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騎士の嫁入り  作者: 純太
第1章
7/38

大国へ来てみたものの

 アルジナを出てから1週間。

 正直ユエルは暇を持て余していた。

 普通であったらユエルの歓迎の宴や、貴族や大臣に神官たちといった国の中枢を担う人たちとの面会、その他社交の場があるのだろうが、遠路遥々やってきたユエルのことを気遣ってか、疲れを癒してもらうためにそういったものを行わないよう自制しているらしい。

 そのためユエルがこの国に来て面会したのは、皇帝補佐官のヨハン・ロシェットくらいだ。

 それどころかジャミースタ皇帝陛下にもまだ一度もお会いしていない。

 刺繍や編み物といった趣向のないユエルには、毎日ただただ窓辺の椅子に腰を掛け、外をボーと眺めるくらいしかやることがなかった。

 そうなってくると思い出されるのは剣を振り回していたこと。

 この時間はいつもだったら体幹作りに走りこんでいるな、今までだったらこの時間は隊訓練の時間で隊長と剣を交えているな、などなど、空いた時間につい神殿での暮らしを考えてしまう。


「もしかして、これがホームシックというやつだろうか」


 この考えに至った瞬間、ユエルは首をガクリと折った。

 このままではいけない。完全に気が滅入ってしまう。

 ふと、窓の外に目を向けると空は晴天。

 思い立ったが吉日。ユエルは立ち上がるとスカートの裾を翻し部屋の扉へと向かった。

 ユエルに与えられたのは城の一角にある上等の客間。婚約者候補であるユエルはまだまだ客人扱いだ。

 ユエルの動く気配に気が付いたようで、続き間になっている使用人の待機部屋から侍女のカイネが出てきた。

 カイネはジャミースタからユエルにつけられた侍女で、穏やかな空気を持つ少女だった。


「お出かけですか?」

「少し庭を散歩して参ります」


 にこりと微笑みユエルはスカートの裾を持ち上げた。

 ここに来てからは女の子らしいデザインの服しか着ていない。主に裾の長いドレス。

 今までとことん縁遠い存在であったレースとリボンを使われたドレス。

 初めこそ着慣れない服に色々と四苦八苦したが、今はもう裾の扱いはお手のもっと言ったところだ。


「お供いたします」

「一人で結構です」


 ユエルは素早くカイネを振り返ると、彼女の言葉に被さるように拒否の言葉を乗せた。


「ですが、一人では迷われますよ」

「その時は近くの方に聞くから大丈夫よ」


 ユエルはそう言うとニッコリ微笑み後退すると、扉に手をかけ


「ごきげんよう」


と手を振ってサッとその場を去った。

 部屋に残されたカイネは止めようとした口を開いたままにユエルを見送った。






 庭に下り立ったユエルはグッと背を伸ばした。周りに誰もいないことは確認済みなので安心して気を抜ける。

 与えられた自室にいても、侍女は常に隣室で控えてこちらの動きに意識を向けているのでむやみやたらと気は抜けない。本当に一息つけるのはベッドの中かお手洗いくらいだ。

 ジャミースタに来てからの体は鈍りきっており、ユエルは肩を回したり屈伸をしたりと体をほぐし始めた。

 回した肩からバキバキという音が聞こえる。


「あー体が随分固まってるなー」


 散歩をしただけでいい運動になるだろうか。

 剣を振れれば一番いいんだけどな。

 そんな事が出来ない事は分かっているが。もし、剣を振るったことが知れればリベラに大目玉を食らうばかりか姉の溜め息も貰うことになるだろう。

 ユエルはそんなことを考えながらひたすら歩いた。

 剣のことを考えながら歩いていたせいか、耳に金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。おそらく剣の音。


「近くに修練場があるのかな」


 毎日のように聞いていたあの音が、近くでする。

 少しだけなら覗いてもいいだろうか。

 剣をユエルが振るうわけではない。ただ道に迷ったフリをして修練場へ行き、見学すればいい。

 計画は立ったとばかりに「よし」と拳を握り、ユエルは音の元へと足を進めたのだった。


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