第23話:家族
少しだけ時間を遡る
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クロウは、森の中を家の方に向かって歩いていた。
何か考え事をしているのか、小さく輝く幾多の星々と、一際大きく輝く2つの月を木々の隙間から眺めながら、ふらふらと歩く。
「………そっかぁ、あと3年くらいか…」
ぽつりと呟くその言葉は、森を通る風に溶け込み夜の空へ消える。
「あぁ、楽しみだなぁ。この世界の学園はどんなのだろう」
薄く眼を細めながら言うその姿は、とても楽しそうに生き生きしていた。
「お!そろそろ抜けそう」
しばらく、森を歩いていると森の終りが見えてきた。そのまま歩くスピードを速め、一気に森を出る。
そこには自らの目を疑うかのような光景が広がって
いる訳ではなく、いつも通りの村の家まで続いている道があるだけだった。
「………お?、家の前にみんないるじゃん。あ、あの【飛竜】もいる」
自分の目に魔力を集めて強化し遠くまで見渡すことができるようにする、通称[魔力眼]を使って少し遠くに建っている家を見る。この時、目に集める魔力の量によって見渡すことができる距離が変わるが、あまり多く集め過ぎると頭痛がしてくるので注意が必要だ。
家の前に集まっている家族達が、何やら話をしているようなので、こっそりと近づいてみることにした。ただし、家までがなかなか遠いので家の近くに時空属性の魔法[ゲート]を使って近道をする。
ちなみに、時空属性は、使える事が出来た人が居ないに等しかったためか、他の属性と違って魔法階級は決められて居ない。
「[ゲート]!」
「………よしよし、狙い通りのとこだな」
[ゲート]を使って飛んだのは、家から徒歩3分(クロウ単位)ほどの道端の木々の間にある少し大きな岩の裏。家からは完全に死角になっておりバレることはない。と言うか、元々時空属性の魔法陣はほぼ透明、または薄っすらと白く光っているだけのため、昼間に使用すればほとんどバレことがない。
「さて、帰りますか。[シャドウムーブ]っと」
影を利用する[シャドウ]系統の魔法は、夜では月光や人力で出した光で影を落とすしかないので、あまり強い効果が出ないのであまり使わないようにしているが、今日は運良く2つの月が出ているので隠密のために容赦なく使う。
影を纏って歩いていると、アイザック達の声が聞こえて来た。
「……は………うが、…ウはもう………慣れ…ているぞ…………訓れ……ない技…術も…………驚かさ………俺は」
「そん……わよ………メリー……ァンの………ょ斎に……術本………どうせ貴………術式も…………教えてもら……知った……でしょ………」
「うーん、風が強いのかな?あんまり聴こえないな…」
アイザックやシャーロットの声が、何かに邪魔されているかのように切れ切れに聴こえる。
まぁいっかと、もう少しだけ近づくと、先ほどまであったノイズのようなものが消え、はっきりと聴こえるようになった。
家のギミックかな?とかシャーロットの魔法かなと思いながら話を聞いていると………
「クロウ、彼奴は多分、いや、明らかに転生者と言われるものだろう。しかも、あの異能力者達と同じ世界………確か、【チキュー】だったか?」
なんの違和感もなく面白そうな顔(?)をしてそこに佇んで居た【飛竜】がなんの前触れもなく言った言葉に、頭の機能が一時停止してしまい………
「………な、なんで知ってるの?」
と、つい口から出てしまった。
その言葉は、自分でもわかるほどの様々な感情を含んで居た。
驚きのあまり[シャドウムーブ]が解けてしまい、姿を見せたクロウをアイザック達が固まりながら見ていた。
その後、しばらくアイザック達と話をした。
【飛竜】ことシュバルツは、クロウの使っていた封印魔法に描いてあった【封】の文字が、遥か昔に召喚された勇者の1人が創った武器に印されていたのを見たことがあるらしく、それを知っているクロウが十中八九転生者であると予想し、わざとアイザック達の会話を聞き取りにくくするために風の膜を貼り、クロウが近づいて来た時を見計らって、アイザック達にクロウが転生者であるだろうと話したそうだ。
ちなみに、その武器は、勇者達の力と魔王種の恐ろしさの象徴として、世界中から人の集まる【学園都市アルカディア】に祀られているらしい。
「えーっと………シュバルツちゃん?転生者ってなに?」
クロウが見つかって(自分から帰って来たのだが)ホッとしたのか、いつも通りののほほんとした感じに戻った、シャーロットがシュバルツに聞いた。
「お母様。転生者というものは、簡単に言うと前世の記憶を持ったままこの世界に生まれて来た人のことです」
俯きながらボソボソとシュバルツの代わりに答えるクロウ。
「お母様は………嫌ですか?………お母様の知らない人がボクの中にいるんです。…………お母様は、そんなボクはキラ…」
俯き、下唇を噛みながらズボンをギュッと握りしめ、言葉を絞り出す。だが、クロウがその言葉を言い終わらないうちに、シャーロットがクロウの言葉を遮るようにクロウを強く抱きしめた。
「クロウちゃん。私やアイちゃん、エリー、ケリー、リリーもね。皆んな、クロウちゃんが大好きなの。私たちは、クロウちゃんが何者であっても、私たちのクロウちゃんが大切にしたい。だからね、クロウちゃんが転生者であって、クロウの中にもう1人の別人がいてもいいの。だって、クロウちゃんはクロウちゃんでしょ?」
優しく慰めるような口調であっても、はっきりと諭すようにクロウへと語りかける。
そう言うと、シャーロットは抱きしめるのをやめ、未だ俯いているクロウの顔を両手で包み、上を向かせて眼を合わせると、今まで引き締めていた顔を緩め、暖かな微笑みを浮かべて言葉を繋ぐ。
「クロウちゃん。ダメだよ?自分で自分のことを嫌いなんて言うのは………。皆んなクロウちゃんのこと大好きなんだから」
「…うん……うん。ボクもボクもね………皆んな、大好き」
顔を上げたクロウは、涙で濡れた頬を赤らめ、すぐにでも瞳から零れ落ちそうな大粒の涙を指で拭い、まるで、そこに太陽が出たような満面の笑みを浮かべて言う。
「「「「「ッッッッッ!!!!!」」」」」
その場にいた、シュバルツ以外のアイザック達は、その様子に息を詰まらせ、胸の内で密かに悶絶していた。
『………家族って………こんなに…良いものだったんだね………』
クロウは心の中で嬉しそうで、少し悲しそうにそう呟いた。