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そこにいる兄と いない兄の違い

その場で合格をもらって制服や小物一式を受け取り着替えて受験生の控え室に戻るとそこにはたった一人が残っているだけだった。

制服があるのは学生は身分を問わず平等というのが一応この学院の建前だった。

実際のところ王族の子弟は専門の教師が付き、通常授業でそのほかと席を同じくすることは極めて少なかった。

制服に聖職者のペンダントをつけた彼が見つめていた紙から目を上げた。

「今終わったの?僕はダン・マシュー、よろしく。ちょっといいかい?」

「僕はクリス・デ・マーリンよろしく。どうしたの?」


「弟子になりたい先生が居れば名前を書いて願書を出せって用紙を渡されたんだけど、先生の名前って全く分からないからまだ書き様がないんだけど、みんなすぐ書いたらしくって、ぼくがトイレに行っている間にどっかへ行っちゃってね。どうしたもんかなって悩んでたとこなんだ。君がいてくれてほんと、よかったよ。」

心細くって、ははは、と笑う彼は、その大きな体と人のよさそうな小さな目のせいか、困っているようにはとても見えなかった。

「ぼくはフライシスカって先生に弟子になれってサインしてもらったんだけど、他の先生のことは全く分からないんだ。役に立てなくてごめんね。」


「ん~僕もその先生にしていいかな?なにか運命的なものを感じるんだ。」

「そんなのが意外といいんだよね。これ写す?」

「ありがとう。」

学院長の名前なんて知らなくてもおかしくないよね?

本当はそんなことで一生を決めていいのか?ってことだけど弟子にもなってみないと分からないよね。


とにかく、二人とも入門許可願いを出してお昼を食べに行くことにした。


二人並んで歩いているといきなり後ろから柔らかい腕に抱きしめられた。

「お兄様こんなところにいらっしゃったの?」

「クリス妹さんいたの?」

「エッと君誰?人?」


「え、あ、ごめんなさい。兄と同じ剣でしたので。」

僕らより3つくらい年下か、かわいい女の子が真っ赤になってもじもじしている。

「ほんとにクリスの妹さんかと思ったよ、髪も瞳も同じ黒だし雰囲気だって似てるし。」

「僕、ノルトのクリス・デ・マーリンですお兄さんを探してるのかな?」

「マリーネルト・ヴェン・ノルトです。」

「僕はダン・マシュー、ノルトの王女様でしたか、クリスもノルトの男爵家ならつながりはあるのかな。」

「僕は養子だからちょっとそれは無いと思うけど、同じ地方の生まれだから似ているとこもあるのかな。それより、迷子の王子様だ。」

「向こうで誰か人を探しているみたいだけど、君のお兄さんじゃないのか?」

「あ、兄です、ありがとうございました。」

ぺこりと頭を下げていく姿はとてもかわいらしかった。

あれが・・・妹か・・・

「クリスはあんな年下が好みなんだ。」

「おい!なんだよそれ。」

「いゃぁ、いい顔してたからさ。」

「いい顔ってどんなだよ。」

「いましてたほゎゎゎわんってやつだ。」

「もう何でもいいけどさ、早く食べに行こうよ。」


マりーは自分を探しに来てくれたこの兄をこのときだけはうっとうしく感じた。

せっかく護衛を遠ざけたんだから、もっとお兄様とお話できたのに。

入学した日、待合室で兄と同じ剣を持つ母に良く似た少年を見たときに、それが自分の兄であることを確信した。

始めてあった兄をこの手で確かめたい。

しかし建前として他人である男性に理由もなく触れることもできず、勘違いを装って抱きついたのである。

上気したのはもちろん人違いではしたないことをして恥ずかしいからではなかった。


マリーは自分の兄が双子であることを知っていた。

むしろ城の中でそれを知らない者の方が少なかった。

宮廷魔術士のマーリンが命がけで名誉を守ったことで、悪く言うものは一人もいなかったが、あえてその微妙な話題を口にする者がいなかっただけのことだ。

そしてクリスが魔法を使えることが分かった今は先祖から続く家系図にクリスの名前も書いてある。


王妃はマりーが兄のことを知ったと気づいてからはむしろ積極的に教えてくれるようになった。

お城の私的な広間に使われている巨大な魔獣の敷物は元の大きさがマりーにも簡単に想像できた。

無数にある傷はすべて兄が射た矢がつけたもの。

母はあえて目立つ糸でそれを繕ってある。

その縫い目を触りながらふかふかの毛皮に埋もれて転寝するのがマリーの何よりのお気に入りだった。


王国の地理を習っている時に教師役のパーシー卿に兄に護衛をつけることを提案したのもマリーである。

兄を英雄視していたマリーは兄が狩などで傷つくことは考えられなかった。

しかし村から一歩出ると世の中には悪い人がいる。

悪人は何をするか分からない。

かといって閉鎖的な村に護衛を送り込むとすぐに兄にばれてしまう。

ならば村を出るときに必ず通る神殿に護衛をおけばいい。

たとえ兄が出てこなくても、怪しいやつがこないかどうかを見張ることが出来る。

地図の上を指差しながら一生懸命訴えるマリーの提案にパーシー卿はきちんと耳を傾けてくれた。

護衛が兄がフェアネス皇国に行くとの報告を送ってきた。

パーシー卿を味方につけたマリーは自分のかわいさを200%つかって王から魔法学院行きを勝ち取った。

おそらくマリス兄は初級の授業などは受けないだろうが、クリス兄は受けるはず。

幼い自分がそれを受けるのはとても自然なこと。

明日からのことを考えると、不機嫌だったマリーの顔も自然にほころんだ。


撒かれた振りをした護衛士長には後でしかられた。

「陛下にはきつく申し付けられております。兄上にお会いしたいのは分かりますが、護衛をするわたし達の身にもなって下さい。」

マリーの行動は王にも護衛士にもすっかり見通されていたのだった。







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