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先生と師匠の違い

「ちょっとまずかったかな。」


ユリシアは机の上の入門許可願の山を見て少しだけ反省をした。


学院長が弟子を取った。この情報はすぐに学院中を駆け巡り、師を定めていない学生たちがユリシアの元に群がった。

学院長たるユリシアにはここの学生に指導する義務はない。

そして、どこから見ても妙齢の美女なのだが、身を飾るわけでもなくいつもしかめっ面のユリシアに近寄ることができる学生は一人もおらず、弟子になれると思ったものも一人もいなかった。

学院に麻薬を持ち込もうとした犯罪組織を末端の構成員に至るまでたった一人で殲滅してしまったときからは、さらにやむおえない用件がないと近づくものは居なかった。


そのユリシアが新入生の試験の日以来、にこやかで自愛に満ちた表情で学生たちを見ている。

いままでの学院長を知らない新入生と、怖いものを知らない王族、そして真に自分を磨きたい実力者、それから、ん~とにかく入門許可願の山が出来た。


最初は全部まとめてゴミ箱に捨てようとした。

しかし、クリスには共に切磋琢磨する友が必要ではないのか。

そう気が付いて真剣に人材を選びに掛かった。


先ず、ダン・マシュー。

試験で幻術を見せた新入生。

ファラリス正教会の推薦を受けて入ってきた、いずれ法王となるのではと目されている逸材。

うん彼こそクリスの友としてふさわしい。


次に、クリスにへんな虫がつかないように、同じ付くならルーシーにキャシー。

キャシーは護衛士のシリウスも一緒に付いてくるけど彼もまたいいわね、護衛士にはもったいない知恵の持ち主。


この辺の選択は息子の見合い相手を選ぶ母親と同じ基準で、容姿端麗、眉目秀麗、頭脳明晰と四字熟語がいっぱい付くお嬢様ランキングの上から順に選んだだけである。

それ以下は”いや”なのだ。


それから、ゴウエン、彼は暇だからと人になって学院にもぐりこんだ西海金竜王、彼をもクリスと対等の学友として選んでしまうところが親?馬鹿であるのに本人は気が付いていない。

もちろんゴウエンはみんなが出すので面白そうだから願書を出しただけである。


それから講師のザガードも学生に混じって出してきた。

彼の許可願いを破り捨ててやろうかと思ったが、クリスの件の相手にちょうどいいだろうと助手にすることに決めた。


さて、通常授業の講師陣も選び抜かねば、と うきうきしながら歩いているユリシアを一人の新入生が呼び止めた。


「フライシスカ先生、また教えていただけるようになって嬉しいです。」

マレリウス・ヴァン・ノルト、ユリシアが主席宮廷魔術士として7才まで魔法を教えた二つの加護を持つ英才。

ノルトの皇太子にしてクリスの弟。

ユリシアは彼を昔のまま彼を愛称で呼び、その肩に手を置いて顔を近づけて応えた。

「マリス、ノルトを出る時に教えられることはもうないと言ったはずよ。願書はもらったけど許可は出せないわ。火と水は専門の先生に教えてもらいなさい。」


そのまま固まっているマリスをそのままに、ユリシアは事務室へと急いだ。

マリスは素直ないい子でユリシアに良くなついたんだけれど、教えていても愛情はもてなかった。

マリスがふたつも持っている聖痕の片方がクリスにあったならと、どうしても思ってしまうのだ。

ユリシアは意識していないが、行方の分からないマーリンと王子に対して、のほほんと幸せに暮らしているマリスが許せなくなってきたというのも、ノルトから出る気になった理由の一部だった。


マリスがユリシアになついたというかまとわりついたのは、自分を見る彼女の目だった。

自分を見てくれていながらも、どこか遠く、誰か別の人を探すような目。

時折両親が浮かべるその同じ悲しい目をいつも自分に向けてくる先生が非常に気になった。

両親と先生が自分を通して見ているのは誰か、それをどうしても知りたかったけれど、その視線から伝わってくる悲しさが聞くことを許してくれなかった。

そして今日は始めて自分自身をまっすぐ見てくれた先生に、自分が拒絶されてしまったことで頭の中が真っ白になってしまった。

先生はもう僕を特別なものとして見てくれていない。

それが悲しかった。

先生の軽やかな足音がなぜか心に残った。

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