理論と実技
基礎一般魔法理論講座を終了してから、基礎一般魔法実践講座を学ぶ。
基礎一般魔法理論講座は授業が僅か1時間のみで終わってしまった。
後は本を読んでおくこと。
たった一人の生徒の僕に対して、図書館司書さんがお勧めの本を渡してくれておしまい。
いちいち本を選ぶのが面倒だった司書は図書館に長年放置されていた入門書と書かれた箱を渡した。
精神改造魔法概論、時空魔法基礎理論、暗黒精霊魔法概略、かんたんな契約魔法の破り方。
昔、珍しい入門書があればなんでもと言ういいかげんな注文に対して、当時の本屋が危険すぎて売れない奇書を箱に入れて押しつけたのだが、受け取った司書が人事異動したため忘れ去られて図書館の棚に放置されていた。
寮に持ち帰って、箱を開けて出てきた本に驚いた。
契約魔法を破ってどうする?
たぶん詐欺かなんかの対策用に渡されたんだ。
一生懸命読んでいると魔法の発動する気配がした。
振り向くとシェリーが本を片手に首をかしげている。
「発動したはずなんだけどなあ、なんともない?」
「なんともないってなに?」
シェリーが持っていた精神改造魔法概論を取り上げた。
読んでいたのは、恋の魔法?対象は1時間だけあなたに夢中になります?
「この本いんちきだね、掛かったはずなんだけど。」
「エッと発動しても掛からないときは・・おい取るなよ。」
「掛からないときは対象がまだ大人になっていない場合、なんだクリスってお子様なのか。それから、あっ!」
「エッと簡単そう、こうやってっと。」
?
??
「なんだシェリーもお子様じゃないか。」
それと、対象がすでに術者に対して好意を持っている場合。
ふむ。
あっまた取られた。
いまごろ効いてきたのかな本を読みながらシェリーが真っ赤になって固まっている。
あの本によれば停止中にキスしてやれば丸一日こき使えるらしい。
ふむ。
掃除させたれ。
チュッ
であぁ~
シヌカトオモイマシタ
こぬぉ~お子様め。
僕はシェリーが千才を越えているのを知らなかった。
次の日からはやっと基礎一般魔法実践講座で他の初心者に合流できた。
この講座に居るのはほとんどが魔法が使えることが分かったばかりの子供たち。
子供が加護を受けて魔法が使えるのが分かると、10才になり次第それぞれの国によってここへ放り込まれる。
つまり僕が一番年上なんだ。
僕は目の前に置かれた小皿から眼を離し視線を感じたほうを見る。
僕を見ていた女の子があわてて前を見る。
別にもてているのではない。
反対のほうをいきなりさっと見る。
ほら男の子があわてて前を見る。
みんなの視線が痛い。
僕の周りだけ結界が張られている。
自慢じゃないけど僕の魔法は高出力だ。
細かい制御は、・・したことが無い。
ふぅ、目の前の小皿のおがくずは全く変化が無い。
じっと見つめても変化が無い。
より眼をしても、
「ぐふふっ」
「そこふざけないっ!」
と、遊んでちゃだめだ。まじめにやらなくっちゃ。
魔力を集めるイメージをして、燃え盛る炎をイメージして、エイッ!
それでも、ぼくの小皿だけ火が付かない。
時間だけが過ぎていって、みんなは次の課題に移っている。
守護が水でもこれくらいは出来る、だって?
ふぇ~ん。なんで出来ないんだ。
これがもっと火が付きやすい火薬で出来ていたら、燃えろ!
《《《《ボンッ!》》》》
「ぅわっち、あち!」
ザバッ!
後ろから女の子が水を掛けてくれた。
「マリー、居たんだ。ありがとう、助かったよ。」
「どういたしまして、ついでだから。」
パチンと指を鳴らすと風が吹いてぬれた服がすっと乾いた。
「ほんとにありがとう。」
くっそ守護が金でも結界越しに水を掛けれるなんて。
いつの間にか前に来たロイテル先生が僕に言った。
「クリス君、復習して出来るようになっておいてね。」
「はぃ。」
一人だけ火をつけることが出来なかった。
悔しいね。
悔しい。
ほんと悔しい。
”結界を張っていて正解だったわ、でもおがくずが燃えなくて、どうして陶器の皿が燃えて爆発したんでしょう?ほんとに面白い子ね。”
先生の心の声は聞こえなかった。
そしてついうっかり、いつものように風を制御して、クリスの体を手で触ったのと同じ状態になってしまったマリーが真っ赤になっているのも気が付かなかった。