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初めてもらった剣

小屋の隣の一番高い大王杉の木の天辺近くまで登った。

今年はここに見晴台を作った。

ここだけが村へ来る街道を遠くまで見通せるから。

もちろんジェットも隣でごろごろしている。

すごいんだよジェットは、普通に歩くみたいに垂直な木の幹を上っていくんだから。


森の向こうに砂煙が見えた。

いつものように、三台の馬車と、数頭の騎馬。

間違いない!お父さんたちの隊商だ!!


僕はロープを滑り降りた。

降りるのは僕のほうが速いよって、ジェットなんで下にいるの?

飛び降りた?


♪♪♪♪



特大鍋のシチューが温まったとき、やっとひづめの音が近づいてきた。

林の木陰から飛び出した白と黒の2頭の馬は、競い合うようにようにぼくの前に来て、ふわっと飛び降りた塊がぼくを抱きしめた。

「クリス元気にしてた?」

お母さん、くるしぃょ。

柔らかくって、あったかくって、でも息ができない。


「そんなに抱きしめたらクリスが苦しがってるじゃないか。」

笑いながら2頭の馬を柵につないでいたお父さんに言われてやっと腕の力が緩んだ。

「おかえりなさい。」

「ただいま。」「ただいまクリス。」

「おじいちゃんはどこ?」

お母さんがぼくを抱きしめたまま聞いた。

お母さんの腕にはもう力が入っていなかったけれど声が出なかった僕は下を向いてお墓を指差した。


おじいちゃんのためにお祈りしてたら、やっと隣の空き地に隊商の人たちが着いたので、大騒ぎになった。

とにかく馬達の世話をさきにしてあげないとかわいそうだからね。


お昼の猪のシチューは大評判で、そのあとすぐにお父さんは村長さんの家に挨拶に行ったのでお母さんや隊商のグレンさんに猪の狩りについてとか、僕の焼いた皿についてとかいろいろ聞かれた。

グレンさん。

何も言わないけどグレンジャー卿だよね。


そしてその日、初めてお父さんに剣をもらって稽古をつけてもらったんだ。

木で出来たまっすぐな剣。

向かい合って剣を構えたらジェットも身構えたけど大喜びしたお母さんに捕まってしまった。


木剣をへっぴり腰で振り回したらお父さんがにっこり笑った。

「重いんでびっくりしただろう。魔法が掛けてあるんだ。まず絶対に折れない。絶対に相手を傷つけない。そして持ち主の訓練に最適な重さになるんだ。」

隊商の人たちもニコニコして笑っているがものすごくあったかい笑顔だ。

「これがまともに振れれば一人前。剣は相手より先に届けばいいんだ。こうやって。」

型をひとつだけ教えてもらった。

でもこの大猪より重たい剣、本当に振り回せるようになるんだろうか?


眠れなくてずっとお話してたけど、次の日の朝はあっという間にやってきて、お父さんたちは来年また来ると言って出発した。

最後まで残っていたお母さんもグレンさんと一緒に馬を走らせて追いかけて行った。


「ぼくも一緒に連れて行って。」と言い掛けたけど我慢できた。

僕は自分で歩くから。

みんなが出発したとき、ぼくは笑顔で手を振ることが出来た


街道遠く、隊商の上げる土煙が遠ざかっていく。

そして痕から小さい土煙が追いつき合流する。

ふっと気配を感じて下を見ると村長さんがいた。


「おお、クリスそんなとこにいたのか。手紙が届いていたぞ。」

村長さんはお酒を一瓶持って帰っていった。


魔法学院から入試の案内が届いた。

準備しなくっちゃ。


夏至の神事から戻ってきた王は2階のテラスから中庭を眺めていた。

窓の下では王子が近衛騎士たち相手に剣の練習をしている。

王子の剣筋は鋭く、風を切る音が聞こえてきそうである。

加護の有り無しでこうも違うものなのか。

思わずもらしたため息をグレンジャー卿に聞かれてしまった。

「違いますなぁ。残念・・でございます。」

「そうだな。」

「殿下にせめてクリスの半分でも武人の資質があればよろしいのですが。やはり加護のある分、天は二物を与えなかったのでしょうな。」

優れた武人でもある王の目から公正に見て王子の剣はかなりのものであり、さらに成長も期待できる。

そして剣に振り回されていたあのへっぴり腰は。

驚いて見つめてしまったグレンジャー卿に逆に驚かれて見つめ返されてしまった。


「陛下お気づきではなかったのですかな。あの一人で獲ったという猪は魔獣のダイナストボアですぞ。近衛の小隊ひとつ投入しても狩る事が出来ますかどうか。それにあの剣に振り回されるということはとんでもない伸び代を持つということですぞ。」

固まる王をそのままにしてグレンジャー卿は言葉を続けた。

「陛下、実は今日、お願いがあってまいりました。うちの分家で絶えた男爵家が有りまして、孫娘の一人に婿を与えて復興させようと思うのですがよろしいでしょうか。まだ先のことですが許可をいただきたく存じます。なかなか楽しみな少年が居りましてな。」

「許す。」

「はっ、ありがたき幸せ。すぐに迎えにやらせます。」








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