1名と72人の誓い
この状況で彼女を帰せば民衆の心が盛り下がり、討伐への士気に関わる。世論を動かし軍を派兵するには問題解決のための糸口を先送りにするにこしたことはない。
アイネクライネも同意見のようだ。
「祭り上げた悲劇の王女様が翌日、ケロッと朝帰りでは誰の面目もたたないのは当然か。しかし、当然パズズはその上をいくつもりだろう」
「そのつもりだ」
こちらの要望は通っているのだから問題はない。それどころか彼の国とは王女という政治的パイプで繋がっている。これから地上平定に乗り出すのにこれほど貴重なカードはそうそうない。
「オレ達の当面の目的は地上の内乱を平定させること。しかし、次の段階に移行した時のことも考えておかないとな」
「各国への内政干渉を考えているね。そのためにはベレトの様に各国の要人を一度ここへと上げて人質としたほうがいいということかな」
「あくまで客人として扱うだけだ。人聞きの悪い」
「しかし、その考えにそくさないルールがあるよ」
少女はこちらの指輪をさし。
「その指輪がヴァルハラへと上げる通行証を出すのは、かつての英霊の子孫達だけとなっている」
英霊の子孫。
ベレトは確かにローレンツは英霊を祖先に持つといっていた。
「ん、ということはもしや」
「そう、アイム嬢も英霊を祖に持つ者ということになる」
あの時、指輪から彼女の助けが聞こえてきたのはそういうことだったか。かつての英霊が指輪を通じて子孫の危機を知らせたとしてもなんら不思議ではない。といまさらながらに合点がいく。
「その指輪には盟主の誓いが掛けられてある。かつて73名の英霊たちが集い、誓った絶大なる魔法の大憲章がね」
幾星霜の時が流れてもこの指輪を持つ者を守護するため、子々孫々に至るまでいついかなる因果を持ってしても集うべし。
要するに英霊達が自分たちがいなくなっても、その後継者たる存在に子孫が時を超えて仕えるように魔法の契約を施した指輪ということらしい。
「指輪の契約は主たる指輪を持つ者が、その被契約者の魂に楔を打ち込み英霊の因果を呼び起こすことで完了する。簡単に言えば肉体が接触した状態で心を重ねるような、あるいは奪うような行為を伴えばいいということさ」
「それで今までああする必要があったのか」
「そう。だからここヴァルハラの地を踏めるものは限られているんだよ」




