黒き獣と黒き猫?
冬の間に新しい弓が出来た。
質が悪いから残しておいた鉱石から作った鉄を薄く延ばして机の過度の金具にしようとしたらしなやかにしなる板になった。
その材料で何本かのリボンのようなものを作って束にして弓を作った。
ダン!
かなり力が要るけれど問題なく引ける。
重いのは仕方がないか。
それで、多少大きい猪でも一撃で仕留められるようになった。
それで少し天狗になったのかもしれない。
小鳥の鳴き声虫の声、命の音楽が何も聞こえない異常な状態であるのに僕は森に入ってしまった。
何かが吼えている。
空気がが揺れている。
バシーン!
大きい音のしたほうへ行ってみる。
茂みを掻き分けて顔を出してみると、二つに引き裂かれた下位竜が落ちてくるところだった。
ドスッ!
あたりには引き裂かれた亜竜の屍骸がいっぱいあった。
下位竜に呼び寄せられたんだろう。
下位とはいえ、この世界の王者を誰が?
この時点で逃げればまだ間に合った。
どうしても見たくなって身を乗り出すと、あのときの黒い獣が竜の宝玉を噛み砕いていた。
そしてものすごい速さで自分より大きい竜を食べつくした。
フッ
満足そうに息を吐くと、次の瞬間僕の目の前に居た!
「おい小僧また会ったな。」
「こ、こんにちは。お久しぶりです。」
頭の中が真っ白になって、つい、さっき疑問に思ったことを口に出していた。
「硬い宝玉をなんでたべたの?自分より大きい竜をどうやって食べたの。」
「フン、変わったやつだな。あの玉は竜の卵さ、竜は妖精族で半分以上が魔力で出来ているから吸収してしまえば何匹でも喰えるさ。ところで、金色の蛇を見なかったか?」
「金色の小さい蛇なら、おじいちゃんに噛み付いたから殺しちゃったよ。」
「そうか、ゴウコウは死んだか。天地の始まりから生きて、こんな小僧に殺されたか。これはゆかいだ。」
獣は一通り笑い転げてからこっちを向いた。
「お前には褒美をやらんといかんな、我が喰ってやろう。」
たぶんものすごい速さで飛び掛ってくるのだろうけど、ものすごいゆっくりな動きに見えている。
弓を構えたのはいいけど、あせって矢を落としてしまう。
でも体は矢があるように動いていく。
自然な流れで足を踏み出し、
重心を定め、
弓を構え、
腕を上げて打起こし、
引き絞る。
胸の真ん中がカッと熱くなって紫金の光でできた矢が現れた。
魔獣までの軌道の上に光の矢を置き、
放つ。
矢が光りをまとって黒い獣の赤い口に飛び込み、頭蓋骨を突き抜けて止まる。
黒い獣はどさりと僕の目の前に落ちた。
その体のどこにあったのだろうか、真っ黒な15センチくらいの宝玉が転がり出た。
その玉を持ち上げたとき、僕の心に獣の声が直接響いた。
”お願いだ。その玉を砕かないでくれ。我の全てをお前にやる、お願いだ砕かないでくれ。”
これって卵?
”分かった砕かない。”
”ありがとう、では 我を受け取れ。
獣の体は黒い霧になって、僕の口の中に吸い込まれるよう入って消えた。
後に残ったのは黒い牙が2本だけ。
約束したから、玉を傷つけないように早く帰ろう。
狩りはまた明日だ。
大急ぎで小屋に帰ったのはいいけど、この玉どうしよう。
やっぱり暖めなければならないのかな?
充分硬いみたいだから大丈夫だろう。
そのまま抱いて寝たら、朝になって黒猫?に顔を舐められて飛び起きた。
びっくりした~。
「お前あの玉だよね?」
子猫みたいだけど鳴かなずにきょとんとしている。
とりあえずなまえなまえ・・真っ黒だからオニキスだめだ言いにくい。元は黒い玉・・黒玉そうだジェット。
「おまえ、きょうからジェットだよ。」
気に入ったのかどうだか分からないけどそう決めた。
ところでジェット、お前何を食べるんだ?
確かヤギのミルクがあったはず。
暖めてっと。
「そうか、おいしいか。」
またもらってこなくっちゃね。
?どこへいくの?そっちは貯蔵庫。何か欲しい食べ物の匂いでもするのかな?
ジェットは匂いをかぎながら猪の塩漬けの樽を通り過ぎ、ハムの下も通り過ぎ、それ牙だよ?
あの大きい牙をガシガシッと噛み砕いてしまった。
へ?
一本丸々食べてしまうと、満足したのか丸くなって寝てしまった。
もしかして、えさのために猪取りを毎日?
それはさすがに辞退したいけど必要なら仕方無いかな。
ドウシヨウドウシヨウ。
畑の世話をして戻ってきてジェットの寝かせたベッドを見る。
うわ~。
もう普通の大人の猫並みの大きさになってる。
イノシシハイチニチ5ヒキクライヒツヨウデスカ?
びっくりしすぎてあたまがとまっちゃった。
まだのこってる。
良しもう大丈夫。
漢字が浮かんだからね、ってなんのこっちゃ。
「ジェット起きた?お昼を食べたら狩に行こう。」
お昼にもう片方の牙をあげたんだけど食べなかった。
え?僕のスープほしいの?
その日からジェットはいつも僕にくっついている。
ジェット:黒玉 石炭の仲間の宝石