第六話 そして誤解が生まれた
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ララエルは焦って居た。
サハラの居る部屋を出て、足早に廊下を歩く、一度角を曲がり少しすると玄関ホールまで来た。 ここは主に商人や旅人が使う少し高めの宿だ。その宿の受付に少し出かけて来ると伝え数ブロック離れた場所にある冒険者向けの酒場へ向かった。
基本的に彼女は騒いで飲むのは得意では無いのでこういった場末の酒場はあまり好きでは無かった、しかし今はそのドアを押し開ける、冒険者向けなのでドアと言ってもウエスタンドアな為開ける前から中の様子は見えている。
彼女が入った瞬間周囲で「フュー」と下卑た声が聞こえる、やはりエルフの美貌は目立つのでこういった場所では良くある事だ。しかし無視をして居れば大抵はすぐに興味を失ってくれるので今回も無視をしてエリック達が居るテーブルへ向かう。
「彼女、目を覚ましたわ」
椅子に座りつつ言う。
「おつかれ、やっとど派手なローブを着た眠り姫が起きたか」
エリックがやれやれといった感じで答えた。
ゲームでは装飾が無かったり無駄に光ったりしていない装備はかなり地味な部類なのだが現実世界ではやはりオレンジ色のローブは非常に目立つのだ。
「アレは派手っすよね、何かの罠かと思ったっすよ。 それはさておきあの子、まさか腕をちょっと怪我しただけで死んじゃうんじゃないかって位寝込んだっすね」
チャスはおどけて肩を竦めた。
「エリック、それ冗談になって無いかもしれない」
ララエルも、まぁローブは派手だわね、と心の中で同意する。
「え、なにが?眠り姫?」
「ええ、彼女、もしかしたら王族かもしれないわ」
真剣な眼差しでそう言う。
あっけに取られエリックとチャスは顔を見つめ合い
「ぶ、ぶあははははははは!」「ぷは! あははははは!」
二人して大爆笑した。
「すげー、チャス! すげーよ! ついにララエルが冗談を覚えたぜ!」
「っすね! しかもかなりのセンスっすよ!」
テーブルをドンドン叩きながら目に涙を浮かべながら笑う
「お、王族って……あれがか? あはは、あり得ないだろう、あははは」
「っすよ、それなら兄貴が王様の隠し子って言った方がまだ真実みがあるっすよ。 あっはっはっは」
しかし、なおも真面目な表情のララエルに気がついた。
「あー、ごほん。 チャス、どうやら真面目な話らしいぞ」
「らしいっすね、それならちょっと奥の部屋を借りた方が良いっすね。 ちょっと渡りつけてくるっす」
「ああ、頼む」
酒場の奥は個室になっている、だがすでに全部埋まって居た。 が、チャスが鋭い目つきで狙いを定め一つの部屋に入っていき二~三会話して部屋を譲ってもらった。
どう話を付けたのか分らないが何故か相手から礼を言われている。
「OKっす、こっち来て下さい」
※ ※ ※ ※ ※ ※
店員にとりあえずララエル用の果実酒と自分たち用のラム酒を頼み個室に入った。
すぐに店員が持ってきたので受け取り。
「ふー、落ちついたな。 で、ララエルどういう事なんだ?」
「ええ、まず最初に確認すると、彼女は一般人が立ち入らない森に独りで居た。 しかも所持品は長杖意外に何も持ってなかった。」
「そうっすね、あの後森の中まで探ったっすけど人が居た痕跡は全く無かったっすね」
サハラを保護した後は合同で護衛を請け負ってるもう一つのパーティーの斥候も連れてチャスが森の奥まで念入りに調べて居た。
「まずそれが一つ目ね。 そして二つ目、彼女あの距離で矢が当たったから実は魔法が使えないんじゃ無いかって話になったけど、さっきなんと瞬間回復魔法を使って自分の怪我を治したわ、しかも触媒を何も使わなかったわ」
(サハラは笑って誤魔化せたと思って安心しているが全く誤魔化せていなかった)
「なんだって!? そいつはそこそこ大きな教会の司教レベルの術じゃないか!」
さすがにエリックも事がただの迷子を拾った程単純では無い事に思い至る。
「で、これもさっきなんだけど三つ目ね、彼女の名前を聞いたのよ、そしたらなんて言ったと思う? サハラ・ウィッチ・リバーランドって名乗ったのよ!」
言って、さっき持ってきた果実酒を一口ゴクリと飲んだ。
「ま、まさか……、さすがにそれは偽名だろう?」
「さすがにそうっすよね、あの子、王族って程美人じゃないっすよね」
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若干チャスが失礼な事を言っている様だが実際問題王族は絶世の美男美女揃いだ、サハラも可愛い顔はしているは居るのだがやはり次元が違う。
例えて言うなら王族はテレビや雑誌のトップモデル、町を歩けば誰もが振り返る。
一方サハラは学校などでどのクラスにも一人は居るアイドル的な可愛さ、町を歩いていても好みだなと思った人くらいしか振り向かない。
そんな感じなのである。
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そしてこの世界、主にこの付近の人間や亜人の国では平民に名字は無い、なので名乗る時はララエルみたいに生まれた里と自身の名前を同時に言う。 それかもう一つの名乗り方として人間族に多い言い方だが「○○の子 ○○だ」みたいに親の名前を先に付ける、主にこの二つの言い方か又は両方混ぜて言うのが普通である。
そして名字は貴族から付けれるのだが王族以外はミドルネームは付けられない、なのでサハラの名前はこの世界の常識では王族の名前と言う事になってしまう。
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「じゃあ次の四つ目を聞いて、あの子の所持品とか調べた時に気がついたんだけど、あの子の着てたローブ、あれミスリル糸の一級品よ。 どういう技術か分らないけど何故か普通の布に見えるような加工がしてあったわ、けど触ればさすがにわかるわ」
「はぁ!? ミ、ミスリルだって? しかも糸に加工した上にローブに縫製するなんて一体どんな工房でどれ程の手間暇を掛ければ完成するんだ!?」
「帽子も同じね、それにあの長杖もミスリル製だったわ、しかも先端の石はレッドドラゴンアイね」
「す、すげーっす、その装備売れば王都の一等地に邸宅が買えるっすね」
二人が興奮した様子でその価値を計算して居るのを手で制して。
「で、さっき色々話してる途中に気になる事を言ってたのよ。 どうやら彼女は両親を亡くしてるらしいのよね」
そこで一旦言葉を区切って
「今までの事をまとめて、私の予想を言うわね」
サハラは何処か遠い国のお姫様で何不自由無く平和に育った。 しかも幼い頃から神聖魔法の教育を受けてその才能も開花させた。 しかし彼女が13になった時(サハラは日本人顔でキャラを作ったので西洋風のこの世界だと幼く見られる)王家の中で権力争いが巻き起こった。 そしてサハラの家は争いに敗れ両親は処刑された、しかし幼いサハラまで処刑するのは心苦しかったので国外追放処分にする事にした。 その時せめてもの情けでサハラの家の家宝を装備させてから転送魔法で飛ばされ、あの森にたどり着いた。
「うぅむ、王家が権力争いで血みどろの争いをするのは良くある事だし、処刑しなかった者を魔法で追放するのもあり得ない話じゃないな」
「でしょ? エリック」
「そんな偶然があるっすかね~、でもそうで無いとミスリルの説明が付かないっすね~」
二人も何だか彼女がほんとに王族なんじゃないだろうかと言う気になってきている。
「それに自己紹介の時あの子ベットの上で足を折りたたんでお辞儀するって言う不思議な事をしたわ、あれはきっと遠くの国の作法なんだと思うわ」
「兄貴、俺っちだんだんあの子が王族だって信じたくなって来たっす」
「ふむ、俺もぐらついて来たが……。 実際の所、王族だろうと無かろうと彼女の今後を考えなければならなそうだな」
「最後の最後に一つ付け加えるとね。 あの子もの凄く常識が無さそうよ?」
「おまえが言うなって!」
「おまえが言うなっす!」