第15話:赤銅の隣人
改編作業開始〜!
森での訓練を初めてから早くも一年の歳月が経過した。
冬場には安全を考えて訓練を少なくし、逆に勉学の量がかなり増えた。勉強の後カルは毎日のようにぐったりと机に身を投げ出していたのが懐かしい。
冬が明け、植物たちが顔を覗かせるようになってきてからは勉学の場が家の部屋から森の中へと変わり、カルは嬉々として森を駆け回っていた。
その一方でククルは未だに残る寒さが堪えるらしく、母様にくっ付いてはエリーの魔法で暖を取っていた。
そして春が過ぎて夏になる。
夏になるとやはり虫が増え、たった半日訓練するだけで至る所に虫刺されの跡が出来てしまった。
今度、虫除けになる薬草でお香でも作ってみよう。
そんなこんなで日々、森での訓練を続けていると、ある日とある事が起こった。
この森は魔素―――大気中に漂っている魔力―――が多いせいか魔物の数が普通よりも多くなっているらしく、その魔物の中には巨大な昆虫の姿をしたものまで存在するのだ。
昆虫系の魔物はだいたいが一メートルほどの大きさで、わらわらと群れをなして襲いかかってくる。
中でも蟻系統の魔物は最低十匹の群れでやってきて、運が悪いと一時間以上も蟻と戦い続けることになるのだ。
そして、ある時不幸にもハキリアリのような顎の鋭い蟻の群れと遭遇してしまったことがあった。
その時はククルが珍しく体調を崩していて、少なくとも五十匹はいたであろう軍勢をボクとジン、カルだけで相手しなければならなかった。
一度に何匹も群がってくる蟻をカルは「おらぁ!」「吹っ飛べぇ!」と叫びながら剣と盾を巧みに使って撃退し、ジンは雷を纏って蟻を木の葉を散らすように蹴散らしている。
ボクはそんな二人を木の上から魔符や弓を使って援護しつつ、怪我や疲労を回復させていく。
どんどん押し寄せてくる蟻と戦い続けてかなりの時間が経ち、カルとジンの体力と集中も次第に低下していく。
しかし、二人は粘りに粘って数を増やしながらもついには百体近い蟻を倒しきった。ボクは弓を使っていたから二人ほど倒してはいないが、それでも三十体は撃ち抜いているはずだ。
合計で百五十体ほどの蟻の大群を倒しきった頃には太陽はすでに沈みつつあり、森の中もだいぶ暗くなってきていた。
木々の隙間から差し込む夕陽は積み重なった蟻の死骸の体液に反射して辺りを生々しく照らす。
「はぁ…はぁ…な、なんでこんなに出てくるんだよ。もう日暮れじゃねぇか……あぁ〜死ぬほど疲れた」
カルはジンにぐったりともたれかかってジタバタと手足を動かしては、ジンに尻尾で叩かれながらも声を上げる。
「ほんとになんでだろう…こいつら全部森の奥からやってきたけど…もしかして、何かから逃げてきたんじゃな―――カル!何か近づいてきてる!」
「はぁぁぁあああ!?もういい!こうなりゃ自棄だ!温存なんかしてられるかってんだよ!」
カルが立ち上がって叫びながら魔力を高め始めると同時に、蟻の死骸の向こう側が真っ赤に染まりながら弾けとんだ。
弾けたんだ蟻の残骸が無残にも直撃したカルは顔面から体液を浴び、「ピェッ」っと小さく悲鳴を上げてそのまま倒れ込む。
蟻の外骨格がもろに直撃したみたいだ。
顔面に蟻の残骸をまとわりつかせながら倒れ込んだカルの介抱をしたいところだが、今は蟻の山の向こうからこっちに近づいてきている何かに注意を向けるしかない。
「ジン!カルを連れて後ろに下がって!」