炎よ天高く
「俺たちエルフ、妖精族は半分精霊で永遠の命を持つんだ。だからこんな姿にされても生き続ける。」
「キッド、君のお父さんがキッドは自分の子供だって言えば君のお母さんは自由になれる。でいいんだよね。」
「その通りなんだけど、父さんが残した笛を吹いても来てくれないんだ。」
「もしかしてキッドはその笛をここで吹いた?」
「当たり前じゃないか。」
「もしかして君のお父さん、この森の結界で入れないんじゃないか?」
「え?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・考えたこと無かったよ。そんなこと。」
「君のお父さんとお母さんが会ったと言うのは結界が緩んだ日だろ?なら、緩まないと入って来れないじゃないか。結界の外で吹いてみたらどうなんだい?」
「あ、 あぁ 結界はその通りだと俺も思う。でも他のエルフはこの森から出ないから父さんが来ても証明できない。」
「じゃあ、ちょっと結界に穴を開けるから笛を吹いてみたら?」
「ちょっとって穴なんて不可能だよ!それにもし穴が開いたりしたら全部のエルフを敵に廻すんだよ。」
「この結界って外側からは破れる気がしないけど、内側からなら何とかなりそうだよ。それにすぐ塞がりそうだからあまり気にしなくていいんじゃないかな。矢が貫けなければ、流れ矢です、ごめんなさい。でいいと思うし、破れて何も怒らなかったら逃げればいいさ。この森から出てこないんだろ?」
「でも・・」
「間違ったことは何もして無いさ、最悪ふたりで責任取ればいいんじゃないか。付き合うよ。君のお母さんをこのままにしておくなんて許されないことだと思うよ。」
キッドが答えを出すのに少し時間がかかった。
「やってみる。巻き込んでごめん。」
「気にしないでいいよ。」
「じゃあ、撃つ。準備はいい?」
「たのむ。」
ジェットも大きくなっている。
心を平らかに。
ぼくは自然な流れで足を踏み出し、
重心を定め、
弓を構え、
腕を上げて打起こし、
引き絞る。
まっすぐ天まで続く軌道の上に紫金の矢を置き、
放つ。
矢が光りをまとって走る。
キッドは一生懸命笛を吹いてる。
遠く上のほうで、パリンと結界に穴が開く音がした。
何も起こらない。
いや殺気が満ちた。
「クリス、君だけでも逃がすよ。巻き込んじゃってごめん。本当にありがとう。」
こんな結末は許されない。
いや僕がゆるさない。
僕たちを取り囲む輪はなかなか縮まらない。
エルフたちには見えているのだろう。
僕から立ち上る紫金の炎、ジェットから立ち上る漆黒の炎、そしてキッドから立ち上る朱金の炎。
武器を構えるエルフたち。
緊張の限界を超えて矢を放とうとしたときだった。
ごおぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぅ~
本当の炎がうなりを上げてキッドのお母さんの大木を包んだ。
「かあさ~ん」
あいつらなんてことをしてくれるんだ。
鉄の弓がはじけとび紫金の魔力の弓に置き換わる。
鏃は正確にエルフの族長のほうを向いた。
?
彼もあっけにとられて炎を見ている。
?
だれがやったんだ?
ゴウゥ~
何も無かった空中に炎が走り、中から人影が現れた。
誰に説明されなくてもその存在が火の精霊王であることが理解できた。
取り巻く炎、気品あふれ力強い姿。
この人がキッドのお父さん。
エルフたちは全員武器を置き片膝をついて臣下の礼をとった。
「わが子よ寂しい思いをさせてしまった。すまぬ。」
王たるものが頭を下げた。
バチバチッ
燃え上がっていた大木が真っ二つに引き裂かれ、中から炎の鳥が飛び出し、キッドの前に舞い降り女の人の姿になった。
キッドのお母さんだ。
二言三言キッドにささやいてまた炎の鳥の姿になる。
そしてキッドのお父さんも炎の鳥になり、二人並んで飛び去った。
僕の手の中にはいつの間にか一振りの剣があった。
誰ひとり動こうとしないエルフたちを横目にキッドに尋ねた。
「終わったんだよね。」
笛と一枚のカードを持ったキッドはくしゃくしゃの顔で頷いた。
「じゃあ行こうよ。」
話がややこしくなる前に固まったままのエルフたちを置いてジェットに乗って森の外に飛び出した。
僕は僕のままでいいんだ。
もう少しで精霊王に加護をくださいって頼むとこだった。
うんやっぱりこれでいいんだ。