英霊継承
2014年11月9日
オレは死んだ。
どこでどうやって死んだのかどうしても思い出せない。ただ頭のなかに死の実感があって、自分が死んだという事実だけが胸に落とし込まれていた。
「ようやく目を覚ましましたか、よかった。召喚の儀に失敗したかと思いました。なにせもう数百年ぶりなもので」
青い髪の少女がこちらを覗き込んでいた。その子は年端もいかないはずの外見にどこか大人びていて不思議な雰囲気をまとっていた。
「体に欠損などはございませんか、一応生前と変わらぬ姿で呼び出したはずですが」
「ここは?」
少女の問いには答えずありきたりで場当たり的なことばをつぶやいた。背中に固くつめたい感触がする。ベッドの上でないことは確かだった。あと全体的に薄暗い、まるで地下の一室にいるみたいに思えた。
「ここはかつてヴァルハラと呼ばれていた場所。死した英雄に永遠の命が約束されるはずだった聖地、その廃墟……動けるのならついてきて」
そういって少女はスタスタと自分をおいて歩き出した。
ちょっとまて、オレ確か死んだはずだよなそう心なかでごちると立ち上がり後を追いかけた。
少女は部屋を出た薄暗い通路の先、そこに待ち構えるように配置された大きな鉄扉の前で静かにたたずんでいた。
「これより継承の儀をはじめます。厳粛な気持ちで臨んでください」
まるで冠婚葬祭をとりしきる巫女あるいはシスターのように厳かにかつ静粛なしぐさで彼女が扉に触れると、重い扉はひとりでに両脇へと開かれていった。
オレは自然な面持ちでその開かれた口の中へと吸い込まれるように入っていった。
「間に合ったか、だがもう時間は残されていない。継承できる知識は戦闘に関することのみとなるであろうな」
低くそしてどこか威厳のある声音。それが暗闇に響く。
「誰だっ!?」
「私は≪英霊士≫と呼ばれた者。かつて行われた最終戦争≪神々の黄昏≫を乗り越え世界を存続せし咎を背負いし者也」
暗闇にひとつの灯りがともる。それは魂の火だとか鬼火だとかと表現できるような青白いかすかな炎であった。それが声の主であるらしかった。
「それが何かと聞いてるんだ。わかりやすく説明しろっ」
「説明せずともじきにわかる。それよりも今は英霊の力を継承せねばならぬ。私はもう眠りにつかねばならない、だがその前に世界の管理を委ねねばならぬ。それは最後の英霊であるオマエでなければ務まらぬのだ」
なにをいって、そう口に出す前に頭に激痛が走った。倒れるほどではなかったが殴られたように痛い。
それと同時に急速にまるで早送りの映画でも見ているかのように膨大な映像データが脳裏を駆け巡った。
わずか数秒、しかし、永遠と錯覚してしまうかのような感覚に襲われ一瞬、忘我状態で立ち尽くした。
「インストールは終わった、私はしばし眠らねばならない。あとのことはワルキューレに……」
その言葉を残して、鬼火はゆっくりと静かに燃え尽きるかのように消えていった。