フォアクロア
闘技場の中の空気は冷たく、呼吸の度に肺の空気が入れ替わるのを実感させる。
(それにしても何か妙だ。誰かにさっきから見られている気がする)
見渡すが周囲に自分たち以外の人影は見えない。
「ここも宮殿の敷地内だろうに」
「誰もいなくて当然よ、年に数回、イベントの時にしか開放してないもの。それにここ頑丈だから壊れないし、“あれ”をのぞいて他に何もないもの」
闘技場の真ん中には石畳のリングが置かれており観客席がぐるりとそれを取り囲んでいた。
その主賓席のあたりに英雄の像らしきものが闘技場内を睥睨するかのように立っていた。しかし、その石造の右腕の肘から先はなく、むなしく虚空に掲げているだけである。
「あれがそうなのか?」
「ええ、そうよ英霊ウルティマの像。かつて≪真なる魔法使い≫と雌雄を決した戦士。その姿をかたどった彫像」
指輪が反応している。なにかあるのは間違いなさそうだ。
像の左腕、そこには盾のようなものが燦然と輝き握られていた。
「あの盾こそスヴァリンと呼ばれ、伝説においてアメイジア様が|偽りの月日≪レーヴァテインの欠片≫をお造りなった時、強すぎた日差しから人々を守るために使われたもの。でも、誰が触れてもあの像は盾をはなそうとしないの」
「……あれをオレにどうしろと」
彼女に向き直りその瞳を見つめる。
「あれは数百年間、誰にも、それこそ王家の人間が触れても何の反応も示さなかった。破壊するのも不可能だった。ただ……」
「……ただ?」
彼女は言いよどみ、何か後ろめたそうに、
「え、ただあの盾にもちょっとした言い伝えがあるのよ。ね、お願い。もしあれを取ることができたら続きを伝えるし。あなたを英霊と認めて、お父様にも会わせてあげるから」
両手を胸の前に合わせてつくり笑いを浮かべだした。
「お父様?」
まさか父親というのは。




