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手袋

 眠らない町、ネオンの光が大地を照らし埋め尽くす。闇夜に輝く月さえもいまや街灯の光と変わらない。行きかう人々の雑踏は目的にまっすぐ歩くひたむきさと、先の見えないまよい子のような不安を感じさせている。


(ここは)


 どこかに懐かしさを覚える。ラニアケアではない。ここはそう。自分が生前暮らしていた世界だ。

どこまでも愚かでどこまでも救いようのない世界。それでも賢くあろうとし救いを求めた世界。

 雑踏のなか一組の親子に目がとまる。都会の暗がりの中、仲睦まじそうにあるいている。母と仲良く手をつなぐ少年の指はあかぎれを起こしていた。周囲の服装は冬の厚着となっているのに母子はつぎはぎの服をきている。

「寒いね」

 母の言葉に少年は

「ううん、全然さむくなんてないよ」

 そういって幼い手で母の手をぎゅっと握るのだ。  

「少しだけ待っていて。お母さんぼくに手袋買ってきてあげるね」

 膝をおとし、少年の目線に合わせた母親がやさしく諭すように告げると、彼女はその場から去って行った。

 夜の街、繁華街の路地、子供一人待たせるには少々不安な場所だ。それから一分が過ぎ、十分、一時間と過ぎてもそのまま母親は帰ってこなかった。

 

 パズズはそれを眺めながら客観的に結論づける。

 少年は母に捨てられたのだと。


 周囲の人間も気づいている。だがだれも少年に手を差し伸べるものはいない。それでも少年は待ち続けた、一日、一週間、一か月とどうやって衣食をまかなっているのか、それでも彼はその場から極力離れようとしなかった。

 少年もまた母親以外の人間に心を許したりはしなかった。時折自分に同情的な視線を向けてくる人間さえ彼は拒んだ。

 彼も理解しているのだ、それを受け入れればもう二度と母親には会えないと。


 それから数か月後、少年はいつのまにかその場からいなくなっていた。誰も彼の行方を知らないし気にも留めやしないだろう。一人の少年が消えても変わらぬ生活が流れ続ける景色。それを眺めながらパズズは考える。


(あの少年はどこへ行ったのだろう)


 パズズは寒さを感じていた。ケガを負い、失血によって失われた体温、それは手当や止血によっては補えないと知ったからだ。

 眠りから覚め、おぼろげな意識で周囲をまさぐる。なにか暖かい、それでいて柔らかい感触が手の平に包まれている。

 薄めでぼんやりとした視界はやがてはっきりと目をさます。シーツの上で自分の隣で眠っていたアイムの姿を確認したからだ。下着だけのあられもない姿で穏やかな寝息をたてている。

「あ、あの昨晩はずいぶんとさむそうにうなされてましたので、つい」

 起きあがるなり、彼女は恥ずかしがりながらシーツで胸元を隠す。確かに無意識化で寒気と同時に妙な暖かさを感じていたような気がする。

 手にも体温のぬくもりが残っている。

(ずっと手を握って付きっきりの看病をしてくれていたのか)

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