魔法使い編③
エルフの依頼でエルフの里を訪れたユウヤ、サヤカ、コーデリア。依頼内容は『神隠しの調査』と『魔物退治』。サヤカとコーデリアは『神隠しの調査』の為、村を調べまわる。ユウヤはそこで姉を神隠しで失った少年リュウと出会う。そして二人は戦士団の調査班に入り、『魔物退治』の為、森の奥へと進む。
ユウヤを含む調査班十名は北の敵のアジトに向けて慎重に進む。
ここの班長は戦士団副団長のガンノウン。
一般的なエルフにしては体が大きく、身長は二メートル近くありガタイもかなり良い。
左手に盾、右手にサーベルとまさに『戦士』という装いだ。
「魔法といえばエルフ!」というコーデリアの言葉を少し疑うユウヤであった。
「安心しな!魔法もちゃんと使えるぜ!まあ主に肉体強化がメインだがな!はっはっはっ!」
残りのエルフ達はスラッとしていて弓や短剣、杖などを持っている。
リュウは二本の短剣と、それよりさらに短いたくさんの短剣を所持。投擲用と思われる。
「俺は魔法はあまり得意じゃなくて、軽い攻撃系魔法と肉体強化がメイン。あとはこの短剣で戦う」
まあ調査班は戦闘が多いらしいから、魔法使いだけのパーティーじゃ危ないか。
おそらくほとんどが魔法メインのエルフなんだろう。
だからいわゆる戦士系のリュウは貴重で、危険が多い調査班に志願しても周りは止めたりしないのか。
なるほどなるほど。
そして一行は河原に着く。
河原はけっこう広く、バーベキュー大会とか余裕でできそうである。
そして一行は魔物とエンカウントする。
身長が二メートルほどあるカマキリのようなビジュアルの魔物、計五体である。
一般的なカマキリと違うところは身長と、肌の色が紫なところか。
「総員戦闘準備!…これくらいなら大丈夫だな。ユウヤ殿!安全な場所で見てな!俺たちの戦いを見せてやるからよ!」
「…人間に頼らなくても…俺たちだけで平気なところみせてやる!」
ガンノウンとリュウはそう言うとそれぞれの構えをとる。
ガンノウンは腰を低くして盾を前にだし集中する。
リュウは二本の短剣をそれぞれ逆手に持ち、魔物の群れを見据える。
その他のエルフ達は弓を構えたり、魔法の準備を始める。
そしてカマキリ達は一斉にガンノウン達に襲い掛かる。
しかしエルフ達がそうさせない。
エルフ達がカマキリ達にむけて弓を構えると、矢があるべき場所に緑色の光る棒が現れる。
そしてそれをそのまま発射。カマキリの足や腕をとばす。
杖を持った魔法チームは氷柱のようなものを空中にいくつも顕現させそれをカマキリ達に殺到させる。カマキリ達の身体を貫く・ダメージを与える。
そうしてカマキリ達が倒れたりしているところに強化を済ませたガンノウンとリュウが攻撃を仕掛ける。
カマキリ達の頭だけを狙い刺す、切るなどを繰り返し全滅させる。
この班は魔法でひるませて、戦士系がトドメをさすという戦術らしい。
…まあ王道の戦術なのかな?
でもさすがだ。
まじかで魔法の戦闘を見るのはやっぱいいな~。
少し想像と違って野蛮だった気がするが。
そしてリュウよ、そんなどや顔で俺を見るな。
ん?
「なんかすごいの来たけどあれは平気なんですか?」
「なに?」
すると少し離れた場所に新手の魔物がやってきた。
見た目はまさにゴリラである。
体調は五メートルくらいあり、なぜが二本の緑色の角が生えている。
…あんな不自然な角の色…魔物の実験体か?
こんなのもいるってことは…なんかあるな今回の魔物の件。
「ガンノウンさん、あいつは俺一人でやらせてください」
「は!?あいつは明らかにやばいだろう!ここは慎重に班で対処すべきだ」
「じゃあこうしましょう。僕が一人で突っ込んでいくんで、やばそうだったら魔法で援護してください」
「いいじゃないですか副団長。俺達はまだこの人間の力を細かく知りません。いい機会です」
「確かにそうだが…わかった!全員いつでも魔法を撃てる準備をしておけ!」
「ありがとうございます。では」
よし!久しぶりの魔物との戦闘だ。
研究所時代やグラン団時代が懐かしい。
ユウヤは全力でゴリラに向かって走る。
その速さにエルフ達は一瞬驚いたがすぐに魔法の準備を進める。
ゴリラが雄たけびと共に両腕を振り下ろす。
ユウヤはそれを右にかわすと、そのままゴリラの背後へ。
そしてゴリラの左足のアキレスけんに二刀で切り付ける。
ゴリラが悲鳴を上げたところで、ユウヤはゴリラの背中を駆け上がり、軽くジャンプ。
そして比較的やわらかい『うなじ』を二刀で上から突き刺す。
ゴリラが悲鳴を上げて暴れるがユウヤは耐える。
ユウヤをどかそうとゴリラは両手を『うなじ』にのばすが、ユウヤは二刀を抜き手を払いのける。
ゴリラの指が何本も飛ぶ。
そして二刀で何度も『うなじ』を突き刺す。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
ゴリラはそのうち動かなくなりその場でうつぶせで倒れた。
ユウヤの顔や武器は返り血で真っ赤に染まった。
「あっ川があるじゃん」
と言いユウヤは刀や顔を洗い始める。
その様子をエルフ達はただただ茫然と見ることしかできなかった。
「乾杯!」
魔物とエンカウントしてから数時間後暗くなってきたので、森で野宿することになった。
「いや~ユウヤ殿は強い!さすがですな!」
意外にもユウヤは今回の件で調査班に歓迎された。
最初はみんな正直ひいたものの、ユウヤの力を考えすぐに改める。
…なんか褒められすぎて恥ずかしい。
さてリュウ君はというと…無言で落ち着かない感じだな。
「よ、よう」
「ん?リュウ君か。まだ見張りの交代の時間じゃないけど」
「…ちょっと話があるんだ」
「その…ごめんな。今まで変な態度とってて」
「あ~…まあ別に気にしないでいいよ。これからもよろしく」
「うん。で、ものは相談なんだけど…ユウヤのこと兄ちゃんて呼んでいいか?」
「…急にどうした」
「えっと…その…素直に尊敬してるんだ。一人であんな魔物を無傷で倒したし。で、今までの態度とかじゃダメだと思って、呼び方をかえようと思ったんだ。でもうまく思いつかなくて…なんかお兄ちゃんって感じでもないし…だからすごい考えた結果この呼び方に至ったんだけど」
「そこで呼び方にいくのがすごいな」
「敬語にしようかと思ったんだ。でも…俺恥ずかしいけど『戦友』みたいな存在に憧れてて…ユウヤはそういう存在になりそうで…でもそういった存在に敬語って使わないし…で呼び方だけでもそれっぽくしてみたくて」
確かリュウ君は十四歳…つまり中二。
でもこんな正直というか、自分の非を認めるっていう行為は意外だな。
「…わかった…じゃあ改めてよろしく。リュウ」
「…!?ああ!あんちゃん!」
「随分懐かれたじゃないかユウヤ殿」
次の日、森を進んでいるとガンノウンさんがひそひそと俺に言った。
「…まあ認めてくれたんですよ」
「やっぱり大したもんだな、ユウヤ殿。リュウは俺達にもなかなか心を開かなかったんだ。これからもよろしく頼むぜユウヤ殿。あいつは危なっかしい。俺達だけじゃ見切れないところもあるんだ」
「了解、副団長」
そして一行は、魔物のアジトが見える場所に辿り着き身を隠す。
しばらくここで様子を見、可能であれば中を調べる予定だ。
「よし…異常はなさそうだ。では全員、アジトの調査にうつるぞ」