魔法使い編⑤
魔物のアジトに着き調査を進めるユウヤ達調査班。そこで『神隠し』の被害にあったと思われる、エルフの少女を保護する。しかし研究員らしき男と魔物の群れに遭遇。さらにリュウの姉ルナも現れる。ルナは操られていて敵として立ちはだかってしまう。ルナの魔法により大ダメージを受ける調査班だが、ユウヤはルナを抱え崖にダイブし川に逃げ、残りのエルフは急いで村に引き返し巡回班に保護される。
「ではまずコーデリアさんとサヤカさんの調査結果の報告からお願いします」
そう戦士団団長のリンクスは告げた。
「はい、まず私サヤカからの報告です。えっと、エルフさんの霊の皆さんに色々話を伺ったところ、墓地に隠し通路が見つかりました」
「隠し通路…ですか?」
「はい。村の共同墓地の奥にある慰霊碑が置いてある建物にありました。その後、村の戦士団の方たちに調査をしてもらいました。すると最近誰かが通った跡等が見つかりました。おそらくその通路からエルフさんを誘拐していたのだと思います。現在はそこに戦士団の方が交代で見張ってます。あ、結界も張ってくれたそうです。その…私からは以上です」
「ありがとうございます。…なるほど…さすがは霊能力者。私達ではその通路を見つけだすのにさらに時間がかかってたことでしょう。本当にありがとうございます!」
「いえいえ…!お役にたてて光栄です!」
「ではコーデリアさん、お願いします」
「はい。…と言いたいところなんですけど、まず調査班からの報告を聞きたいのですけどよろしいでしょうか?サヤカちゃんの報告とそちらの報告を合わせて色々分析をいたしたいので」
「わかりました。では調査班からの報告を」
「はい。…副団長ガンノウン殿不在のため、代理で私コリンが報告いたします。まず…」
「…それは妙だな。ルナは変な言い方かもしれないが、威力で押すタイプの魔法使いではない。魔法力ははそこまでないが、細かい調整が得意なタイプの魔法使いだったはずだ」
「…おそらくそれは身体に何かしらの調整がされてますね。えっとルナさんは以前は明るい娘だったんですよね?」
「はい。誰にでも優しくて笑顔が可愛い娘でした」
「だとするとそのアジトは人体実験関係の研究施設でしょうね。おそらく身体の内部にある感情部分をなくして、そこに魔法部分をいれたんでしょう。そういった実験はよく行われてたことです」
「そんなことが可能なんですか?」
「細かい論理などは専門ではないので正直分かりません。ですがそういう実験が存在し、成功していた例などのデータを見たことがあります。まあそれが成功というのかはわかりませんが」
「そんな…」
「あと調査班からの報告などから推測すると…もう一人関与している人がいますね。白髪の男が使っていたという鈴…それはおそらく『魔獣使い』などの職業の方が使うものでしょう。おそらくこの最低二人が協力して実験などをしている可能性はあります。一時的に同盟を結んでいるか元からの仲間なのかはまだわかりませんが」
「なるほど…大体わかりました。とりあえず隠し通路はまだ封鎖せず、我ら戦士団が厳重に監視し誰かが来たら一網打尽にしましょう」
「そうですね…村全体の警備もさらに警戒しておきましょう。あとの心配事はユウヤとルナさんでしょうね。おそらく死んでることはないと思いますが…」
「…ユウヤさん…」
そして村で報告会が行われてる数時間前の森。
「ぶふぁ~!」
死ぬかと思った…とにかくここらへんで大丈夫だろう。体中が色々痛い…
とにかくルナちゃんを陸に…
…生きてるのか?
よしでは確認を。
やましい気持ちはない…少し胸に耳をあてるだけ…これは必要な措置…
ではでは
トクントクン
生きてる…!
これで死んでたら洒落にならなかったな…
さてどうするか。けっこう流されたが村の方角は…多分あっちだな。
てかルナちゃん起きたらどうしよう。起きる前に村に連れてく?いや何が起きるかわからん。村で暴走したらまずいし。しかももう少し暗いしな…よし少し村に進んで野宿だな。
「…」
「ん?起きたか」
めっちゃキョロキョロしてるな。この感じだとまだ実験してそんな時間たってないな。
「…!」
「待て待て!何もしないから落ち着こう落ち着こう…とにかくご飯にしよう。ね?」
「…ご飯?」
「そうそう。久しぶり?の肉だぞ~肉」
「…食べる…!」
「お、おう」
元の性格は割と活発なのかな。
しかしすごいガツガツ食べてるな、少し嬉しいもんだ、自分の作ったものをこんな感じで食べてくれるのは。おっと口をふかなきゃ。
「…!」
「あ~ごめんごめん。口ふくだけだからね?はいじっとして…よし!手もふくからじっとして~。よしよしいい子だ」
「…ありがとう…ございます…」
「どういたしまして」
この子確か15歳くらいだったよな。
少し幼児化みたいのも引き起こしてる…副作用かな。研究施設にいた時、こんな状態になったやついたしな。おそらく感情とかを代償にして…魔法あたりを増強されたのかな?
…冷静に分析してる自分が少し怖いな。
「これからここで一晩寝て君の村に一緒に戻る」
「…私の…村…?」
「そう、君の村。何か思い出せる?」
「…わからない…あの…マスターは?」
「マスターは…今はここにはいない。でもいつか会えるから」
「…そうですか…」
「うん。とりあえずもう寝ようか」
この答え方で良かったのだろうか。
村に早く戻って落ち着かせなきゃ。それで洗脳されてたら解いてもらわないと。
村へ移動中。
「そうだ、俺はユ・ウ・ヤっていうんだ。ユウヤ」
「…ユウヤ?…」
「そうそう。これからはそう呼んで。あ、リュウって子は覚えてる?」
「…知らない…」
「そうか」
とにかく害は加えてきなさそうで安心した。
しかしリュウも覚えてないか…もしかしたらと思ってたんだがな~。
ちゃんと俺の横についてきてくれるのは有り難いというかなんというか可愛いな。
後ろにおいとくとちょっとまだ怖いしな。
「げ!」
魔獣が現れた!
二匹のでっかいカマキリか…これくらいなら俺一人でもなんとかなるかな。
「…」
ルナちゃんは無言で立ってるだけ…と。
「ルナちゃんはそのまま動かないでね」
ユウヤは二刀を構え二匹のカマキリに向かう。
一匹のカマキリが鎌を振り下ろすが、ユウヤはそれを刀で横に打ち返しそのまま懐に入り片足の関節部分をを切り飛ばす。
バランスを崩し倒れかけたカマキリの頭に二刀をぶっさす。これで一匹。
残るもう一匹は…
なんと大きく跳躍してルナの前に立つ。
「マジか!ルナちゃん!逃げて!」
「…え…あ…あーーーーーーー!!!」
そしてルナは両手を前に出したと思ったら太いレーザーのようなものをカマキリに発射する。
ユウヤは伏せてやり過ごすが、カマキリは上半身がなくなっていた。
「…うう…」
「ルナちゃん…」
そうか、混乱してるのか。
マスター以外の命令、そして危機的状況に対しての行動がまだ曖昧だったのだろう。
しまった…浅はかだった。
「大丈夫…大丈夫…怖くない怖くない…」
ルナちゃんを抱きしめる。
…しかしすごい威力だ…ん?これで村に場所が伝わったのかもしれないな。
いやとにかくルナちゃんをまず安心させないと。
くそ、自分の語彙のなさが恨めしい。
「大丈夫…大丈夫…」
ルナが泣き止むまでユウヤは抱きしめていた。
その数時間後リンクス率いる巡回班が駆けつけてくれて二人は無事に保護された。
ユウヤもそれなりにケガをしていたので、村に着くなりすぐに手当てを施されそのままベッドに。
ルナはケガは軽傷だったが話ができる状態ではなかった。
しかしなぜかルナはユウヤからずっと離れなかった。
ボロボロのユウヤを見てサヤカは泣いていたが、コーデリアは「まったく…」と少しあきれていた。
「とにかくルナはユウヤ君に預けておいたほうがいいですね。暴走の心配もない。ですので残りは私達戦士団がなんとかします。コーデリア事務所の方々は決着がつくまで村にいてください」
「そうですね。あの研究員はルナちゃんのことを気に入ってた様子だったので取り返しに来るでしょうし」
「ええ。なので悪いですがもう少しの間だけこの村にいてください」
そして決戦が始まる。