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第29話:学園までの道のり④

なんだかんだあって黒服の男たちと仲良くなることができたが、なんだかとても濃い時間を過ごしたような気がする………



『っ、疲れた………魔物の肉で作ったジャーキーはあんまり食べさせん方がいいかな』

[ストレージ]から通じてウエストポーチの中に入っている[クロウ特製魔物ジャーキー]を思いながら溜息をつく。





「どうしたんだい嬢ちゃん!俺たちの話はつまんないかい?」

クロウの溜息を聞きつけたのが横でジャーキーを齧りながら、黒服たちのファミリア【灰煙の隠者】の武勇伝のようなものを聞かせていた男が少し残念そうに聞く。


「いえ…そんなわけじゃーーー」

「そりゃそうだろう!延々とお前の自慢話しばっかじゃ嬢ちゃんも退屈になるってもんよ」

空気を読んでそう言いかけたクロウの心を表すようにそう言ってくれたのは、今いるメンバーの中でリーダーの次に長くこの仕事をしている無精髭を生やしたちょっぴりダンディなおじさん。兄貴肌のいい人みたいだ。



「ちょっと酷くないっすか!?そりゃ、ちょっとくらい…いいじゃないっすか…ブツブツ…………」

まだ酔いが回っているのかメンバーの中では若い方の男の人がブツブツと地面を弄りながら不貞腐れてしまった。


「ふふっ………あっ!ボクはここら辺で失礼しますね」

地面弄りをしている男の話が長かったからなかなか馬車へ行けなかったのだが、ちょうどいいタイミングだったので男の人には悪いかもしれないが逃げるとしよう。


「なんだぁ、嬢ちゃん帰っちまうのかい?」

「ええ、馬車で友人が待ってますし、皆さんに会いに来たのは馬車に敵意があるかどうかを知るためだったんですけどね」

少し言いづらいので頭を掻きながら小声で言うと


「いいって事よ!俺たちも楽しまさせて貰えたしな!」

「ああ!馬車の冒険者にも言っといてくれよ、俺たちは手出しはしないってよ」

「そうだな。旨い干し肉も貰えたし……って、こっちが貰い過ぎな気もするけどな」

と、笑顔で返してくれた。………めっちゃ良い人らだった。


「では、皆さんもあんまり無茶はしないでくださいね。あ、あとボクは男ですよ」

そう言い残すと、クロウは辺りの闇に溶け込むように消えていくのだった。







「「「「「「「「え?」」」」」」」」

その場に残された男たちは、クロウが去り際に残していった言葉を聞いて


「「「「「「「「えぇ!!!!????」」」」」」」」

未だに残っていた酔いが一瞬にして醒めるほど驚いたのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜の森に木霊する男たちの驚きの悲鳴に耳を傾けながら、森を抜けるクロウは、森を抜けるとすぐに[サーチ]を発動させてカルたちの様子を確認する。


「円状に並んで座ってるのか?飯かな………って、行かなきゃ!食べそびれる!」

そう言ってクロウは、馬車に向かって思いっきり走り出したのだった。
















走りながらジンたちを[召喚]し、速度を落として馬車に歩み寄る。


馬車の方から漂ってくる微かな匂いから察するに、ちょうどか少し遅れてしまったようだ。まぁ、食べれればいいのだ、食べれれば。



「ただいま戻りました〜」

ジンたちを引き連れながら街道の方から急に表れたクロウに【スクエア】のメンバーは驚いたようだが、カルとククルはやはりと言っていいのか気付いていたようで、焚き火の上で作られているスープのようなものとパンを食べながら「ほかへり〜」と2人揃って口をもごもごさせながら返してくる。


「飲み込んでから言おうねー」

と言って再び喋り出しそうな2人を手で制して、自分も食事の輪に加わる。




クロウがポーチの中から取り出した器にスープを盛ったところで、フリーズから回復したウォーレスが…

「ちょ!ちょっとまて!おま、今まで何してた?!」

と盛大なツッコミを入れる。


「んく………何って、馬車の周りにいた人等とお話ししてきただけですよ?あ、周りにいる人たちは【灰煙の隠者】っていう人等みたいですよ。冒険者ギルドから【灰煙の隠者】のファミリアに来た依頼でこの馬車を見張ってただけみたいで、こっちを攻撃するとかはしないようですし、仲良くなって来たので大丈夫だと思いますよ」

スープを一口飲んでから何事も無かったかのようにそう返す。実際…特に何も無かったかのだが。


「「「「ブフォッ!!!」」」」

クロウの話を聞いた【スクエア】の4人全員がそれぞれ口の中に入れていたもの含んでいたものを盛大に吐き出す。そして、それぞれが頭に手を当てて溜息を吐いたり、腹を抱えて笑い転げたり、目をキラキラされたりと、好き勝手な反応を見せてくれた。


特にシリルが青ざめながら彼女らしくない様子でアワアワし始めたのが驚きだった。


「な、なななんて言ったっすか?…わっちの聞き間違いっすかね?【灰煙の隠者】って聞こえた気がするっすが………」

スプーンと器を持つ手をプルプルと震わせながらそっと置き、手を組んですがるような目でクロウを見つめながらそう聞いてくる。


「いえ?【灰煙の隠者】ですよ?リーダーは、確か42歳の男性でしたね。補佐的な人は35歳くらいの無精髭の人でした。あと、ほかにも若い人らが6人いましたね。あ、結構楽しい人たちでした」

そこまで言うとスープをズズっと一口飲み、「鶏ガラだ…おいしい…」と呟いてからククルの頭を撫でる。


「えへへ〜。頑張ったんだよー、調味料が全然無かったからコケッコウをダシに使ったんだもん」

そう言って、「えっへん」と鼻高に胸を張るククルとその横で「クロウが作った方がうまいだろ」と言ってはいけないツッコミをしてしまったカル。和気藹々(肘鉄を繰り出すククルとそれを防ごうとして失敗しているカル)としている双子の横で「帰りたくない!絶対にどやされる!」とこの世の終わりのような表情で頭を抱えているシリル。


「あー、シリルはそこの所属なんだわ。多分今回のはシリルのランクに関係する事やと思うし………まぁ、ほっといても大丈夫だ。さ、シリルはほっといて飯食うか」

再び溜息を吐きつつ再度食事を始めるウォーレス。その顔が何処と無く疲れているように感じたクロウであった。
















その後、しばらくの間たわいのない話をしながら食事を楽しみ、後片付けを済ませるともう既に日は沈み、辺りにある明かりは月の光と目の前で焚いている焚き火の炎だけとなった。


「へぇー。それにしてもお前の従魔は便利な奴らが多いな」

クロウがイザナミに皿洗い、フレイヤに乾燥させている姿を見て感心したような呆れたような表情でボソリと呟く。


「使えるものはなんでも使う主義なんですよ。まぁ、[浄化]しちゃえばそれで衛生的には良いんですけど………なんか、しっくりこないんでこうやって石鹸で洗ってるんですけどね」

手についた石鹸をイザナミに洗い落としてもらって、水滴をフレイヤに乾かしてもらいながらウォーレスの呟きに答える。


「クロウは昔っからこうだもんな。森の中でも洗ってなかったっけ?」

「いいじゃんか…ボクの感性の問題なんだからさ」

「うんまぁ、お前がいいなら構わないんだけど………って、皆さんどしたの?」

カルとクロウがそんな会話をしていたら、ウォーレスからシリルまで【スクエア】の4人全員がこちらを見ながらニヤニヤしている。


「えーっと………なにか?」

【スクエア】のニヤニヤ攻撃を受けて困惑しているカルが怪訝な顔をしながら聴く。


「いや?何もないっすよ?ただ仲がいいなって思っただけっすよ」

シリルが笑みを深めながらそう言ったところでククルが「あ!」と声を上げながら手をポンと叩く。そして、その横でクロウが思いっきり顔をしかめながら溜息を吐く。


「………ククル。後の説明は頼むね。ボクはもう休む」

「あっうん…わかった。おやすみクロウちゃん」

不機嫌そうな顔をしたままジンたちを連れて暗がりへと行ってしまったクロウの後ろ姿にそう声をかける。そのままクロウは手を上げて暗がりへと入っていってしまった。




「あー………自分、余計な事しちゃったっすかね」

ポリポリと頭を掻きながらシリルが申し訳なさそうにそう聞く。


「「「そうだな(そうだろ)(そうでしょう)」」」

それに対し【スクエア】一同からの厳しい言葉と眼差しが送られる。



「あのー………クロウちゃんが怒ったのはそういう系の話が嫌なんじゃなくて…」

「あー!そういうことか!………ク、クロウを女だと…お、思ってたんだ…………ク、クク…だ、駄目だ!お腹痛い!!!」

ククルの説明の途中で何かに気付いたカルが笑い声を上げながらお腹を抱え始める。

ウォーレスたちが唖然としている中、笑い転げていると、突如何かが甲高い音を立てながら飛翔し、鈍い音を立ててカルの後頭部へ直撃する。


「ゴフッ………それはないでしょ………」

そう言い残すと、カルはその意識を闇に手放したのだった。





「えーと…クロウちゃんはああ見えも男の娘(男の子)ですし、前にカルが男の子だって知らずに告白をしようとした時…」

ククルはそこまで言うと、その場面を思い出したのか大きく身震いしてから言葉を続ける。

「あのクロウちゃんは怖かったですね………嫌もう、一生見たくないって思うくらい怖かったです。あの顔で微笑みながらどんどん目が死んでいくんですよ……しかもその後に少しずつ真顔になって、最終的に一切感情が無くなったみたいな顔になったら、次の瞬間には全く知らない雰囲気になってましたからね………魔王種なんて引けにならないくらいの殺気が漏れてましたからね………」

ククルは話しながら徐々に青ざめ、ガタガタと震えだす。










「もう…この話はやめようか………」

「「「そうだな(そうだね)(そうっすね)」」」

そして、今日もまた夜は更けていくのだった。

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