霊能力者編④
一緒に除霊の仕事などに付き添い親睦を深めたユウヤとサヤカ。
「…という感じですね」
あれデジャヴ?
とりあえず二日目の報告を所長にする。
「はい、報告お疲れ様。女子高生の巫女さんとイチャイチャした印象が強いけどまあいいわ。その調子で明日もお願いね。おやすみ~」
えらいあっさりしてたな。まあ単純に疲れてただけか。
よし!明日の夜はいよいよ本番だ!
儀式本番の夜。
洞窟前で急にサヤカさんが言い出した。
「とりあえずユウヤさんにいくつか術をかけますね?」
「え、怖い。呪いとかじゃないよね?」
「そんなことしません!霊が視えるようになる『霊視』、霊に触れるようになる『霊触』、霊の声が聴こえるようになる「霊聴」、霊力を感知することができる『霊感』の四つをかけます。もしかしたら相手側の霊能力者が何かしてくるかもしれないので。かけ終ったら術から身を守ってくれる御守りを渡します。」
「あ~なるほど。ありがとう。では…優しくしてね?」
「かけずらいのでやめてください!ではいきますよ?」
サヤカさんは両手を俺にむけて何かを唱え始める。
目、耳、頭、そして全身へと何かが流れ込んでくる感覚。
一瞬くらっとするが問題ない。
「もう目を開けて平気ですよ?」
反射的に目を瞑っていたらしい俺は目を開けてみる。
なんとなく違和感を覚え周りを見渡してみると、後ろをついてきている弟子二人組の他に何人か体が薄い人が見える。思わず目が一人と目があってしまった。
「お、あの兄ちゃん気付いたな」
「頑張れよ~」
「サヤカちゃんキズモノにしたら祟るぞこら~!」
「…モテモテですねサヤカさん」
「やめてください…」
洞窟は百メートルくらいの一本道のあとに大広間みたいなところがある。
大広間の奥には祭壇みたいのがあり、そこに霊が五人ほどいる。
そしてその奥には刀が飾ってある。
「あの刀は?」
「家宝の『月影』という名の刀です。実体のあるものももちろん切れますが、それ以上に霊などの実体をもたないものに威力を発揮する刀です。それとこれは『霊触』をかけなくても霊が切れるんです」
なるほど…ゲームでいうと『死者特効』みたいな感じか。
あれ欲しい…まあ家宝とか言ってるから無理だろうな。
「あなたが今回の儀式をつとめる者ね?名は?」
「はい!サヤカと申します!本日はどうぞよろしくお願いします!」
いつもとは少し違うキリッとした調子で、おばあさんの霊に答えるサヤカさん。
なんかかっこいいな。
「少し若いですが霊力値がすごいですね。これは期待できます。では後ろの者は広間から出るように」
「…えっと…かしこまりました!」
この返答で良かったのかな。とりあえず通路に控えている弟子二人と合流する。
「この通路に罠みたいな術をはれますか?金縛りみたいな。入り口から六割くらい進んだところまでいくつか」
「可能ですが、ここで向かえ討つのですか?」
「はい。まあその術は保険みたいなものです。ここは横幅が大体人間五人分くらいかな?横に並んだらうまってしまうので大勢で向かって来た場合、ある程度相手する敵が制限されます。広間とかで戦ったら囲まれたりしちゃいますからね。」
「…なるほど。すごいですね。では早速取り掛かります」
「で、戦闘になったら基本的に僕が接近して戦いますので、お二人は僕が逃がしてしまったのを術で抑えこんでおいてください。殺す必要はありません。少しの時間だけ抑えておいてくれれば、そいつらは僕が殺しますので」
「…!」
「?ではよろしくお願いします」
う~んやはり穏健派、戦闘に関しては微妙だな。
あんま頭良くない俺が思いつくことに関心するくらいだからな。
色々意見を出したりしてくると思ったのにな。
まあいい、うまくいかなかったらそれこそごり押しで。
一時間くらい弟子の坊主の二人組と無言のまま座って待っていると遠くで大きな音がなった。
きたか…
う~んやっぱ洞窟が暗いな…ここは久しぶりに…
「ナイトアイ」
よし!よく見える。
しかしこれは何の魔族の特技なんだろうか。
俺の体には何か色んな魔族の要素があるらしいからな~。
ん?全身黒なの何人か来た。
顔は黒いバンダナで目だけだしてる忍者スタイルと。
聞いていた通りの『乱獲祭』の戦闘服だ。
?罠はいくつか発動してる感じなのに普通に向かってきてるな。
誰か守りの術でもかけたな。
でも進むにつれて何人か動きが遅くなったりしてるな。
よしこのぐらいの距離なら…
「あれ?ユウヤさんは銃も扱えるのですか?」
「いや得意ではないですよ。距離が二十メートルくらいで動きが止まっている的にならほぼ当てれます。まあ見ててください」
そこからユウヤの事務的な作業が続いた。
罠の術により動きが鈍っている・止まっている相手に向かって銃でトドメをさす。
これをひたすら無表情に繰り返す。
それを見つめる弟子二人はそのためらいのなさに恐怖を覚える。
そしてたまにぬけだしてくる相手には小太刀で相手の腕や首を飛ばす。
「あれ?もう終わりか?意外と少ないな」
死体が十体ほど積み重なりユウヤはそう呟いた。
すると奥から一人の『乱獲祭』の男が現れる。
ガタイはかなりよく身長も二メートルはある。
そして右手には刀が一本既に握られている。
「これはお前がやったのか?」
そう低い声でユウヤに話しかける。
「そうですけど、あなたは…『乱獲祭』の幹部かなんかですか?」
「そうだ。私が『乱獲祭』頭領ザインだ。お前名は?」
「ユウヤ」
「そうか…ではユウヤよ…もう言葉はいらないな?では…参る!」
ザインの左手から手裏剣が飛ぶ。
それをユウヤは小太刀で横に払うが、その隙にザインが踏み込み、両手で持ち直した刀で上から切りつける。
が、それをユウヤは二刀の小太刀を十字にして防御する。
「重い…!」
そのままザインはそこを軸にして縦に一回転。ユウヤの後ろに着地。しかしユウヤは一気に前に飛びザインの間合いから逃れる。ここで仕切りなおし。
ここでザインは違和感を覚える。
あの華奢な体で自分の一撃を抑え、さらに前に飛んだ時の跳躍力…
魔法などで強化の可能性を考えたがそんな気配や素振りはなかった。
だとしたら…この男人間ではない?
その思考の途中、ユウヤは踏み込み、二刀で連撃を仕掛ける。
数分うちあった後ユウヤはある行動にでる。
連撃中、まさに刀と刀ぶつかりあう瞬間、いきなり持っている刀をポイッとはなす。
「!?」
そのザインの一瞬の油断をユウヤは見逃さない。
ザインの懐に入り込み、まずあごに下から軽く左手で裏拳をおみまい。
ザインの体がグラッと揺れ刀を落とす。
そして間髪入れずユウヤは、初めて人を殺めた時と同じように、右手をチョップの形にし、ザインの左胸を最大限の力で突く。
ザインの背中からユウヤの右腕が生え、ザインは何も言葉を発することなく絶命した。
死体を端に寄せたり休憩したりして数時間、おばあさんの霊が急に来た。
「ちょっと来てくれますか?」
「あれ?儀式は終了したんですか?」
「ええ。サヤカさんは優秀です…ですからもう一段階上にいってもらおうと思い、あなたに協力をしてもらいたいのですよ。いかがですか?」
「まあ断る理由もないですし、いいですよ」
「霊と契約?」
「ええ。サヤカさんには少々性格に難のある武人の霊をその身に降霊していただきます。かなり制御が難しい霊です。おそらくサヤカさんは一時的に身をのっとられて暴走します。そこでサヤカさんがその霊を制御するまでの間、あなたには身を挺して時間を稼いでほしいんですよ。もし成功すればその武人と契約ができ、いつでも降霊できるようになるのですよ」
「?別にどっかに閉じ込めるかなんかして放っておけばいいのではないでしょうか?」
「冷たいわね~。しかしあの霊の特性上少しそれは難しくてね。どうしてもあなたの力が必要なのですよ」
「う~ん…まあそこらへんの専門的なことは俺わかんないんでやりますよ」
「あらうれしい。ではよろしくね」
そして祭壇で目を瞑っているサヤカさんに気の強そうな短髪の女の霊が上から入り込む。
そして目をカッと開き、近くに飾ってある刀『月影』を手に取り、鞘から抜き俺に向ける。
「ひゃっ~~~~~っはっはっはっ~~~!!久しぶりの身体だぜ~!!!おい!そこの男!私の名はヤスナ!私と勝負しな!」
「わお」
「それじゃ~!いくぜ~~~~!」
両手で『月影』を持ち何度も切り付けてくる。
時にアクロバティックに、時に蹴りなども混ぜてきてユウヤは少しおされる。
二刀での攻撃は相手の身体がサヤカであるからほぼ不可能。
しかも防御に徹していると相手が切れて
「この臆病者が!本当にキン○マついてんのか?もしこの女が私を制御できても契約なんかしてやんないぞ!嫌なら攻撃してこいや!!私はうってうたれての戦いがしたいんだよ!」
「なるほど、霊の特性上ってこういうことか」
「あ?これ以上私の身体で変なこと言わないでください?だったら早く制御してみろや!それともこの男相手だとそんな必死になれないか?」
ユウヤは少し後悔した。もっと好感度を上げておけばよかったと。
それなら長引くと危険だと判断したユウヤはある作戦を思いつく。
この武人霊ヤスナとサヤカの性格をなんとなく把握しての作戦だ。
そしてユウヤは攻撃にでる。なるべく傷つけないような連撃で。
「お?いいねいいね~!これだよこれ!さあさあ楽しもうぜ~~~!!!」
そして先ほどのザインを倒した時と同じように、攻撃の瞬間、二刀を急に空中に放る。
「あん!?」
そのまま懐に入るまでは先ほどと同じ。これからだ。
ユウヤはサヤカをそっと抱きしめた。
「!!!???」
動揺するヤスナ。しかし引きはがそうにもすごい力だ。半人半妖は伊達ではない。
そして刀もとりこぼしてしまう。
「て!てめぇ!なんのつもりだ離せ!!」
しかしユウヤは離さない。
「う~やめろよ~…やめろよ~…」
段々とヤスナの声が弱くなってくる。
ユウヤは、このヤスナという女はおそらく戦闘一筋でこういったことに耐性がないのではと思いこの行動にでた。
結果、的中してこの様である。
そして耳元でこう囁く。
「サヤカさん…早く制御しないと…その…やばいよ?」
もちろんユウヤに悪意はない。ただ早く制御しないとこんな男に抱きしめられたままになってしまうよ、という意味で言ったつもりだった。
しかしユウヤ自体もこういったことに耐性がないため、途中で恥ずかしくってしまった。
ようするにへたれてしまったのだ。
その緊張で途中から言葉が変になり、色んな解釈をうみだしてしまった。
そしてその数秒後、サヤカはヤスナの制御に成功する。
サヤカの意識がはっきりした後、サヤカは座り込んでしまい顔を真っ赤にしたままうつむいてしまった。
ユウヤも若干顔を赤くしながら目をそらしてしまう。
「悔しいけど完敗だ!契約してやるよ!そしてユウヤ!覚えておけよ!」
色んな意味で疲れた…
とにかくこれでもう厄介なことはないよな?
「いや~ありがとうね~ユウヤさん。これで、霊能力が使えてさらに『降霊術』で物理の戦闘ができる巫女が生まれたわ」
「それが狙いですか」
「このまま順調に成長すれば契約霊をさらに増やせて、すごいことになりそうだわ」
「…なんかサヤカさんで実験みたいなことしてません?」
「…どうしてもこれから先、『力』というものは必要になってきます。家の教えからするとあまりよろしくないんですけどね。でもサヤカさんなら大丈夫なことはユウヤさんもわかっていることでしょう?」
「そうですね」
「ふふ。あまり物事をネガティブに考えてはダメですよ?ではもう儀式も終わったことですしあなたたちはもう帰りなさい?ではサヤカさん!そしてユウヤさん。ごきげんよう」
「え!?あっはい!ありがとうございました!」
「ではでは」
「ユウヤさん」
山道を下っているとずっと無言だったサヤカさんが急に話しかけてきた。
「どうしたんですか?」
「えっと…その何でユウヤさんは私に対していつも通りなんでしょうか」
「?言ってることがよくわからないのですが」
「だって!その…あんな姿を見せてしまって…」
「あ~武人降霊時の話か。いやだってあれはサヤカさんではなくてヤスナっていう変態でしょう?」
「それはそうですけど…」
「そりゃあ正直最初は驚いたけどそれだけだよ。別にあれで『サヤカさんマジないわ~』とか思わないし」
「…」
「う~ん…そんなに俺信用ないですか?やっぱり好感度が足らなかったか…」
「え?」
「いやなんでもないです。あ、こちらこそ作戦とはいえ抱き締めて申し訳ありませんでした」
「いえいえ!むしろ少し嬉しかったような…」
「え?」
「なんでもないです!」
「あ、そうだ。今回の依頼を通して思うところがありまして、サヤカさんに言いたいことがあるんですよ」
「…なんですか?」
「よければうちに事務所で働きませんか?」