第14話:初めての召喚獣
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カルとククルが父様と母様の生徒―――弟子?―――になってからしばらく時間が経ち、今や訓練の場が裏庭から裏の森へと変わっていた。
二人はあの日からめきめきと実力を伸ばしていき、この前裏庭でした試合では父様が相手であっても二対一で制限時間いっぱいに凌ぎきるほどになっていた。
父様から教わった武器捌きに加えて炎を纏わせることで攻撃力と威圧感がましたカルと、風の魔法とリリー直伝のレイピア捌きで相手を翻弄するククル。
真反対の戦い方をするのにも関わらず、二人がペアとなって向かってくるとさすが双子と言うべきチームワークであの父様でさえも苦戦する。
だが、父様はすぐに二人の弱点を見抜き、訓練の場を森へと変更した。
その後から行われた森での試合の全てで二人は制限時間の半分以上を残して負けている。
父様は二人の負けが十を超えるくらいの時に
「いいか、お前たち二人の戦い方は実に整っている。だが…それがいけない。それがお前たちの弱点になってしまっている」
とアドバイスをしていた。
アドバイスを受けた当初は何のことか分からず首を捻っていた二人だったが、実戦訓練で狼型の魔物と戦った時に糸口が見つかったようだった。
二人がそうやって力を付けている一方で、ボクは何やらおかしなことになっていた。
二人よりも一足先に実戦訓練と称しての山狩りを父様たちと一緒にした時、偶然にも狼型の魔獣の子供を拾ったのだ。
正確には拾ったというよりも召喚獣として契約を結んだのだが、その子はどうやら変異種だったようで、種族的に使わないはずの属性の魔法を使った。
初めて見たときは本当にびっくりした。
追いかけっこをしていたら後ろから急にバリバリという静電気が起こったような音がして、次の瞬間には追いつかれていたのだ。
その時にこの子の名前が決まったのだが今は置いておこう。
そしてあの時の衝撃はすごかった。あのトラックと同じくらいの衝撃…いや、トラックよりも強かった。とっさに身体強化と回復魔法を使っていたから無事だったけど危ないところだった。
それから魔獣の子はすくすくと育ち、悲しいことにその背丈はもうすでにボクの腰を超えてしまっている。
つい一・二ヶ月前は足元でコロコロとしていたのに世界は何と残酷なんだ。
ジンの身体が大きくなったことで父様はジンにも様々な訓練をさせるようになった。
魔法の制御やボクを乗せて走る訓練、甲冑のような装備をつけて森を駆け回ったりするのもあったが、それでもジンはどこが楽しそうな様子だった。
そして、だんだんと訓練に慣れてきたと思ったら次は夜にも訓練をすることになる。夜遅くまで訓練があったからボクもジンも訓練の次の日の昼は瞼が重くて大変だった。
ジンとの訓練はそれなりに大変だったけど、それと同じくらい充実していて楽しかった。
そう…初めてジンとあの二人が顔を合わせるまでは。
まさかあんなことになるとは考えてもいなかった。
ボクとジンが森での訓練を始めてしばらく経ち、カルとククルも遅れて訓練の場が森へと変わった。
滅多に森に入ることのない二人は戦々恐々としながらも、やはり物珍しいのだろうかキョロキョロとせわしなくあたりに視線を向けている。
そして、いち早くボクに気付いたククルがパーっと顔を明るくして駆け寄ってきたのだが―――
「あーーーー!?!?!?」
―――ボクの後ろで座っていたジンに気付き、目が座ったククルはボクの横を疾風のように通り過ぎ、咄嗟のことで反応の遅れたジンにダイブした。
こればかりはボクも全く予想していなかったから、「うひょー!」や「ウェヒヒヒ」などと奇声を上げながらジンのお腹に顔を擦り付けるククルを引き剥がすのに時間がかかった。
その後、首まで真っ赤になっているククルに変わり、カルがため息混じりにこの奇行の原因を説明してくれた。
「ククルは………かわいいものに目がないんだ。それはもう病気じゃないかって親父が心配して司祭のメリーさんに見せに行くくらいのヤバさだ。
クロウは知らないだろうけど、初めて俺らが会った後もこいつちょっとヤバいことになってたんだぜ?流石に初対面の人に飛びつくのはないみたいんだが、動物系は我慢が効かなくなるみたいでさ…」
「うぅぅ………ごめんねぇ…頭じゃダメだってわかってるのに身体が動いちゃうの…」
「いやまあ…幸いボクは被害に遭ってないからそんなに怒ってないんだけど、これからはもっと気をつけてね?
この森にも見た目だけが可愛くても結構凶暴な魔獣とかいるんだから、下手したら大怪我じゃ済まなくなるよ?」
悪気がなかったのはジンもわかっているようで、ククルに唸ったりしていないから今日のことは水に流すが、フェチと言うのだろうか。時として衝動が理性を振り切るのは見ている側として非常に心配になる。
「ごめん…ジンちゃんもほんとにごめんね………もしまた私がこんなことしたら次は噛みついてもいいから、振り払ってね。私も目一杯我慢するけど自信ないから…」
瞳をウルウルと滲ませながらもククルはグッと手を握りしめる。
決意は堅そうだ。
「いつでも噛み付いてきていいよ!」
ついでに覚悟も出来ているようだった。
「「はぁ〜先は長いぞ…」」
ボクはククルが良からぬ道に足を踏み外さないようにしっかり見張っている必要があるみたいだ。