声には気がつかなかったのか黙々と作業を進めている。


「はぁ………美味しければいいんの。知らないほうがいいと思うけど…知りたいんだったらククルにだけ教えてあげるけどさ………」

音もなく肩に降り立ったフレイヤを撫でながら小さくため息を吐き、ククルの顔をみる。


「わかった………けど、

いい?秘密だからね。…これは[ブラックサーペント]っていう真っ黒な鱗を持ったヘビの肉だよ。結構な高級食材なんだよ?」

ククルのキラキラした瞳が説明をしていくにしてどんどんとどんよりとしたものに変わっていく。しまいには少し後ずさりすらし始めた。


「だから知らないほうがいいって言ったのに………じゃあ、ククルだけホーンラビットにする?」

「う…でも、クロウちゃんが食べるってことは美味しいんでしょ?…………………ホーンラビットは何回も食べたし…………私もそれでいい………」

しばらくの葛藤の末に食べることにしたようだ。いや、まだちょっとだけ葛藤の最中みたいだ。




「まあ、後悔はさせないよ」


そう言うと、クロウは材料を持って馬車の裏へ周り、調理を始めるのだった。
























それから20分ほど後にクロウがすでに準備を終えて食卓に付いているメンバーに一口大に切られ、こんがりと焼き上げられた例の肉を運んでくる。



香ばしい香りに包まれながら、旅路の最後の夕食が始まったのだった。






「なんだこの肉は!?口の中で溶けていく!」

「しかも味もしっかりしてやがる!」

「凄い!こんなの初めて食べた!」

「こ、これは!?」

「「……………!?…」」

揃ってブラックサーペントの肉に驚いている【スクエア】のメンバーと、口に入れた瞬間に固まっている双子。たぶん、ククルは他の人とは違う理由で固まっているのだろうが………



それからは、男性陣が飲むようにブラックサーペントのサイコロステーキを口の中に放り込んでいき、女性陣は一口一口噛み締めながらゆっくりと味わっていく。ククルも口に運んではニッコリとしているので満足してくれたみたいだ。




『ご主人〜。僕らにもちょうだい!』

美味しそうに食べている様子を眺めていると、背後から羨ましそうな声が聞こえてくる。


「ん?わかった。じゃあ作ってくるから待ってて」

後ろを振り返り、そこに並ぶキラキラした10個の瞳を見て、少し笑いながら立ち上がり馬車の裏へと歩いていく。

召喚獣達はお互いに顔を見合わせると、それぞれ尻尾を振り回したり飛び上がったりと喜びをあらわにすると急いでクロウの元へと向かう。








その後、ブラックサーペントのサイコロステーキを皿に盛って運んできたクロウに集る召喚獣たちにクロウからお叱りの「待て」が出されるなどの事があったが、その日の夕食は賑やかなものとなった。


















夜も更け、あたりから聞こえるのは木々のざわめきと、微かな呼吸音。子供陣は寝静まったようだ。

一方………ウォーレス、オルト、シリル、フィヤの【スクエア】は、燃え残っている焚き火の周りに集まっていた。


「………はぁ…………どうする?」

あれだけ夕食で盛り上がっていたにもかかわらず、暗いオーラを放ちながらウォーレスが切り出す。


「俺からは特に無しだ」

オルトはそう一言だけ言うと自らの装備の点検に移る。もう言う事は無いようだ。


「私は…期待の新人が来たってだけ報告しとこうかな。基本的な内容はぼかしておくけど」

と他の3人とは異なり、ニコニコしながらそう語るフィヤ。


「わっちは………わっちは………………」

頭を抱えながらウンウンとずっと唸っているシリル。

その様子を見て、ウォーレスは溜息を吐くと…


「そんなに悩むんなら本人に聞けばいいじゃ………」

と馬車の方を向きながら呟くが、どんどん尻すぼみしていく。そして、それと同時に…


「ボクのことなら、そんなに気にしなくてもいいんですけどね」

と周囲に鈴の音のような声が響く。


「「「っ!!!」」」

バスターソードを磨いていたオルト、何かを作っていたフィヤ、そして頭を抱えていたシリルは、声のした方向へ顔を跳ね上げる。

そこには、馬車の上で風になびく髪を抑え、眼を細めてこちらを見ているクロウの姿があった。


「ク、クロウっち…眠ったんじゃ………」

既に寝床についていると思い、この話をしていたのに、その話題の中心がいきなり出て来ては驚かないわけがないのだ。


「だがいいのか?ウーガルを出る時に言っただろ?お前の持っている召喚獣…特に、ツクモだ。あいつが【九尾狐】だと知られたら良からぬことを考える輩も多い。それーー」

「それでも構わないよ。だって、ウォーレスもオルトもフィヤもシリルも父様の知り合いなんでしょ?だったら、良い人だと思うしさ。それに………」

ウォーレスの話を遮るようにそう言い、眼を細めると…


「ボクの育てた子が、そこらへんの奴らに勝てない訳無いじゃん」

と口角を吊り上げながらそう言い切る。


クロウの召喚獣たちの力を知らなければ、子供のただの傲慢だと跳ね除けれる言葉だが、【スクエア】のメンバーは全員その実力を知っているため、反論しようにも出来ないのだ。


「…………………で、でも…クロウっち本人が狙われたらどうするっす?もし、ジンたちを召喚する前にクロウっちの意識を飛ばされたりしたら、どうしようもないっすよ?」

「ボクが気絶してもこの子達は、ボクの周りになら勝手に出て来れるよ。あ、これは秘密だからね」

唯一反論できたシリルの言葉にも有り得ないと言うか、理解できない部類のことを言われて、ついにシリルさえ黙ってしまった。


「………ふふっ。それに、ボクがボクの召喚獣より弱い訳、無いじゃん」

その様子を笑って眺めているクロウがそう呟くと、瞬く間に馬車の上から姿を消し、ウォーレスの背後へと現れる。



「「「「なっ!?」」」」

自分たちの感知できない速度で移動したクロウを見て、眼を丸くする【スクエア】であったが


「ね?」

とウォーレスの背後に佇みながら言うクロウの笑顔に何とも言い切れない重圧を感じ、言葉を飲み込む【スクエア】であった。







「………はぁ、分かったっす。上には全部報告しておくっすが、一応牽制目的でアイザックさんの名前を出しておくっす。これで良いっすね?」

諦めたように月を見上げながらそう言うシリルは、「はい」とニッコリ笑いながら言うクロウに盛大に溜息を吐くのだった。


















「………もうこんな旅は嫌っす」

「「「そうだな(そうだな)(そうね)」」」

と、何もしていないはずの旅なのに、とてつもない疲労感を覚えていた【スクエア】一同であった。

次回、ようやく【学園都市アルカディア】に到着!


【スクエア】の背後関係も少しだけ明らかに!

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