第02話:誕生
*2018 3/21 修正完了
ーーー此処は?どこだ・・・?ーーー
ーーーー薄暗い・・・何故か身体が動かないーーーー
ーーなんだろう・・・とても暖かいーー
「ーーークーーーーう!ーー」
「もーーーなのーーーう?---」
「おーーーな!---」
ーーーーー誰かの声?ーーーーー
意識の沈降と浮上が繰り返される。
一体どれだけの時間がたっているのかさえ分からない。
だが、ある時突然視界が真っ白に染まる。
「奥様!産まれましたよ!男の子です!」
薄暗い場所で聞こえていたくぐもった声ではなく、ハッキリとした声が耳に届く。
耳はハッキリと聞こえているのだが、視界が水中で目を開けたときのようにぼんやりとしており、目の前にいるであろう人の輪郭程度しか判別できない。
だが、そんな不十分な世界の中でも、様々な要素から俺の考えは一つにまとまっていた。
『アスタルテの言っていた異世界にやってきたのか』と。
そして、それと同時に色々なことが頭の中に浮き出てきたが、それを一旦頭の片隅に置いて、自分を抱き上げている母親と思われる人の横で「声を上げないぞ!?大丈夫なのか!?」などと一人だけ慌てている父親らしき人物を落ち着かせるために一つ鳴き声でも上げてみようかと思い、口を開いたのだが、口から出たのは泣き声ではなく大きな欠伸だった。
「あらあら、うふふ。頑張ったものね、ぐっすりお休みなさい。クロウちゃん」
そっと頬を撫でてくれる母親らしき人物の声が眠気をさらに増幅させ、俺のーーーいや、クロウの意識は静かに沈んでいった。
次に目が覚めたときには視力の方も幾分かまともに見えるようになっていた。
自分が目覚めたことに気が付いたらしい誰かが黄色い声を上げながら慌ただしく部屋を出て行ったが、身体が重く、首もろくに動かせないので仕方なく眠りに落ちる前に湧き出てきた何かを整理しようと記憶を漁ってみたのだが、不思議なことに湧き出てきたのが何なのかすら思い出せなかった。
そんなこんなで首を傾げていたらドタバタと慌ただしく部屋に父親らしき人物が入ってくる。後から静かに入ってきた母親とメイド服らしき服装の女性に静かに怒られていた。声の感じからして先ほど出て行った人ではないようだ。
だいぶ良くなった視界で今一度両親を見てみると、俺は少なくない衝撃を受けた。
母親は、白髪というよりも銀髪といったような色合いの髪を持ち、見た目年齢は十歳後半程度。どう見ても一児の母親にはーーーというよりも婚約済みにすら見えない。
父親は、母親と対照的な金髪。見た目も同様で二十歳後半くらいだろうか。日に焼けた肌と短く刈り揃えられた髪、顔の左側にある傷痕によって老けて見えてしまうのだろうか。
衝撃を受けた理由はそれだけではなく、メイド服の女性にも理由があった。
ゲームや小説の世界でよくある人の頭に動物の耳が生えているという、いわゆるケモ耳がそのメイド服の女性の頭に付いていたのだ。
最初は偽物の付け耳をカチューシャ感覚で付けているのかと疑っていたが、こちらに顔を近づけてきたときにピコピコ動いているのを見て本物だと確信した。
そんな驚愕に浸っていると再び堪え難い眠気に襲われて、そのまま逆らうことなく眠りについた。
それから数週間経った頃、母親と父親、それから三人のメイド(それぞれエリス、ケイリー、リリアン)らが話をしていた声が聞こえたのだが、近くの家で双子の兄妹が生まれたらしい。どうやらシャーロットとアイザックの旧友の子供らしく、珍しくはしゃいでいるシャーロットの声が聞こえた。
そして更に時間が過ぎ、季節がいくつか廻った頃。
日常生活のほとんどすべてをベビーベッドの上で過ごしているせいで暇を持て余していた俺は、向こうの世界の学校や図書館などで呼んだことのある小説の中に、転生した主人公が赤子時代の暇な時間に魔力と呼ばれるものを云々かんぬんするといった物があったことを思い出し、物は試しと色々頑張ってみた結果、半年後には魔力を感じ取るどころか自由に放出したりすることが出来るようになっていた。
初めて魔力を感じた時と放出することが出来たときには思わず声を上げてしまった。
魔力を扱えるようになってからは、暇さえあれば魔力を使って遊んでいたので時間が過ぎるのがとても速く感じた。
三歳になるまでも記憶の半分以上が魔力を使った一人遊びで埋まってしまうほどのと言えば、それに費やした時間の濃さが分かるだろう。