魔法使い編④
ユウヤは副団長ガンノウン率いる調査班のもと魔物のアジトに向かう。その途中魔物と遭遇し、そこでユウヤはエルフ達の信頼を勝ち取る。リュウには『兄ちゃん』と親しまれるほどに。そして魔物のアジトに辿り着き調査を進めることになる。
魔物のアジトは研究所のようだった。
いや研究所『跡』といった方が良いだろう。
しかし今でも電気が通っていたりするので、やはりエルフや人間などの種族はいるのだろう。
入り口付近に五人残し、ユウヤ、ガンノウン、リュウ、そして魔法使いと弓使いのエルフで奥に進む。
「不気味だな…」
そうガンノウンはつぶやき慎重に調査を進める。
しかしユウヤはアジトの内装にどこか懐かしい雰囲気を感じている。
やっぱり何かしらの実験施設だったぽいな。
昨日のゴリラの件を考えると魔物同士の融合みたいな感じか?
あとは…エルフの神隠しとここを関連づけて考えると、なにか魔法的な要素を魔物に入れようとしているのだろうか。
う~ん…さっぱりわからん。
「お、案内図だ。…なるほど、ここは二階建てであとは地下三階まであるのか」
ガンノウンはそう言い少し考える。
「副団長、地下が怪しいと思います。わずかですが魔法の力を地下から感じます」
「そうか…別れても危険だから五人全員で地下にいくぞ」
そして五人で地下に進む。
いくつも廊下の左右には部屋がたくさんあり、まるで病院のような雰囲気である。
部屋の一つ一つを慎重に調べるが、部屋の入り口が少し大きいという点以外は何もなかった。
続いて地下二階に行くがここも同じような構造で、特におかしなところはなかった
そして地下三階…階段を下り、廊下を進むと大きな手術室のような部屋にでる。
真ん中のベッドに一人のエルフの少女が横たわっていた。
すぐに駆け寄り状態を確認する。
その少女は奴隷服のような装いだった。
「…大丈夫です!命はあります!」
「よし!じゃあコリン!この子をおんぶして運べ!」
「了解です」
あ、あの弓使いのエルフ『コリン』て名前だったのか。
昨日色々話したんだけど名前聞き忘れてたわ。
「よし!奥にも部屋があるみたいだからそこも見てみよう!」
「それは無理な話だな~」
「!?」
全員が振り返るとそこには白衣を着たエルフの男が立っていた。
長身で目には隈が濃くあり髪は白くて長い。
後ろには魔物を数匹連れている。
「誰だ!貴様は!」
「嫌だよ、何で名乗らなくちゃいけないのさ。そんな自分から情報を与えるような真似したくないし」
「貴様が俺の村のエルフ達をさらっていたのか!」
「だからそれも答える必要ないんだってば。まあいい、とにかくここで死んでもらおうか」
するとその男は鈴を取り出し鳴らす。
するとガンノウン達が入ろうとしていた部屋の扉が勢いよく開き、そこから魔物が殺到してきた。
「じゃああとは頼むよ。それと君たち、もし生きてたら上で会おうね~」
その男は悠然と歩いて去っていく。
残されたユウヤたちは、はさみうちの状態になってしまう。
そしてガンノウンが命令を出す間もなく戦闘は開始された。
陣形も何もない、とりあえず向かってきた魔物に対処する。
しかも一人はエルフを背負っている。
魔物と戦いつつガンノウンは声を張り上げる。
「入り口側に向かえ!とにかくこのはさみうちの状態を抜け出すんだ!」
そうして魔物と闘いながら全員は入り口側を意識する。
少しでも間が空くと入り口側に移動し、そこでまた戦闘。そしてまた移動の繰り返し。
「トドメはささなくていい!とにかく入り口に向かうんだ!」
ユウヤは、剣術みたいなものはかけらもなく、ただ二刀を振り回し徐々に歩を進める。
そしてリュウと魔法使いのエルフはコリンを守りつつ入り口に進む。
ガンノウンはひたすら魔物を狩り続ける。
ユウヤが入り口に辿り着き、後ろから魔物を切り続け、リュウ達もそこに合流する。
全員軽傷だがところどころケガをしている。
ガンノウンはまだ入り口についていない。
「副団長!今助けにいきます!」
「俺はいい!先に行け!早くその子を村に連れて帰るんだ!」
「!?でも…」
「いいから行け!ユウヤ殿!あとは頼んだ!」
「…了解!」
そしてユウヤ達は地上に向かう。
ガンノウンは一人地下に残り、約十匹の狼のような魔物に囲まれ、肩で息をしている。
「…へへ、来な!ワンコちゃん!俺と一緒に地獄に堕ちようぜ!」
ユウヤ達一行は入り口で待っている仲間達と合流。
簡潔に情報を伝え、これからどうするか迷っていると先ほどの男が一人のエルフの少女を連れてその施設から現れた。
「やあ、ホントに生きてたんだ。さてみんなに見せたいものがあるんだ。さ、『ルナ』?」
「はい」
「え、…姉…ちゃん?」
「この子は今のところ僕の最高傑作だよ!まあ少しだけ欠陥があるけどそれは徐々に直していけばいいしね。さあルナ!あいつらにお前の力をぶつけてやりなさい!」
「はい…マスター」
「姉ちゃん!俺だよ!リュウだよ!」
「?」
あの感情のない瞳…間違いない。実験され、そしておそらくは洗脳されている…!
「…フレイムバースト…」
なんとなく危険を察知してユウヤは左に飛ぶ。
するとさっきまで全員がいたところで大きな爆発が起きる。
大きなクレーターができ、近くの木々に火が燃え移り損害はひどい。
周りを見ると、リュウはルナに少し詰め寄っていたので、そのおかげで少しだけ爆発の被害から免れていた。
そして他のエルフはというと…二人ほど見当たらない…残りのエルフはクレーターの外で倒れていたりしている。施設から救ったエルフの子は無事だ。
もちろんユウヤも体の右側に火傷を負っている。服も破れていて少し危険な状態だ。
「…すばらしい…あ~、僕の最高傑作…!ルナ、ありがとう」
「はい…マスター…」
これはまずい…考えろ…さっさとあの男を殺すか?でもあいつに懸賞金がかかってなかったら、俺の社会的地位がまずくなるし事務所にも迷惑がかかる…退却?…でもそれはあのルナって娘がやらせてくれないだろう…魔物も近くにいるだろうし…みんなは…とりあえず何人かは目を覚ましている…リュウも目覚めているが震えているな…どうする?…ん?待てよ?
「さてルナ、死にぞこなったあのゴミ共にトドメをさしてくれないかな?あいつらは僕のことを殺そうとするんだ。ルナ?やってくれるね?」
確かこの横の崖の下は川だったよな?この施設に入る前に近くの地形を確認したから間違いない…
「…はい…マスター…」
だったら…いちかばちか…
「リュウ!お前は村に全力で逃げて村に情報を伝えろ!」
「あ?あんちゃん?」
「早く!みんなあとは頼みます!必ず生きて会おう!」
「何をする気だい?まあいいルナ、やってしまいなさい」
「…はい…マスター…」
「うおおおおおおおおお!」
「…!?…」
ユウヤは全力でルナに向かっていきそのまま抱きかかえると、崖の下の川へダイブした。
「な…あの人間…ぐっ!?」
リュウが投げた短剣がその男の右手にささる。
そして残りのエルフ達と共に村に向けて走り出す。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い…!あのガキ!絶対殺してやる!くそっ!…しかしあの人間何者だ?ただの人間にあんな動きは出来ない。魔法で強化した感じもなかった…まさか!…くっくっくっ…もし生きてたら実験材料に…死んでたら死体を探して解剖だ…楽しみが増えたな~」
半日後、ガンノウンとユウヤ、そして爆発で行方不明になったエルフ二人を除いた六人の調査班は、爆発の騒ぎを聞きつけたリンクス率いる巡回班に、森の中で発見される。
「…とにかく応急処置を!急げ!…このエルフの子は…!まさか神隠しの被害者か」
「…団長…」
「!リュウか、無理して喋るな!村に戻ってからでいい…!」
「…う…副団長が…ユウヤが…姉ちゃんが…」
「…!わかった…今は休んでくれ…!」
ケガ人の応急処置を済ませ、ひとまず見張り台に向かい一夜を過ごす。
次の日の朝、巡回班と調査班は村に向かい昼過ぎに着く。
そしてそれぞれの調査の報告会が始まる。