新しき光
サマンサ・デ・ロイテルは居並ぶ魔法の権威、重鎮たちを前に堂々と胸を張って、顔立ちは少し地味なサマンサだが胸だけは少し自信があった、堂々と研究発表会の演壇に着いた。
魔法界の学問的中心のフェアネス皇国魔法学院では研究発表が行われる。
学院の講師であればだれでも発表できるが生半可な発表を行うと学院を追放される場合がある。
その研究会の場でサマンサが超基礎生活魔法で発表を登録したことが魔術士間で話題になり重鎮たちが集まってしまった。
超基礎と名を付けるからには根源的なものでなくてはならない。
今回始めて発表するサマンサは超基礎生活魔法実践講座での研究なのでそう名づけただけだった。
もちろん重鎮たちの顔など知るはずもなく、単純に、体が不自由になってきたお年寄りの魔術士は生活魔法に興味があるのかしら?としか思っていなかった。
ユリシア学院長は会場の席について初めて周りがただ事ではないことに気が付いた。
そして目の前には超基礎とはっきり書かれた資料と左右非対称の眼鏡、それから2個の大きさの違う水晶玉が置いてある。
会場を改めて見渡すと、資料を持った重鎮たちが怒って怒鳴りあっている。
ユリシアは資料を見ることも出来ずに小さくなっていたが、気性が激しいので有名なザハン王国のロンド師ににらみ付けられて意識が飛んでしまった。
学院長が目を開けたまま気絶していることを知らないサマンサは、堂々と座っている学院長の姿に力を得て発表を始めた。
サマンサが手を上げて合図をすると、打ち合わせ通りに会場が暗くなる。
そして、白い光玉をひとつ灯す。
「これが通常の”明かり”ですが初心者が失敗するとこのようになります。」
赤く大きな玉になる。
「これは魔法が引っかかったせいだといわれますが、実のところろ”明かり”の魔力が膨張したものだと判明いたしました。これを見てください。」
赤い玉がだんだん小さくなっていくごとに色を橙、黄、緑、青、藍、紫と変えていく。
これは、”明かり”に必要な魔力を十分の一ぐらいに落としてその圧縮密度を変えて行っているのです。すなわち魔力が圧縮された密度によって光の色が異なるのです。お手元に置かれている眼鏡をおかけください。」
緑色からはじめた”明かり”は紫になり右の眼鏡のほうだけふっと消えた。
「左の目だけにこの光は映っていると思います。」
次にまた両方に見える紫になり、移り変わっていって、赤になり左の眼鏡のほうだけふっと消えた。
「これは右の目だけに見える光です。眼鏡の左右につまみがありますので”高”に切り替えてください。切り替えが終わりましたら手をお挙げください。はい、よろしいですね、明かりを完全に消します。真っ暗ですが、右の目に人影が見えていることと思います。これは赤の外側にある見えない光、すなわち”熱の光”で尊敬する師の名前をいただき、”ユリシアライト”と名付けました。また紫の外側の光は、初めて灯した学生の名をとって”クリスライト”と名付けました。それから・・・」
サマンサの発表が終わると全員立ち上がっての拍手が起こり、やっとユリシア学院長の失神が解けた。
ユリシアの目の前にロンド師が立っている。
「ユリシアライトにクリスライトですかな、すばらしい研究でした。基礎的な生活魔法ですが、奥が深いものですなぁ。いやぁよい弟子をお持ちだ。」
学院の事務局長も興奮を隠せない。
「基礎生活魔法にいくら予算を使っても良いだなんて何事か?と思っていましたがさすが学院長です。」
サマンサはこの研究発表会の重要さにはさっぱり気が付かなかったが、自分の名とクリスの名を並べる危険性を無意識の内で回避していた。
ユリシアが目を掛けるだけあって、サマンサも只者ではなかった。
そして世の中にとって幸福なことに、サマンサはこの光に関する研究の反響から、それに専念することになり、いつの間にか時間魔法への取っ掛かりを忘れてしまっていた。
まるで運命が自分に敵対するものを隠してしまったような出来事だった。
その運命も一人の少年がこんなことをたくらむのを止められなかった。
昔から物を持ってきて新しくする?
それができるなら、よけられた矢をよける前に持ってくることはできるのかな?
馬鹿なと言うべからず。
魔法の国のお話です。