ゴシップ
彼女の部屋はやたらとこざっぱりしていて少女趣味の欠片もなかった。机と魔法の道具、あとはベッドとタンスだけ。必要最低限のものが置かれているといった感じだ。その中でひときわ私生活を思わせるもの。木馬やガラガラといった赤子をあやしつける玩具達。それらが部屋の隅の一角へと追いやられている。
(彼女の私物か。彼女が子育てを? というより彼女があれで育てられたみたいな感じだな)
これが地図だ。と、アイネクライネは机に紙束を広げる。
魔法文字が複雑に書き上げられ二次元の紙状に三次元の立体が浮かび上がる。それは山であったり林の木々であったり、果ては都市であったり。
「カラスたちによって斥候された地域はこうやって随時更新されていくんだ」
衛星写真で見るよりもずっと鮮明で等高の傾斜すらはっきりとわかるようになっている。
「都市が持つ数字が知りたい場合はこの操作を」
指先で立体図に触れ、端末を呼び出す。人口から経済規模、その他さまざまな情報が浮かび上がる。交通の利用者数から果ては男女比から
「これほどの情報を掌握できるのはありがたいが、地上の人々もこれと同じくらいの情報精度を持っているのか」
少女は首を横に振る。
「これもかつて失われた魔法の技術。地上の人々は未だ紙媒体での情報伝達しかない。でも、どこかで隠し持っているのもいるかも」
国家、あるいは経済ギルド辺りが隠れて保有でもしていたら厄介だな。紙とこれでは情報戦のパワーバランスを崩しかねない。
「パズズが赴いたマクスウェル国ローレンツの情報は昨日渡した通りだ。あとの三カ国の情報を調べたいんだね」
「ああ」
「ところで、彼女はどうするつもりだい」
ほんの少し少女が言いよどむ。彼女というのはベレトのことだろう。
「不可抗力でここへ連れてきたが現在は逆によかったと考えている。これを見てくれ」
そういって今朝ローレンツにて配布された新聞を取り出す。
少女はそれを見てクスリと笑みを浮かべる。
「やれやれ、こうなったか」
朝食時の自分の言動をマネてくる。
新聞の見出し一面はこうだった。
英霊を名乗る悪霊パズズが現れ宮殿を強襲。第一王女ベレトベリュト・ローレンツを連れ去り逃亡。皇帝は英霊を僭称する者達の討伐に軍隊派遣計画と予算を立てると同時に各地に義勇兵を募る。
嘘ではないが自分と怪物パンドラの情報がごっちゃになったゴシップだ。
「ただ問題はなぜ王女が連れ去らわれたことを公に流すのかだ」
「確かに皇室の恥を外部にながすくらいなら情報規制を張るのが当然だね」
「英霊を名乗る野盗達の討伐はオレの要望どうりだ。更にこれだけ大々的に王族に喧嘩を売ったことになってるんだ。並みの小悪党どもは恐れ多くて、活動を鎮静化せざるを得ないだろう」
この状況で下手に英霊の名をかたればそれだけでマクスウェル国全体を敵に回しかねないからな。抑止力としては十分だ。
少女は少し思案してから。
「これには皇帝からこちらへのメッセージが含まれているというわけかな」
「ああ、これはつまり娘を返すな。という意味だと考えられる」




