熱風、疾風
「私はマクスウェル国、選帝侯が一人にして現皇帝ビレス・ローレンツである」
王様でなくて皇帝だったか。どちらにしろこの国の主権者であることは間違いなかったのだから別に構わないが。そうなるとやはりベリトはこの国の王女ということになる。外見はそうでも性格はとてもそう思えないが。
さすがに場馴れしているのか皇帝のその声音には威厳が満ちていた。
「悪霊であろうがなんであろうが、どのみち貴様は終わりだ。もうじき宮殿外に配置されていた正規軍がやってくる。いずれも武装し訓練された手練れ達だ。貴様らに万が一にも勝機はない」
“ら”ってもしかしてオレも入ってんのか。まぁ基本部外者だし仕方がない部分もあるか。
「よしたほうがいい。知能があってもそいつに駆け引きは通じない」
こちらの制止も効かず、皇帝がわずかに体を近づけたその時、パンゲアの体が赤く光を放ちだした。とっさに≪大空の盾≫の出力を全開にする。限定解放状態であってもかなりの範囲をカバーできるはずだ。
導火線が爆薬に達するようにして、それは起きた。
ゴォオッォオオォォォォォォォォォオ
熱い風が髪をなぐ、あたり一面の空間それ自体を爆砕させるかのような衝撃が走ると同時に痛みもまた体を駆け巡る。≪盾≫の力を周囲に裂いた分、こちらにはかなりのダメージが入った。散弾のように飛び散った瓦礫の破片が五体のいたるところへと突き刺さり、骨を砕いていた。
この熱波の渦が長引くのはまずい。
この瞬間に勝負をかけ。パズズは自身の防御にまわしていた気流を攻撃のための移動に使い宙を駆けた。
≪黒点剣≫に敵が放つ熱波すらも纏わりつかせそれを炎へと変える。
ギュアアアアアォォオォォォォォォォ
≪黒点剣≫がその心臓を刺し貫いていた。パンゲアはその全身の筋肉を打ち震わせながら断末魔の叫びをあげた。革命によって倒される独裁者の彫像がごとくゆっくりと仰向けにたおれ、この宮殿を震撼させたバケモノ、パンゲアは絶命した。
あたりの空気は静まり返っていた。それも当然か、先ほどの大熱波で多くの人間が昏倒し、あるいは部屋に入る前から絶命させられていたのだから。
それでも盾を使っていくらか空気を冷やすことはできたが。
ほっと一息入れると。少し離れていたところでベリトが立ちつくしこちらを見ていた。やがれすこしづつ感極まったようにしていると。
突然こちらに抱き着いてきた。
「離れろベリト」
よほど興奮したのだろう。かなりの強さでこちらを抱擁する。しかし、負傷の体にこれはむしろ堪えた。
「ちょっとベレトよ、間違えないでベレトビュレト・ローレンツ!」
ええい、どうでもいい。




