第一話 バグかウイルスか?
「・・きて・・・お・・て・・・」
(う~ん、なんだかうるさいな~……)
「もー! 二人とも起きてってば!」
(うぅぅ、プラーミャが何か騒いでる気がする。寝むいんだから静かにして欲しいよね…………ん? あれれ? そういえば、いつの間に寝ちゃったんだろう)
どうもよく状況が理解出来ないなと思いつつもとりあえず起きる事にします。
「う~、プラーミャおはよ~」
起き上がりながら目を擦りつつ言いました。
でも、いつもは高飛車キャラで通してるプラーミャがなんだか焦ってるみたいです。
「やっと起きた! おはよどころじゃないよぉ! それにレノアはまだ起きないの!?」
耳元でギャーギャー騒いでるのをどこか遠くの事の様に聞きながら目を覚まそうとします。 まずは横に転がってる愛用のロングスタッフを拾う、うん、ミスリル製の杖がひんやりして気持ちいい。
(あれ……ゲーム内って安全の為、五感は何かに触ってるとかそれ位しか感じない様になってた気が……まだ寝ぼけてるのかな)
そのまま立ち上がって伸びをしつつ周囲を伺ってみます。 どうやらここは草原のど真ん中みたいですね。 見渡してみてもどの方角も一面の草原です、アフリカとかこんな感じなのかな~? とか思ってるとレノアがどうやら起きそうです。
「うぅぅぅ、あれ、ここどこー?」
眠そうな目を擦りながら上半身だけ起こしてキョロキョロ辺りを見回しています。
「とりあえず起きて起きて、まったく二人ともなかなか目を覚ましてくれないんだからぁ」
と、プラーミャは腕を胸の前で組みながら若干頬を膨らませて言いました。 見た目が少女なので(中身は気にしない)ちょっと可愛い、こういう時って頬をつつきたくなるよね。
で、レノアも伸びをして目を覚ましたらしく、いつものぱっちりした目つきになりました。
プラーミャは二人がしっかりと目を覚ますのをソワソワと落ち着かない様子で待っていたのですが、やっと二人とも起きたので現状を話し始めました。
「で、さっそくだけど驚かないで聞いてね、私は二人よりちょっと早く目が覚めた訳なんだけどさ、二人がなかなか起きなそうだったしさ、リアルで野暮用思い出したからちょっとだけ落ちようと思ったんだ」
「うんうん、それから?」
適当に相づちを打ちつつさらに話を聞きます。
「でね、すごい事に気がついちゃったんだよ! あ! すごい事って言っても良い事じゃないからね? ああ! そもそも実は自分だけかもしれないんだけどさ」
どうも気が焦ってるらしく空回りして中々話が進みません。
「だからマスター、なんなんですってばー」
「だーかーらー! システムメニューが開けなくなってるんだよ!!」
「「な・・・なんだってー!!?」」
二人して驚きすぎてハモってしまいました。
急いで自分でもメニューが開けないか確かめてみます。本来ならメニューは左手の人差し指と中指だけ立てて手首を横に振ればウインドウが開きます。
左手を振ってみます、開きません。 もう一度やってみます、また開きません。 念の為右手でもやってみます、やっぱり開きません!
「ば、バグなのかな?」
メニューが開かないなんて致命的なバグはさすがに聞いた事が無いけど自分が落ち着く為にも可能性を口にしてみました。
「や、やっぱあれだったんだよ!」
レノアが深刻な顔をして続けます。
「きっとあのスキルはやっぱりウイルスだったんだよー!」
「ちょ、ちょっと不吉な事言わないでよぉ、て言うか最大の問題はメニュー開けないから落ちれないしスキル使えないから帰る事も出来ないんだよ!」
「ああ!! ど、どうしよう!? あ! GMコールは? って、それもシステムメニューから選ぶんだった-!」
通常はメニュー内にあるスキルリストを開いてそこからスキルを選んで操作してるのです。ちなみに最初のメニューウインドウを開く所だけ手を使って操作して、その後は目で見て焦点を合わせる事で選ぶフォーカスクリック方式なのです。 余談ですが、考えただけでスキル等を選べる様にするシステムはもう少しで開発出来るらしい来年か再来年実装予定と公式にアナウンスしていました。
(う~ん、なにか他にもスキルの使い方があったような…………あ、そうだ! ほとんど誰もやらないから忘れてたけど、口頭でスキル名を唱えれば使えるんだ)
「ねえねえ、たしかスキルって名前唱えても使えるんじゃ無かったっけ?」
「「それだ!」」
今度はさっきとは別の二人の組み合わせでハモってます。
「さすがは私のサハラちゃんだ」
「いやいや、まったく、さすが俺のサハラだよ」
「二人とも、それものすっごい恥ずかしいからやめて下さい」
帰れる目処が立った事で少し皆の心に余裕が出来ました。そうなるとやっぱり気になるのはここが何処なのか、そして何かあるのだろうか、と言う事ですね。
「じゃあ、何とか帰れそうだしちょっと探検してく?」
プラーミャがだいぶ余裕を取り戻した顔で提案してきました。
「いやー、それも良いんだけどさ、やっぱメニュー出ないのはおかしいし一旦帰ろうよ?」
「そうですね~、一旦帰って再起動した方が良さそうですね~」
「そっか、それもそうだねぇ、じゃあ、一回帰ろっか」
ちょっとだけ残念そうな表情をしつつ、プラーミャも帰る事にしました。
了解ー、とそれぞれ答えて帰る準備をします。
「え~とね、使い方はたしか他の言葉と区切ってハッキリ発音すればそれだけで良かったはずだよ~」
「おーけーおーけー、じゃあ帰ろっか」
うなずき合い、それから三人で同時に唱えます。
「「「【リターンホーム】!」」」
スキルが発動し、一瞬姿が陽炎の様に揺らめいたかと思うと、次の瞬間には揺らめきと共に術者も消えてしまいました。
そして、サハラ達はメニューが開けない事が、バグやウイルスよりももっと深刻な事態だと知る事になるのでした。