第10話:訓練と勉強の合間に
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お風呂場へ向かうと言ったが、なんとこの家にはお風呂場が二つあるのだ。エリーたちの使用人用と父様母様僕用の少し大きなお風呂場の二つの浴室がこの屋敷にはついている。と言っても、使用人用のお風呂場なんて訓練で土まみれになった僕が入る以外には滅多に使わず、父様母様はエリーたちとみんなでゆったりと湯船に浸かっている。
しかし、今日に限っては父様と母様の壮絶な戦いで僕たち男組が使用人用の小さなお風呂場を、母様たち女組が大きなお風呂場を使うことになった。
「昼間に入るのは久しぶりだな…」
カポーン…という効果音が鳴りそうな浴槽に浸かっている父様が体を伸ばしながらしみじみと呟く。
その隣で肩までしっかりと浸かっていた僕は『確かに…』と思っていた。
ここ最近、父様は国からの指令で頻繁に王都とこの街を行き来していて、僕が起きている間に顔を見るのもなかなか無かった。稽古をつけてくれることは最近になって増えてきたのだ。
最近、父様の家にいる時間が増え、自分のしてきた訓練とも鍛錬とも言えるものの成果がきちんと出ているのだと認識できた。体格や年齢の影響で昔と同じようにとはいかないが、昔はできなかったような鍛錬ができるのは正直たのしかった。重石をつけて野山を駆け回るなんてこっちの世界じゃないとなかなかできないから、かなり新鮮だった。
「僕は父様がこの家にいる時間が増えて嬉しかったです」
「ハハハ!嬉しいことを言ってくれるな!…だがまぁ、ちょうどよかったかもしれんな」
「そうですね…僕一人で制御できるかわかりませんし…」
「ああいうのは制御するよりもたまに方向修正するくらいでいいと思うぞ…」
そういう僕と父様の目線の先には大きな湯船に感動して走って近づいた結果、足を滑らせて頭からお湯へダイブすることになったカルの姿があった。
その後、プカプカと漂流物のように浮き沈みしているカルを父様が風魔法使ってクルクルと回転させて遊んでいる。
「…ブッハァ!うわなにこれ!まだ続くの!?」
段々と回転が速くなっていき、回転の方向が一つ増えると流石にカルも起き上がるのだが、父様の悪ふざけはしばらく終わらなかった。
父様との訓練から時間にして30分ほどだろうか。僕たちがお風呂から上がってから10分ほどすると、疲れが残っているのかどこかげっそりとした雰囲気を放つククルと母様たちが何故かツヤツヤとした顔で出てきた。
母様はククルを後ろからガッチリと抱きしめて「さあ!次は私の時間ですよ!」と嬉々として言い放つ。
更に締まった腕の中でククルが「ピギュ」と奇妙な声を上げたが、母様には聞こえていないようで、そのままいつも使っている勉強部屋へとスキップ気味に歩いて行ってしまった。
「まぁ…仕方ないか」
「仕方ないで済ませていいんでしょうか……ククル変なことになってましたよ?」
「……しばらくは犠牲になってもらおう」
「「えぇ……」」
「さ、お前たちも早く行ってこい。あまり待たせすぎるとなにが起こるかわからんぞ?」
ハッハッハッと父様は笑うが、本当になにが起きるかわからないから怖いところだ。
「…カル。急ごっか」
「…あぁ、そうだな」
急ぎ向かった書斎で始まった魔法の勉強は、体をあまり動かさないはずなのに何故か父様との訓練より酷く疲れた気がした。