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片腹いたい

 呼吸の度に体から不気味な音が漏れる。どうやら爆風の石片は弾丸のごとく左肺を貫通したようだ。それに脾臓と腎臓を一つ潰している。

 不思議なことにこの状況でも苦痛がやがて愉悦と快感に変わっていくように感じていた。痛みが走るよりと同時に恍惚もまた体を巡っている。

 どうやら肉体も既に前世のものとは違っているようだ。英霊とはとことん戦闘向きにできているらしい。だが、これは危険だ。麻薬に似ている。これを覚えてしまっては戦いだけを求めるようになってしまう。いや既になっているのかも。少しづつ蝕まれていく恐怖感が心にあった。

 それでも失血はまずかったようだ。いきなり血を失ったので急激に体温が下がっている。もうこれ以上ここに長居することは不可能だろう。

 爆風で四散した広間で現状、意識をもっているのはベレトとパズズの二人だけのようだ。皇帝は残念ながらのびて意識をうしなっている。


「いたぞ、賊だ。あそこにいるぞ!!」


 自分たちが入ってきた入口から大挙として軍勢が押し寄せてきた。


「巨大なバケモノの死体もだ!」

 

 軍勢が状況を呑み込もうとしている最中、一人見知った声があった。 

「あいつだ! さっき中庭でオレに暴行を働いたのは! そして姫様をかどわかしたのわ」

 先ほどの雑草男だ。杖の魔力を全てパンゲアに使ったので重力の鎖から脱出できたというわけか。

「ウィード、あなた。それ自業自得じゃないのっ!」

「姫様は人質にとられておる。皆、囲め、円陣を組むぞっ」


 訓練された軍隊の動きで即座にすばやくこちらを取り囲む。装備からして魔法部隊のようだ。こちらを遠巻きに焼き殺すつもりらしい。

 ベレトを突き放し、パズズはゆっくりと移動を開始した。パンゲアの心臓に刺さったままの黒点剣を回収するためだ。それさえ終われば、目を閉じ集中しヴァルハラへと帰ることができる。

 

「動くなッ、とまれっ」


 警告の声を無視して、歩く、円陣もまたそれにあわせて移動する。彼らが持つ杖をまた魔力を宿している。殺傷力を持つ火器として十分に機能するであろうことは容易に想像できた。彼らの杖先に一斉に熱がこもる。

(回収は無理か)

 諦め、ヴァルハラに帰るために目を閉じたその時である。

「ちょっとよしなさい」

 再びベレトがくっついてきた。

 集中が乱れる。と同時に彼らもそれを予測できなかったのか、杖の力は発射寸前にまで高まっている。

 まずいこのまま帰還すれば彼女に誤射があたるかもしれない。いや、そもそもあのウィードって奴にとってはベレトを一緒に葬ったほうが都合がいいのかもしれない。

「ベレト、目を閉じろ」

 パズズはベレトを残された力で抱きしめると有無をいわさずキスをした。そして、目を閉じヴァルハラを想う。

 

 次に目を開けたとき、再び雲の上、廃墟の城へと帰還を果たしていた。

「アイネ・クライネいるか」

「どうやら、ハデにやったみたいね。そちらは」

 空気が漏れる片肺を抑えながら。

「ちょっとな、キスをしたら腕の中で暴れたんで。少しばかり肺の中の酸素をもらって大人しくしてもらった」

 酸欠に顔を紅潮させ目を回すベリトを後にして。

「今朝教えてくれたフギンとムニンに連絡を。明日のマクスウェル国ローレンツにおける情報紙を頼むと」



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