第18話:VS蟷螂②[回想編]
蟷螂によって横に吹っ飛ばされたクロウは、再び空中て回転ひねりを加えて地面に着地するが、今度は横向きの力が大きく加わっているため、数メートル地面を削った後に止まった。
「今度はこっちから行くぞ!」
むくりと起き上がったクロウは、いつの間にか取り出していた剣に魔力を纏わせて蟷螂へと突撃する。
「セリャアアア!」
気合いと共に剣を右斜め下から左上へと振り上げる。
だが蟷螂もそれに合わせるように右の大鎌を振り下ろす。
キィィィイイン!!!
クロウの剣も蟷螂の鎌が交差し、再び鍔迫り合いするように両方の動きが停止するが、クロウは一瞬だけ力を入れて受け止め、蟷螂が力を込めてくるタイミングで剣をずらし、受け流す。
絶妙なタイミングで受け流された蟷螂の紫色の鎌は、そのまま地面へと突き刺さり、土煙を上げる。
受け流されるさいに鎌に体重を乗せていたことが仇となり、蟷螂は体制を前へと崩して紫色の眼球まで土煙の中に突っ込むこととなった。その際に「キュビィィィ!?」と何とも間抜けな声をあげる。
………何故か、その声に被るように何が呻くような声が聞こえた気がするが...……きっと気のせいだろう。
クロウは、土煙り顔を突っ込んで動きの鈍った蟷螂の上へと飛び上がり、頭と胴の中間。首の下ら辺に着地する。
そのまま影を伸ばし蟷螂の肩周りから胴体の上部少しに纏わせ体を固定する。
蟷螂はクロウを振り落とそうと体を強く揺すったり、大小10本ほどの腕でクロウを襲う。
「あぁもう!うざい!」
襲いかかってくる鎌を魔力を纏わせた剣で斬りはらうが、蟷螂も魔力を纏っているのか、剣が鎌と当たると
当たったところの魔力が吹き飛び、硬質な外骨格と剣がぶつかり合って火花を散らす。その度に剣は傷つき消耗していってしまっている。このまま続けていったら、刃毀れどころではなく、剣そのものが駄目になってしまうだろう。
「くッ!剣が死んでしまう!」
アイザックから貰った、いや受け継いだと言っていい剣を駄目にするわけにはいかない。
クロウはアイザックの「剣は自分の命と同じくらい大切にしろ。剣が死ぬと自分も死ぬことになる」という言葉を思い出し、蟷螂の背から影を外して飛び降りる。
……………ん?
………んん??
…んんん???
クロウはふと、何がおかしいと思った。
蟷螂から飛び降りている最中、時間にして3秒もないだろう時間の中でクロウの脳内は超高速でフル稼働した。周りの風景がコマ送りで再生されているような感覚の中で、クロウは自らの疑問の正体に気がついた。
そう、それはクロウが今身に纏っている[シャドウスケイル]だ。
いやいやいや!!!
おかしくね!?
なんで、影がつかえるんだ!?!?!?
落ち着け、今は戦闘中だ…
蟷螂をノしてからしてから考えればいいんた。
よし、落ち着いた。
なんでかは知らないが影がつかえるんやったらコッチのもんだ!
[シャドウスケイル]みたいに剣にも影を纏わせたらいいんじゃないかな?
「よし!物は試しや!武器だから[シャドウ…ウェポン]?」
クロウら疑問符を浮かべながらも影が剣を包む様子を強くイメージし、なんとなくで魔法を唱えてみる。
すると、剣の柄と刃の中間ぐらいのところに黒く輝く魔法陣が出現し、身を包んでいる[シャドウスケイル]から影が剣へ移動する。
腕から移動する影は、剣を覆い、徐々に鈍い輝きを放ち始める。だがその輝きは影が剣を覆い尽くし、魔法陣がひときわ強く光ると共に消える。全てを飲み込む闇が具現化したかのような刃は太陽の光すら飲み込み、まるで剣のある空間そのものが無くなっているかのようだった。
クロウは自らの手の中にある影の剣を見て、[シャドウスケイル]の中で薄っすらと笑みを浮かべる。
そして、剣をだらりと下へ向けるとその笑みを深め、次の瞬間、なに1つ物音を立てずに蟷螂の前へと躍り出る。
蟷螂からすれば、クロウがいきなり目の前に瞬間移動してきたかのように見えただろう。
クロウは蟷螂の前に移動すると、再び剣を右斜め下から左上へと振り上げる。先ほどの攻撃と全く同じ動きで蟷螂へ斬りかかる。先ほどと違うのは、速度と禍々しい漆黒の剣の放つ威圧だけだろう。
だが、蟷螂はクロウの攻撃を防ぐどころか少しだけ反応することしか出来ずに右の大鎌を1つ目の関節あたりから切り飛ばされてしまう。
蟷螂は一際大きく声をあげると、切り飛ばされた右手に魔力を集める。
すると、切り口から肉が盛り上がり、次の瞬間には切り飛ばしたはずの大鎌が再生していたのだ。
常識的には考えられない光景を見て、少しだけ動揺するが、「そっか、此処ではなんでもありなんだな…」と、1人納得し蟷螂の腕を全て切り落とすような勢いで次々と斬りかかる。
クロウは、自分の最高速度・最大威力の剣を振るい続け、蟷螂は、クロウに切られたところに次々と魔力を集め、傷を再生させる。途中でクロウへ風の刃を口から放つが、[シャドウスケイル]に阻まれ霧散する。
斬り飛ばすが再生される
再生するが斬り飛ばされる
お互いに決定打を打てずにクロウと蟷螂は戦いを続ける。
それは、長時間に及び、頭上にあったはずの太陽が傾き、あと2〜3時間すれば沈んでしまうほどだった。
クロウは延々と漆黒の剣を振るったことによって体の至る所が強張り、右腕に至っては震えが止まらない。
底無しの魔力もほとんどを[シャドウスケイル]や[ブースト][魔力足場]などで使ってしまい、軽く意識が飛びかけている。
遂には[シャドウスケイル]も揺らぎ、とても不安定になっている。
[ブースト]に至っては、クロウのまだ幼いと言っていい身体が耐えきれず、腕や脚の骨に罅が入ったり、様々なところで内出血を起こしたりしている。
早々に決着をつけ治療を行わなければ、後遺症が残ってしまう恐れもある。
対して、蟷螂は、身体の隅々にまでクロウの剣により傷をつけられ、大量の血を流している。魔力がもう無いのか、切り飛ばされた小型の鎌は再生する様子がなく、羽に至っては、粉微塵にされ大小様々な破片がそこら中に散らばっている。
瞳も輝きを失いつつあり、大鎌も残っているのは右腕のものだけだ。
両方が満身創痍でお互い次の一撃で仕留めることができなければ、相手に確実に殺されてしまうだろう。
「はぁ…はぁ…。い、いつまで生きてんだ…このクソ蟷螂が………」
肩で息をし、震えが止まらない右腕を左手で抑えながら剣を握り締める。
『貴様もだろうが…小童………』
脳内に直接話しかけてくる声が聞こえる。
紛れも無い、目の前にいる蟷螂が発しているのだ。
「小童で悪かったな……くそっ、[シャドウスケイル]すら維持できなくなってきやがった。………つかなんで喋れんだよ」
『そんなことは知らん。我も自分の言葉が通じる相手などいなかったからな………。まぁいい、小童よ聞け。我もお前ももう力は残っていないだろう。だから我は次の一撃に残った力を全て注ぎ込む。そいつを防げたのなら、お前の勝ちだ。俺を殺し、心臓部にある【魔石】でも持っていくのだな…』
そういうと、蟷螂は魔力を右腕に集結させ始める。
その魔力の量は、今までの戦いの中でも見たことの無い程だった。
蟷螂の大鎌が強く光を放ち、空間そのものが震え始める。
それを見て、クロウは1つ頷くと[シャドウスケイル]を解除し、残りの魔力を[シャドウウェポン]と[ブースト]三倍がけにつぎ込む。身体の至る所からミシミシという音が聞こえ、血が噴き出す。
それに構わずに、魔力をつぎ込み巨体化させた剣を構える。
『…よかろう、死んでも知らぬぞ、小童!!!』
蟷螂はそう叫び、大鎌をクロウに向かって振り下ろす。
「ウオォォォオオオオオ!!!!!」
それに対して、クロウは声を上げ、力を振り絞り、剣を振るう。
強大すぎる魔力と濃密すぎる魔力がぶつかり、とてつもない破壊力をもたらす。
蟷螂とクロウいる場所はクレーターのように沈み込み、外へ弾かれた魔力によって地面は吹き飛び、木々は削れる。
蟷螂の大鎌とクロウの漆黒の剣が一瞬だけ拮抗し、次の瞬間、ズシャ!!!という音と共に蟷螂の大鎌が宙を舞う。
それによって魔力の暴流が止み、周囲の破壊が止まる。
『………小童めが…魔王種であるこの俺を下すか………フ、フハハ、フハハハハハハ!!!復讐ばかりか我が運命では無いな!!!よかろう!小童よ、我を殺せ!!!貴様にはその資格がある!』
蟷螂は両方の大鎌を失い、身体の隅々にまで傷がついているにもかかわらず、未だ圧倒的な雰囲気を放つ。
クロウに負け、殺されてしまうにもかかわらず、その声はどこか嬉しいそうにクロウは聞こえた。
「魔王種か…どうりで強いわけだ。なんで嬉しそうな声が聞こえるのかは、わからないが。………名前だけでも名乗っておくよ。
俺の名は、クロウ。アホみたいな神様によって転生させられた【異世界人(化け物)】だよ」
[シャドウスケイル]が消え、身体の至る所から血を流しているクロウ。
その顔は、華やかな笑みと、物悲しげな影を映し出していた。
『化け物か…確かにそうだろうな。子供の身で魔王種に勝利するなど、前代未聞だからな。
さぁ、話はもう終わりだ、さっさと私を殺せ。正直言って、もう視界がぼやけてきてやがる。あの世に仲間が待ってるしな…』
「………わかった。もし転生して、記憶が残ってるなら、また会おう。お前とは会い方が違えばいい友達になれた気がするしな………。
じゃあな、魔王種の蟷螂さんよ。またいつか、会えるといいな」
クロウはそう言うと、頭を下ろしてきた蟷螂に近づき「楽しかったぜ」と呟くと、一瞬でその首を落とした。
その時に『小童めが…ありがとう』と聞こえた気がした。
くぅ〜!
戦闘シーンってやっぱり難しいですね!
もっと上手く描写できるように頑張ります!!!